最終章④
澄み渡る夜空を上昇しながら逃げ続けたアドナイであるが、目的地であろう孤島を見つけたところで高度を下げて降りようとする。
ユーハに抱えられた俺は追いつき、そして追い越したところで、アドナイの向かい側に回り魔法でその行く手を塞ぐ。
「ルクス・アバドン!」
今回の場合は地面がないため空中の指定したところから光の柱を発生させてアドナイに当てようとする。
しかしこれも予想していたようにアドナイは的確な旋回をして回避し静止した。
「しつこいね。そんなに俺を殺したいの? 異常者じゃん」
「この期に及んでそんな論点ずらしに何の意味がある?」
「ないね。けれど自分が正しいように振舞える」
「本質を伴わない正しさに意味はない」
「その通り、けれど本質を伴った正しさには旨味がない。あとちょっとだ。あと少しで僕の勝ちになる。止めてみなよ」
「ユーハ、回避行動は全て任せる」
「ええ、仕留めるのは任せましてよ」
そこから空中戦が始まった。
互いの死力を尽くすが如く光と闇の衝撃が夜空に何度も響き渡る。
力は拮抗していた。
けれどアドナイの方はやはり人の身で権威を闇魔法に変換して戦う負担が大きいのかところどころで息切れを見せている。
だがこちらもユーハの方が俺を抱えての高速の回避行動を取り続ける負担で長くはもたなそうであった。
「ここらが狙いどころかな。ダークホール」
こちらが急速な回避行動を取った後、静止しようとしたところで近くに強烈な吸引力を持つ闇の球体が出現する。
それによりユーハは俺を支える力をキープしきれずにつるりと離してしまう。
「しまっ、キューセイ」
「ハハハ、僕の勝ちだ」
俺は真下の海へと落下していく。
そしてアドナイは孤島へと向かっていく。
……負けた。そう思った矢先にルシフェルからの声が聞こえてくる。
——いや、勝ちだ――
ルシフェル……まだ何か策があるのか?
――いや、なにもあらぬよ。ただ唯一神が崩壊したことで3つの世界はより近くとなった。だからこそ本来ならまだ先のことさえも今なら成せる――
……そうか、なら最後の契約を結ぼう! 俺とお前を1つに!
それにより俺は完全としてルシフェルの依り代となった。
悪魔化して少し大人びた身体はより成長し大人となる。
そして背中には堕天した黒い翼が生えたのだ。
落下する中でたった今生えた翼を広げて制御を取り直して海面スレスレのところでターンし飛行することに成功する。
そしてそのままアドナイを追った。
アドナイはその孤島にようやくたどり着いたというように足をゆるりと着かせた。
「さて、あとは……はっ!」
わずかな安心感もつかの間に警戒するも遅い。
「フォール・オブ・サタン!」
光の大剣を生成しながらアドナイへと突っ込み振り払う。
やつはそれを闇のシールドで防御しようとするも間に合わずに胴体を大きく切り裂かれた。
「ぐふっ!」
しかし致命打にはなっていない。
咄嗟に態勢をズラして真っ二つにされないようにしたのだ。
俺もまた孤島へと舞い降りアドナイに大剣を向ける。
「その姿……完全な依り代となったのか」
「そうだ!」
「は、あははは! この局面でそうなるか! 神を殺し人間へと戻った僕を完全な悪魔となった者が追い詰めるとは。つくづく真逆だね、僕らは」
「これで終わりだ」
「そう、終わりだ」
そこで空間が一瞬にして変わる。
夜空の景色があることに変わりはない。
けれどこの感覚はヌミノース世界じゃない。
踏みしめる足元や周りの景色は若干の相違あれど孤島のままだ。
しかしそこには現実にしかないボートや建物があった。
「現実にっ」
「そう! 君ごとこっちに帰ってきた! 本来なら僕だけこっちに逃げるべきだったけれど完全な悪魔、ルシフェルそのものとなったなら話は別。ここで始末しておいたほうが安心できる」
そう言いながらアドナイはポケットにしまっておいた銃を俺へと向ける。
俺は自身の手や体を眺める。
ルシフェルと完全に同化したとはいえやはり現実世界では人間の姿に戻るようだ。
「その姿では現実で物理干渉できる光の力を使えはしない。だからだよ、僕の勝ちは決まった!」
詰め切ったと言わんばかりにアドナイは勝ち誇る。
確かに以前のアドナイならそうだろう。けれど奴は失念している。今の自分がなんであるかを。
「……いや、お前の負けだ」
そう宣言し、俺はアドナイの意識を視る。
やはりだ。契約していたアドナイだからこそ隠せていた意識が今は隠せていない。
つまり本心という意識を隠し通そうとした能力こそ唯一神が最後に持っていた1%なのだろう。
それを引き継がずに殺してしまったからこうなっている。
俺は同化したことで最大に出せる力をもってアドナイの意識を全て破壊しつくした。
「がっ! あああああああああああ! ぼ、僕の意識が……やっと自由を得られたばかりの僕の意識が……唯一であるべき人格が消えていく! あああああああああああああああ!」
その絶命の叫びのあとアドナイは白目を向いてその場に倒れ伏した。
身体的にはまだ生きている。
けれどその内にあるべき意識、人格、魂は完全に破壊されてもはやない。
「アドナイ・アラー、神の束縛から逃れて自由を得ようとしたその意思自体を否定はしない。けれど守ってもらってもいたんだ。どれだけ矮小な思惑があれど……その恩を仇で返しても忘れてはならなかった。いや、恩とも思ってさえもいなかったのかもしれないな。これが結末だ。世界はやっと唯一から脱して新たな明日を始められる」
そこで地平線の海面から日の出が上がる。
まるで俺の言葉を表すかのような未来を切り開かんとするほどの眩き朝日であった。
「あれ、そんなに長い時間ヌミノース世界にいたっけ? ……あ、そうか。ここ海外か」
スマホで時刻を確認するとまだ21時くらいだ。
「ここから現実経由で日本に戻るのは骨が折れるな。一度ヌミノース世界に行こう」
ヌミノース世界側の景色は同じ孤島だと分かっている俺は、そう認識してヌミノース世界へと渡った。
そしてユーハと合流して皆の元へと戻り、アドナイを倒したことを伝えたのだった。
そこから日本のヌミノース世界に戻らなければならなかったため、エリシアに氷の船を作ってもらい、それを魔法の推進力で動かすことになったのだった。




