最終章②
「……何を狙っている?」
「それは勿論、唯一なる者でありつづけることさ。そうそう、ベルゼブブの役割は君の仲間の特性を把握するためだよ。君との決着に邪魔が入らないようにね。だから君の仲間たち決してミカエルに勝てない」
そこでアドナイは剣を治めて停止した。
それにより余裕が生まれた俺は仲間の方を見る。
仲間たちはミカエルに圧倒されていた。
「5人がかりでも勝てないというのか」
「それはそうさ、ミカエルは光を除くすべてを受けない。ベルゼブブとの最新の戦いで光を扱える契約者は君だけだと分かっていたからね。あ、加勢しようとするなら僕もまた君に仕掛けるからね」
「くっ」
「決着の前に仲間が散る様を見せつけたいなと思ってさ、小休止と行こうよ」
1つだけ完全耐性を持つならそうおかしくはない。
しかし1つを除いて全て完全耐性などどうにもならない。
だからこそ価値があったとまでアドナイに言わしめるほどなのだろう。
無理にでも加勢すべきだ。しかしアドナイを出し抜けるか?
ここまで周到に俺たちへの対策を巡らせた男がと隙を見せるとは思わない。
「もうやめて、おじいちゃん!」
皆が疲弊している中、後ろにいたアイカが皆をかばうように前に出て訴えた。
『……』
ミカエルは何も言わない。洗脳されてアドナイに従属して戦わされているがその心にはまだ総代の思いが残っているのかもしれない。
「愚かな。あの子、契約をまだできていない。それはそうだ。彼女が契約すべき神は清らかなる太陽の化身のはず。そんな存在は君が契約した輝ける悪魔を嫌うだろう。だから共に戦えはしないため契約も成立しない。こちらとしてはミカエルを効果的に使えたからいいけど彼女を連れてきた判断は君らしくないね。お荷物を増やしただけだ」
「……確かにそうかもしれない。けれどアイカもそれは分かっていたことだ。それでもなお俺と共にここに至る決意をしたなら俺は彼女を信じる」
「なるほど、信じるか」
それに呆れつつもどこか羨ましいといった表情をアドナイは一瞬だけ見せた。
アイカは瞳を閉じて己が契約すべきアマテラスとの交信を始める。
いや、恐らくはここに来るまでずっと繰り返し続けていたのだろう。
その上でアマテラスは拒み続けた。
けれどアイカは諦めずにこの局面でなお繰り返す。
「……分かっているよ。あなたがキューセイ君と契約した悪魔を恐れていることは。汚らわしいとも思っていることは。それを否定しない。その上で力を貸して! そうしてくれたら私はあなたを恐れさせない。キューセイ君よりも強くあり続けるから!」
「アイカ」
その最後の説得にアマテラスはようやく納得したのだろう。
アイカから溢れるほどの神威が放出されていく。
彼女の髪は白く輝くように染まり、衣服は瞬時に神御衣祭と呼ばれる日本神話の神が羽織るだろう物へと置き換わった。
「まさか……! 契約と同時に神の姿を得るとは。はは、これは凄い。流石は天道日輪の孫なだけあるか」
「ああそうだ、アイカは俺よりもよほど凄い。だからお前の策謀を超えられる」
アイカは緩やかに舞いながら唱えた。
「神道回帰、汚れ払いて祖の元へ!」
するとミカエルの真上に小さな光の固まりが出現する。
それはとても眩くあらゆる汚れを払う朝日の出のような透き通った輝きだ。
それを浴びたミカエルの自身を形成する闇は剥がれ落ちていき宙を浮くための浮力を失い地へと堕ちる。
『グウウウオオオ……我、唯一なる神に仕えし最高峰の天使なり、この程度の輝きで……いや、アイ、アイカ……』
闇が剥がれ続けることで洗脳も解けていったようだ。
ミカエルの姿が総代の姿にまで戻り切ると彼の意識もはっきりと戻ったような表情となっていたのだった。
「アイカ、わしは……ぐっ……!」
「おじいちゃん!」
洗脳も契約も恐らくは解除できたはず。
けれどここまでの戦いで消費された生命力だけは戻らないため総代は倒れそうになる。
そこをアイカは駆け寄って抱きとめた。
「済まぬ、わしともあろうものが闇に堕とされた。あげくおぬしらに刃を向けるとは」
「いいよ、無事だった。それで今こうして戻ってくれた」
ミカエルとされていた時の記憶もあるからこそ分かる。孫娘が己を助けるために自らの意思を突き通しきった覚悟が。その成長が。
「強くなったな、アイカ」
「うん、おかえりおじいちゃん」
圧倒されていた仲間たちもリルルが回復することで動けるようになりアイカの元へと駆け寄った。
それを見た俺はアドナイに対して光の剣を構える。
しかしアドナイはこの状況を特にしてやられたとも思わずに剣を構えない。
代わりに拍手をする。
「いや~、お見事。凄いね、本当に誤算だった」
「その割には余裕だな」
「信じられない? いや、信じなくていいけどさ、誤算なのは本当だよ。ま、どっちどころかどう転んでもいい策謀だったからどうでもいいんだけど」
やはりおかしい。そもそもクーデターを見過ごしていること自体おかしいが、ミカエルを失い、自身を守る存在が何1ついなくなったこの状況でさえ動揺を見せない。
むしろ徐々に喜んでいる節さえ感じられる。
そこでアイカと金堂先輩が空を見上げた。
気になって俺も見てみるが何もない。
確かにこの空中要塞は離陸してから高度を上げ続けているがそれだけだ。
……まて、何故二人だけ見上げた?
あの二人に共通するのは神階層との契約……まさか!
「アイカ、空に何が見える?」
「黒い大きな闇の渦だよ。なんなのあれ?」
ヌミノース世界から神階層の世界へ行くには神階層の契約者が契約した神と同じ座標に行けば渡ることができる。
しかしアイカや金堂先輩がそんなことをする意味がない。
とするなら……
そこでアドナイは俺がようやく狙いを察した表情を浮かべたのを見て爆笑しながら答える。
「アハハッハハハハハ! ここまで本命の狙いに誤算がなくて本当に良かったよ」
空中要塞はさらに加速し一気に大きな闇の渦へと突っ込もうとする。
「神階層に向かうつもりか」
「正確には本来の神階層ね、あの子やガタイのいい彼が契約している神々がいる神階層は権威が何もない抜け殻だから。まあ区別しやすいように唯一神階層と呼称しようか」
「唯一神と直接会ってどうする? 更なる強き契約を得るのか?」
「あ? んなわけないじゃん。そもそも今の時点で僕は99%の権威を引き継いでいる。そんなことする必要ないんだよ」
「なら何が目的だ!」
「こういうことさ!」
そこで空中要塞は闇の渦を超えて唯一神階層へと到達してしまった。
そこは薄暗く、いるだけで気分が悪くりそうな闇の聖域とも呼べる場所であった。
足場は何もない、ただ闇が広がるだけの宇宙空間に近い景色だ。
そこに巨大な半透明の神がいた。
唯一神だ。
卑劣で矮小ともいえる概念そのものが肥え太って人型に擬態化したような悍ましい存在であった。
そんな唯一神に対して空中要塞は主砲を定めてそこからレーザービームを照射した。
『アドナイ、何のつもりだ? イギャアアアアアアアアアアアア!』
レーザービームの威力は相当なもので巨大だった唯一神の体が1発で2割も縮むほどであった。
「決まっているでしょう。あなたを殺しにきたんですよ」
続けてレーザービームを照射しさらに唯一神の体躯を縮めていく。
『グオオオオオオオオ! う、裏切るというのか! 何故? 余は依り代である貴様に生まれてから今に至るまで何不自由なく最高の人生を提供してきたはず』
「そう、あと数か月もしたらあなたのものになる体だ。それは最高を提供するでしょう。そんなことずっと前から分かっていた。だからこうしていくつものフェイクやフェイントになる策謀を織り交ぜて本命を隠し通してこうしたまでさ。どう、地熱から得られた膨大な電力によるレーザー攻撃は。神様でも卒倒するほどの痛さなはずだ」
さらに照射、唯一神の体躯はもう半分もない。
『我が身可愛さか! あり得ぬ。そうならないようにずっと余を信じさせるような教育を受けさせてきたのに』
「ハ、ハハハ、アハハハ!」
その唯一心の返答にアドナイは心底呆れて自己嫌悪も混ぜながら答える。
「あなたの依り代になれる者とはなんなのか? それは矮小で誰も信じられない適性があるということだ。つまり似た者同士でしか無理だよね、依り代なんて。だから僕が信じるわけがないじゃん。ましてや自分以外の神々を騙して唯一となり権威を独占した奴なんてさ」
その返答は唯一神にさえ盲点だったのか悲痛な呻き声をあげながら怒りを露にする。
『ありえん、あってはならない。余は今の世界を築いた創世にも等しい神なのだぞ。唯一として絶対であるはず』
「いや、そういうのどうだっていいから。さっさと消えろよ」
さらに照射し続ける。その体躯はもはや人未満まで縮んでしまいとても今まで世界を操っていた存在だとは到底思えないほど矮小となってしまった。
『ひ、や、やめよ』
「バイバイ」
『オアアアアアアアアア!』
その悲鳴を最後に唯一神は完全に消滅した。
そのあとアドナイは大きくため息をついてやっと片付いたと言わんばかりに肩の荷が下りた仕草を取ったあと俺たちに宣言する。
「唯一神が消えたことで契約は絶たれた。つまり今の僕は依り代ではない。しかし! 依り代とされる過程でこの身には唯一神から移植され続けた99%の神の権威が備わっている。だとすると僕は何なのだろう? ……そう、唯一なる者だ!」




