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8章⑥

 

 ……それから1時間半後、どうにか全てのプラントの破壊し、それらを管理していた与党の大臣の4人を倒して被害を最小限に食い止められはした。

 大臣4人はウリエルと比べればどれも単純な戦闘能力は劣り、ガブリエルのように特殊な面もそこまでなかったため対処自体に難はあまりなかった。

 とはいえ強敵であることには変わりないため俺とユーハと金堂先輩は3戦目が本当に惰性だった。

 エリシア、リルル、シュンノスケのほうも俺たちほどではないがそこそこ疲弊していた。


 休憩もかねていつものショッピングモールのカフェに集合して情報の整理をする。


「まずは皆、急な事態の対処に協力してくれてありがとう。特に金堂先輩は契約直後なのに無理をさせてすみません」

「構わん、それで誰も食い物にされなかったのなら言う事はない」

「ゲン君、ありがとうね」


 そう、リルルはあまり面識ないの金堂先輩に対して声をかける。


「げ、ゲン君!?」


 いきなり馴れ馴れしい呼び方をされたため驚いたのだろう。


「あー、悪いな。こいつそういう馴れ馴れしい奴だから」


 と、シュンノスケはフォローする。


「まあ別に構わんが……」

「狙われた学校の中には俺とリルルの母校があったんだ。イキナリで困りはしたが見捨てるなんてありえないしな。だからそれはいいんだけどよ、問題は……」

「分かっている。これからのことだ。ギリギリどうにかなりはしたけど、流石に何度もこんな手を仕掛けられたら俺たちだけじゃ手が回らない」


 そこで次にエリシアが口を出す。


「けれど熾天使やそれと同格となる最上位天使のヤハウェイの使徒はそういるものじゃない。少なくとも日本においてはウリエルやガブリエルのような存在はもう殆ど残っていないんじゃないかしら?」

「恐らくはね。けれど海外……ヤハウェイ本部にはまだいくらでもいるだろう。丁度重要な議席が総理含めて5つも空いたんだ。入れるには都合がいいだろう」


 本来であれば議員死亡による空いた枠は何かしらの選挙で補わなければならない。

 けれどヤハウェイが政権を支配下に置いており、アドナイという実態を知らない多くの国民からは希望と見える存在がいることで今更帰化議員がさらに補充として増えたところで非難など起きはしないだろう。

 既存の議員を処刑パフォーマンスの生贄にする最大のメリットはそれなのだろう。

 議員の置き換えでより直接的に日本の政治体制を支配してまうために。

 本来、自国の政治家が他国の人間ばかりなんて認められるわけもないが、その他国の人間が正義に見える行いをして悪い自国の人間を裁くという構図の認識が浸透してしまっているため認められてしまう。

 恐らく明日から俺たちが倒した総理含めた5人の議員も事故死として発表されるだろう。

 そうなれば外圧というものに国民はより依存する。


「ジリ貧ね、ヨーロッパの時よりもさらに支配の手口がエグくなっている」

「だからクーデターをできるだけ早くやるしかない。そのためのヌミノース世界対策である高天原の防衛体制も早急に仕上げなきゃならない」

「分かっているわよ。それで今日が2日後だけど何かいい案が思いついたの?」

「うん、案というか金堂先輩で実証できたことで判明したことになるけど」

「この厳つい子で判明したことねぇ」


 見た目としてはこの中で一番幼い金髪の少女に年下扱いされて金堂先輩はまだ何とも言えない顔をしたため、俺はフォローする。


「彼女見た目は幼いですけど実年齢は300超えていますので」

「は、300!」

「……あら、この子……前に会った時は神階層の適性らしい輝きはなかったわよね。それが今はある。それで契約後すぐに十分な戦力として機能もした。どういうことかしら?」

「俺が2度も意識を破壊したり、強敵との命を懸けた状況下だから覚醒が促されたというのもあるだろうけど、根本の差は一人だったからじゃないかな?」

「一人……あ、もしかして!」

「そう、20人も常に集団で育成していたから何かしらの不具合が発生していた可能性がある。俺は魔階層の契約だから当然としてユーハ、シュンノスケ、リルルは3人ともヌミノース契約ではあるが契約した自然概念がどれも似通っていない。だから契約先同士の相互干渉が派生しなかった。金堂先輩も同じだ」

「そうね、考えてみたら私が育成している20人の中には同系統の契約先が何人もいた。それらが成長阻害を起こしているとしたら……」

「明日から全員離して成長を見てみる価値はあると思う」

「ただその場合は講師の数が足りないわ。散り散りな20人の面倒は流石に見切れないわよ」

「うん、その20人を系統が被らないように3グループに分けて1グループはこれまで通りエリシアが、残り2グループは俺とユーハ、シュンノスケとリルルでそれぞれ1グループずつ面倒を見る。という案なんだけどどうかな、皆?」


 それに全員が納得した。


「決まりね、流石に学生であるあなたたちに平日も高天原の本家の方に来させるわけにもいかないから2グループにはそっちに向かって習うように言っておくわ。そのための措置も総代と相談してなんとかしておく」

「よろしく頼むよ。できれば1週間ほどで仕上げられるようにしよう。ヤハウェイが次に何を仕掛けてくるか分からないから仕上がるのは早い方がいい」


 ◆


 6月19日、火曜日

 昨日中断してしまったプールの活用議題を放課後の生徒会と風紀委員会の合同会議をまた開いてその詳細を決めてしまう。

 それが終わればすぐに解散して俺とユーハはアイカの家へと向かった。

 エリシアに指導を受けている高天原の契約者は表向き、高天原が雇用する従業員であるためどこへでも赴けるのだが、寝泊りまで考えると当然関係者の家にお邪魔する他ない。

 エリシアが引き続き受け持つ1グループ8人を差し引いた12人、それが2グループ分けされて6人ずつ。

 アイカの家には片方のグループの6人が居候している。

 今から彼らがクーデターまでに使い物になるように教えなければならない。

 もう片方の6人は、リルルとシュンノスケが住まう区域の中に関係者の家があったため、そこに住まわせている。


 日が暮れて夜になると共に高天原の契約者たちを連れて近所の森林公園へと向かってヌミノース世界に渡り、妖精の森で妖精たちから近くに骸骨天使たちが制圧している場所があるか尋ねる。

 すると小規模ではあるが北に少し向かった先にある岩場に拠点があるということなので俺たちはそちらへと向かった。


 やはりウリエルまで倒された影響でヤハウェイは基本的にはヌミノース世界への大規模侵攻をせずに停滞しているようで制圧拠点は増えておらず基本的に守りに徹しているようだ。

 機械設備が少しだけある岩場の拠点にいる骸骨天使どもを発見したのだが、やつらはまるで事を起こす気配がない。

 このまま放置しておいても問題は起きないのだろうが、国内のヤハウェイはいずれ掃討するのだからここで高天原の契約者たちの経験値としても問題はない。


「不利なようなら俺たちが手を貸す。自分たちだけで倒してみるんだ」


 彼らはそれに頷き骸骨天使たちに奇襲を仕掛けた。

 ……実戦経験が今までなかったのもあって苦戦をしたが死傷者を出さずにすべて倒しつくせたため悪い結果ではないだろう。


「……敵の数も6だから頭数は互角でしたし一人1殺できているなら悪くはないんでしょうけどなんか物足りませんわね」

「大天使以上相手だとまだ勝てないだろうね」


 このやり方を1週間続ければ彼らは総代をヌミノース世界方面で守るための最低限の形にはなるだろう。

 けれど最低限でしかない。大天使以上が複数せめて来たら耐えきれない。

 だがこれ以上の向上を探るための時間はない。


 ◆


 現実世界へと戻りアイカの家へと帰宅すると、丁度そこに車で送り迎えされたアイカが帰ってきた。

 彼女を見て高天原の者たちは「お帰りなさいませ、お嬢様」と頭を下げた。


「うん、ただいま。それとキューセイ君と生徒会長さんがいるってことはさっきまで修行していたんだね。ありがとう」


 そう言って部下たちに労いの言葉をかけつつ俺を見据える。


「? どうしたの?」

「どうしたのってあまり上手くいっていないって顔だから気になったんだけど」

「それは景気の悪い顔をしてしまってすまない。最低限、総代を守るための形にはなるだろうけど心もとないねってところかな。総代はクーデター後にこの国を導く要だ。なんとしてでも守り抜かなければならない」

「それはそうだけど……少し気合入りすぎだと思う。キューセイ君おじいちゃんのこと好きだからなんだろうけど」

「感情抜きにしても最優先だと思うけれどアイカは違うのかな?」

「うん、少なくともおじいちゃん自身はそうは思っていないよ。今日も本家でおじいちゃんと話していたけど自分より若い世代が未来を担えるように注力したいって言っていたし」

「総代がそんなことを……」

「勿論、おじいちゃんは私も大事だよ。けどおじいちゃんの思いを無視して優先を間違うことも違うんだと思う。けどそう言ったって割り切れないよね」

「ああ」

「だからさ、私が守るよ」

「アイカが?」

「うん、信じられないかな?」


 アイカはまだ再契約してはいない。俺と共にいないならば契約自体はできるのだが、総代が孫に守ってもらうということを許していないのだ。


「確かにアマテラスの力なら信用には足る。けれど総代はアイカに守ってもらいたいとは思わないだろう」

「それはおじいちゃんからも言われた。けどそうすればキューセイ君たちは他のことに集中できるよね?」

「それはそうだね。正解はないな……けど分かった。アイカを信じよう。彼らを1週間育てきったら次のことに注力するよ」

「うん、そうして」


 そのあと俺とユーハは別れの挨拶をしてアイカの家である神社から去る。

 その道中でユーハが尋ねる。


「良かったんですの?」

「過保護は相手の思いを踏みにじりかねない。俺は総代やアイカの思いを尊重する。それで総代の生存率が下がるとしてもだ。腹を決めるしかない」

「確かにそうですわね。しかし本当にクーデターが起きようとしているんですのね。実感沸かないですわ」

「俺もあまりないよ。総理までこの手で殺しているというのにね。世の中が変わる瞬間なんて味わったことないのだから当然だけど。けれど成したいからやるんだ」

「いいこと言いましたわね。見果てぬ夢だからこそ叶えたい。そんな思いは大事でしてよ」

「夢は原動力か……そうかもね。クーデターが成功して高天原が主権を取れば日本の腐敗はなくなるはず。今よりもいい日常がやってくるはずなんだ。そうなったらユーハは何がしたい?」

「あたくしは今まで通りモデルメインで芸能活動をして、学校でも楽しくやれていればそれで良くってよ。キューセイはどうなんですの?」

「俺はそうだな……アイカとの婚約はなくなったけれど、それでも高天原に戻って総代のためになる仕事をしようかなとは思った。けどそれは良くないな。きっと総代自身に怒られる。内心喜ばれるとしてもね」

「でしょうね。それで他には何がありまして?」

「う~ん、ひとまず俺も今まで通りでいいかな。生徒会活動に励んだり、ユーハに付き合って芸能活動をサポートしたり」

「変わりませんわね」

「それでいいんだと思う。夢は大事だけど、幸せが既にそこにあるならそれを手放す意味もない。なにせ夢と幸せが一致するとは限らないのだから」

「それはそうですわよね、夢は叶えてないものだから実際はどんなものかなんて掴んでみるまで分からないものですし」


 そうこうして話し続けている内に俺の家の前までやってきてしまった。


「話しているとあっという間ですわね」

「うん、そのあっという間こそが幸せだ。幸せな時間はすぐ過ぎる」

「逆に嫌な時間は長く感じますわね」

「そう、それ」

「あはは、じゃあキューセイ、また明日」


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