9章②
高天原のクーデター計画について詳しく説明しておこう。
信徒を知事に据えた県で軍事武器を秘密裏に製造し、それを扱うための鍛え上げた信徒の兵士を日本全国で育成する。
そして今日この日に、兵士たちは製造された武器を手に総勢10万人規模の軍隊となり日本各地の強襲個所に配備されていた。
そして先ほど彼らは行動を開始する。
国を売る行いを一度でもした政治家と官僚は不意を突かれるように次々と処理されていく。
政治団体の施設にいようが、自宅にいようが、どこかに宿泊していようが意味はない。
高天原の組織網で殺処分対象はどこにいても手が届くように常に監視していたため所在を知らないがないのだ。
逃げることも叶いはしない。特に公用車などの公共機関を利用している場合は、それらに搭載されているAIアシストシステムが提供元である船田社長率いるAIシップエンジニアリングによってクーデターに協力的なように作動するためむしろ逃げられなくなるようなものだ。
1時間も立たずに政治関係者が1000人以上殺戮されたこの事態に警察どころか軍隊が動かなければならなくなるわけだが、公安庁を筆頭に警察関係の指揮系統も同時に制圧してしまったためその指示がそもそも出せない。
またこれと並行して国内のテレビ局全般も制圧し、外資と通じているトップや天下り官僚を即刻処理し緊急速報を出させないようにした。
とはいえこれだけ大規模な作戦行動だ。
クーデターが始まっている情報はどうしても洩れる。
しかし重要なのは高天原以外の大衆……世論が高天原をテロ組織だと認定しないことだ。
大衆が高天原を非難する大行動を取らなければそれでいい。
俺とアイカ、エリシアは信徒の運転手に都心まで送ってもらっている最中であった。
車内でクーデターの進捗を確かめる。
「……やはり生放送の対談でアドナイへの違和感を覚えた民衆は多いのだろう。だから民衆の殆どはクーデターに関与する動きを見せずにいる」
「このままいけば政権はすぐに取れるよね。でもそのあとの声明発表が……」
政権を掌握できたとしてもそれを束ねる代表が声をあげて大衆に認められなければ新しい体制の確立には至らない。
それが分かっていたからアドナイは総代を狙ったのだ。
「もしものことがあったらアイカのお父さん、雷鳴殿が代理として声明を出すはずだよね」
「うん、けどお父さんはおじいちゃんには認められていないから。それこそキューセイ君を次の総代に据えたいなんて思っていたくらいだし」
「けれど俺が出るわけにはいかない。最善は総代を救出することだ。それがどうしてもできないなら雷鳴殿か、もしくは他の組織の重役に出てもらうしかない」
そこでエリシアが口を開く。
「けど奇妙ね、クーデター自体をあっさり許すなんて」
「確証を得ていたようではないけど予測していたなら取られたくない省庁に軍隊を防衛目的で伏せておくくらいはしていないとおかしいとは確かに思った」
もうすぐ支配できるという日本をあえて手放した?
いや、アドナイのあの表情はどちらに転んでも良かったというものだ。
つまり降伏すればよし、クーデターされたらされたで何かしらのメリットを得られる策を張っているのだろう。
それが何かは見当もつかないが。
◆
俺とアイカ、エリシアは都心の空港までやってきた。
そこには既に集合をかけておいたユーハ、リルル、シュンノスケがおり、そして呼んでもいない金堂先輩までいた。
「金堂先輩、どうして?」
「妖風に頼まれたんだ。最終決戦だから手を貸せとな」
「ユーハが?」
彼に借りなど作りたくないだろうに。
「ふん、仲間になった気はないがな、それはそれとしてお前が必要とするなら手を貸してやらなくもない」
「ぜひ、協力をお願いします。それとユーハ、ありがとう」
「ふふん、もっと感謝してもよろしくてよ」
その期待に応えて俺はユーハを抱きしめた。
それにより周りから黄色い声が湧く。
「ええ! ちょ、本当に体現しなくてもよろしくてよ」
「するさ、それくらいいい働きだったんだから」
「おおう、そうですのね」
ユーハから離れて俺は皆に向かって伝える。
「これが最後の戦いだ。総代を救出し唯一神の依り代であるアドナイ・アラーを倒す。行こう」
皆はそれに頷いて空港の景色と同座標にあるヌミノース世界に何があるか認識する。
事前に連絡で答えは出しておいた。
飛空要塞ともなればその巨大な設備を維持し続けるための補給の観点から専用の地上拠点が必要なはずだ。
それが政治家の行き来しやすい都心の中でどこが望ましいかというとこの空港というだろう。
現実で海外に渡ることも含めて最適であり、そして飛行機の着陸、離陸の光景がヌミノース世界側へ行くための認識の連想しやすさにも繋がる。
それでヌミノース世界側に何が建っているかだが、実物を目にしたエリシアが考えるに空中要塞と接続が可能な広さを持つ広野とそこに補給となる工場や倉庫がいくつか経っているくらいの認識が望ましいようだ。
俺たちはその想定で認識すると見事、ヌミノース世界側へと飛ぶことができた。
◆
付いた先には乾いた大地が広がっていた。澄み渡る夜空の下で空気も乾燥している。
この場合、本来気温というものはそこまで高くないはずなのだが何故か異様に熱い。
そして目の前には認識していた通り空中要塞とそれと接続している機械のドッキング用の柱がいくつもあり、その柱と連動するように機械の施設が複数立ち並んでいた。
「熱! 熱すぎですわ。なんですのここ!?」
真っ先に悲鳴を上げたのはユーハだった。
ヌミノース世界に来ている時点で全員自然属性に対する耐性差が発生する。
火に弱いユーハはいてもたってもいられずリルルとエリシアに水と氷で冷やしてくれと頼んだ。
要望に沿って彼女たちは水と氷を生成するのだが、ここでは生成効率がかなり悪いようで一時的に冷やすことは問題ないが長時間冷やしながらの移動は難しいという答えが返ってきた。
「恐らくこの場所は地熱が発生しているんだろうね。ひとまず近くにある工場みたいな施設に入り込もう。そこで地熱影響が避けられるなら話そう」
俺たちは入り口が開いていた工場の中へと入りこむ。
すると想定通り、地熱影響を受けなくなりユーハはかなり楽になった顔を見せた。
「た、助かりましたわ」
「リルル、エリシア、ここだと水や氷の生成はどう?」
「ん~、あまり変わらないかな」
「ヌミノース世界にはエレメントが偏った……特定の自然属性を生み出す場所があるわ。恐らくここは火に特化している場所なんでしょう」
工場内部を観察する。
すると火のマークが付いたエネルギータンクのようなものがあり、それを動力源に稼働しているものがいくつか見られた。
「とするとここら一帯に建てられた施設は全て地熱発電を利用していると見ていいだろう。そして今地上に降りている空中要塞とドッキングしている機械の柱は地熱発電のエネルギーを空中要塞に直に送るものというのがしっくりくる」
「その推測は恐らく正解でしょうね。これだけ馬鹿でかい要塞を浮かせて長距離移動させるには相当量のエネルギーを溜め込む必要があるでしょうし」
そこで金堂先輩が尋ねる。
「それでどうするんだ、明星? 救出するにしろ、決着をつけるにしろ要塞に入り込むのだろう」
「はい。ドッキング中の機械の柱をすべて壊せばエネルギー供給を絶って空中要塞を離陸させられなくもできますけど……この状況下で戦うのはよろしいとは言えない。ユーハは当然としてリルルとエリシアも魔法能力が低下しています。俺と金堂先輩は火に耐性があるとはいえじゃあ有利かというと微妙なところですしメリットが見えない。ですので、ここら一帯の施設には干渉しないで要塞内に潜入することを優先しましょう」
「わかった」
……工場内部を探索するも管理を任されているはずのヤハウェイの骸骨天使は見つからなかった。
恐らく自動稼働状態だからメンテナンスや管理以外でやってくる必要がないためだろう。
火への耐性がある俺と金堂先輩は仲間をここに留めて周辺の違う工場や施設などを探索する。
やはりどれも自動稼働で管理者はいなかった。
俺たちは元の工場へと戻り再度話し合う。
「この地熱地帯には管理者がほぼいないと仮定していいだろうね。これだけの熱さだと下っ端の骸骨天使にやらせようにも下っ端だからこそ火への耐性がなくて外での作業なんてまず無理だろうし」
「ならここら一帯は破壊しても問題ないんじゃないか?」
「いえ、流石に空中要塞のエネルギー補給場所ですし破壊対策はしているでしょう。供給に支障が出たらセンサーが感知してヤハウェイの部隊が派遣されるまではあると思います。空中要塞の内部が不明ですけどもしかしたら内部にそういう対応部隊を抱えているかもしれない。だとするとタイムラグもほぼなくやってくる」
「それで、潜入方法はあったのかしら?」
「エレベーターなどの類は一切なかった。空中要塞の下側にハッチのような個所も見当たらなかった。となると空中要塞からここへの移動は飛行で全て済ませているのだろう」
「おいおい、そうなると妖風以外侵入できる余地がないぞ」
「抱えて飛んでもらうという手もあるけど……外のあの熱さじゃそれも厳しいよね?」
「ですわ~、というか骸骨天使のほうも要塞から地上まで飛んで移動しているとも思えませんわ。私のように弱点でもなくても相当負担でしょうし」
……そう、現実で言うところの猛暑な時期に外を走りまわされるようなものだ。
ヤハウェイは部下を躊躇なく使い捨てにはするが、今までヌミノース世界に建てられた施設はどれも作業に関しては効率化されており作業者や管理者に負担がかかるようにはしていなかった。
「……もしかしたらだけど座標が違うのかもしれない。例えば空港内の特定の高さだと空中要塞の内部に直にいけるようになっているとか? 工場のメンテナンスや管理の時だけ地上からくるというなら説明は着く」
「ええ~、無駄足でしたの~。ちょ、キューセイ、しっかりしなさいまし」
俺の推察に納得するものが多い中、ユーハだけは無駄足を踏まされたことを怒った。
「え、生徒会長さん、なんでキューセイ君を責めるの?」
「え、二手、三手、先を読んでショートカットするのがキューセイのデフォルトでしてよ。というのは流石に無茶振りですけど、あ・た・く・しが無駄に疲れたのが遺憾なんですのよ!」
「え、あ~確かに会長さんだけ辛かったのはそうですね」
そのやり取りに他の者たちはやれやれと呆れた。
「かばってくれてありがとう、アイカ。そもそもなんだけど今まで正規の場所に飛んでいたかも怪しい中でなんとか攻略できていただけで、最近の施設はそれが通じなくなってきたから今回は出直すしかない事態になったんだと思う」
それにエリシアが共感する。
「正しい出入りができる座標を見つけるのは難しいわよね。わたしも長く生きて長くヌミノース世界への出入りをしているけれどヤハウェイの構造物に関しては毎回手さぐりするしかないのよ」
「ともかく一度現実に戻って空港内を探索しよう。そこのどこかが空中要塞に直で行ける座標なはず」
俺たちは無駄に疲れされられたユーハを宥めながら現実の空港前へと戻り、そして空港内部へと入ったのだった。




