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8章⑦


 6月23日、土曜日

 1週間前に総代に命じられた高天原の本家での再会議が始まっていた。


「現総理大臣の事故死……これが嘆かれるどころか喜ばれるような惨状ともなってしまっている。民心は大いにアドナイに傾いた。もはや猶予はなかろう。故に先に申しておくがここでの決定を最終とする」


 総代のこの言葉に会議に参加している者すべてが頷いた。

 それほどにこの1週間で世論は大きくアドナイに傾き、世界的に見ても日本の異常は注目される的となっていた。

 それに伴って外資の流入は加速し近いうちに経済支配までも起きかねない予兆にまで発展していた。


「総代、1週間前に渡されたデータファイルに記載されている箇所すべてへの仕込みは終わりました。こちらはいつでも対応できます」

「うむ、船田社長、感謝する。さて「物理的な下準備」はこれですべて整ったと言っていいだろう。問題となるのは民心をアドナイからこちらへ傾けるために何をすべきかだ。それがなくばクーデターを成功させても民衆は認めぬ」


 そこで皆、案が思い浮かばなかったようで口を閉ざしてしまう。

 それはそうだろう。

 高天原は基本的にメディアを使えない。

 組織をここまで拡大させていくのにどうやっていたかというと地道な現地での講演会や信徒たちの善意活動でのやり取りが殆どなのだ。

 それに関わりようがなかった大多数をいきなりこっち側に付けられるようにイメージ戦略しろというのは無理なのだ。

 けれどこの課題をある程度解決する策を出さない限り、クーデターの決行に踏み切れはしない。だから俺は手を挙げた。


「聞こう、明星の子よ」

「危険を承知で申しあげますが、生放送での対談をアドナイに申し込むというのはどうでしょう? そこでこの国の行く末の問答をしてアドナイの真意を暴けば民衆には疑問が生まれるはず。総理大臣であった天口啓示は高天原との交渉になど応じない態度でしたが、それがいない今なら対談が叶う可能性はあります」

「なるほど、問題点はいくつかあるが民心の傾きに歯止めをかけるにはそれくらいせねばなるまいな」


 だがここで他の者たちから反対意見が続出する。


「なりません、相手は外圧を操る存在。どのような卑劣な手で総代を貶めるか」

「明星救世、高天原から脱退したからか随分と総代の命を軽んじるな」


 当然俺の方にも非難が飛んでくる。

 そこで総代自身が両手を合わせて手を叩いて大きな音を出して皆を鎮める。


「止めよ、この期に及んで危険が少ない道などありえはせぬ。文句あるならば他の策を申せ」


 それに対して誰も代案を出せずにまた沈黙が続いてしまった。


「決まりだな。早急にアポを取らせよ。そしてクーデターの日程であるが、それは会談日の会談終了の直後とする。会談の詳しい詳細は決まり次第追って通達する。再確認するがこれに代わる策を申せるものはいるか?」


 念には念をと総代は皆を見据える。

 だが、誰も代案を出さないことに変わりなかった。


「では会議はこれにて完全終了とする。あとは各自クーデターに備えよ。明星の子は残れ。まだ話がある」


 皆が本家から去ったあと、俺は総代の近くまで寄って向かい合いに正座する。


「さて、エリシアから聞いておるが異世界対策のために育成しておる信徒たちはなんとか形にはなるようだな」

「はい、しかしあと4日の経っても過度な期待に添える仕上がりにはならないでしょう。ですのでエリシアにはこのまま本家にいて総代の護衛になってもらいます」

「それでアドナイを倒せるのか?」

「厳しくはなりますけどやらなきゃならない。これは俺に宿る輝ける悪魔と奴に宿る唯一神の戦いでもある」

「決着は自分の手でというわけか。なら甘んじて彼女の護衛を受け入れよう。彼女がいるならばアイカに頼る必要もまずなかろう。……ここまでよくやってくれた。礼を言う」

「お力になれたならなによりです」

「アドナイはどう倒すつもりだ? 可能ならばクーデターの時に狙撃による暗殺も考えるが?」

「それは恐らくできないでしょう。あれからアドナイの現実での動向を分析しましたけど隙が多いようで警護はきっちりしていますし。それにいざとなったらヌミノース世界に逃げるはず。だからどの道としてヌミノース世界側で決着を付けるしかないんです」

「そうか、ならばアドナイについては任せる。頼むぞ」

「必ずや」

 そこでヌミノース世界絡みの話し合いは終わったためか総代は険しい表情をやめて俺を慈しむような眼で見る。

「汚れるのはわしら大人だけでよい。おぬしらのような若い世代には手を血で染めるような行いはしてほしくはなかった。それが孫のアイカと同じ赤子の頃から見てきたおぬしならばなおさらだ。すまぬな」

「いえ、確かに血で汚れないに越したことはない。けれど汚れた上での後悔はありません。契約したことも、戦い続けたことも、全ては俺にとって必要なことだった」

「そうか、ならばこれ以上の謝罪はすまい。必ずやこの国の明日を取り戻そう」

「はい!」


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