8章⑤
「フォトン・デカラビア!」
光で形成した5角形の鏡を10個も周囲に展開し、それらを不規則に周回させつつ鏡から特殊な光を発生させながらガブリエルを包み込もうとする。
それから逃れようとするもガブリエルの速度は案外遅くあっさりと包み込めてしまい10面体のパズルが完成してしまう。
あとは内部を幻惑効果の光で満たせばガブリエルはまともな認識能力を失う。
『告知する、主は光に満ちた世界を望まない』
そう、やつが宣告するとパネルの接合部分がすべて分解されて光の鏡は全て剥がれるように消失してしまった。
「これならどうですの? エスプリッド・トルネード!」
ユーハがすかさずに銀色の竜巻で追撃をかける。
先ほどのガブリエルの遅さを考えれば避けることはまず無理だ。
『続けて告知する。主は絢爛なる生命の在り様を求めない』
すると竜巻は急速に勢いを失って消失させられてしまった。
「ええ、どういうことですの?」
「神話のガブリエルはマリアに受胎告知したとされる。だとすると奴の能力は告知による事象の操作か」
『正解だ、流石は我らが天敵というところか。この告知の力こそ私がウリエルを抑えて総理になれた理由だ』
恐らくどんな魔法攻撃だろうと無効化できるのだろう。
だから規格外の破壊力を持つウリエルさえ押さえられることでトップに据えられたというところか。
『重ねて宣告する。主は反抗を認めない。清らかなる乙女が生みし子の鉄槌をその身に受け死せよ』
すると俺とユーハは目の前にいるガブリエルに対して攻撃をしようとすると生命力が奪われていく異常を察して戦意を抑えるしかなくなった。
そしてガブリエルは黒い衣で包んだその身の股からドボっと大きなものを輩出する。
それは念液まみれの骸骨天使であった。
「キモっ、男が股から何か生みましたわ」
「そういうことか、やつは己をマリアとしても見立てている。変身で体を女性的したのは受胎告知からの出産を再現するためだ」
「そんな解説いいですからこれを打開する方法ありませんの? 距離を取ろうとしても生命力を奪われるんですけど!」
『ゆけ、キリエスト! 主を模したその身は異教を排するためにある』
生み出された骸骨天使は闇の剣を生成し両手で構えて俺たちに迫ってくる。
これに対して迎撃、ないし回避行動を取ろうとするとユーハの言うとおり生命力を奪われる。
奪われるか……そうか!
となると奴は事象を操作するのが正解だとは言ったが実は違う。
自身が告知した内容に沿わない場合はペナルティとして生命力を奪う。
だから魔法攻撃はそれを形成するための生命力を奪われて消失した。
今の俺たちもペナルティを受けているから生命力を奪われているに過ぎない。
逆に言えばペナルティ覚悟で無理に迎撃する手もある。
しかし奪われる量が結構デカい。
迎撃後にすぐにガブリエルを仕留められないとジリ貧だ。
だがこのまま棒立ちでは骸骨天使に切られて終わる。
「仕方ない。無理にでも!」
そう判断した直後に金堂先輩が俺の前に出る。
「明星!」
そして彼はなんと両腕を交差させて骸骨天使が振り下ろす闇の剣を受け止めたのだ。
「な、契約もしていない一般人が我がキリエストの闇の聖剣を受け止めただと!」
「金堂先輩、なんて無茶を。というか腕が……え、無傷!」
見た目は変わらない。
しかし彼の体の周りには熱い戦気とも呼べるオーラが目に見えて渦巻いていた。
「……ここに来てから次第に声が聞こえていたんだ。そしてお前がさっき危機に陥った時にハッキリとそれが何か分かった。けしからん! お前らの身勝手で学生を食い物にするな! だが先ほどまでのやり取りを見るに考え改めるわけもないのだろう。だったら俺が皆を守るまでだ! ゆくぞ、不動明王よ!」
それが契約だったのだろう。
覚醒した彼の熱いオーラは俺たちへと分散されてまとわりつく。
するとガブリエルに攻撃意識を持ってもペナルティで生命力を奪われることもなくなった。
「動ける」
「自由になりましたわ」
『な、我が告知を防ぐ加護だと! なんと罰当たりな』
「これは……そうか、不動明王は決意の教える守護神。その力が意思を捻じ曲げる奴の力を相殺しているのか」
金堂先輩は神階層との契約が可能な適性者となっていたんだ。
だからこのプラントに来た最初の部屋のロックを彼が外せたわけだ。あれはヌミノース契約者と魔階層の契約者・及びそれらの適性者しか弾かないのだろう。
「明星、俺がやつの絡め手を抑えていく。今のうちに決めろ!」
「はい。レイ・ベリアル!」
俺は光のハンマーをガブリエルの真上に生成する。
『ふん、貴様らが告知を受けないだけでそのハンマーへの対処はできる。振り下ろしても無駄だ』
「分かっている、だからこうするんだ」
俺はハンマーを振り降ろすのではなく振り上げて天井を叩いた。
それにより高反発の衝撃が天井のコンクリを破壊し、ハンマーの接触先からは無数のレーザーが打ち出されてさらに天上を破壊する。
それにより無数のコンクリが天井から切り取られて岩雪崩となってガブリエルに襲い掛かった。
『なぁ!』
このプラント施設は異層制御室によって現実から転送されている現実の産物だ。
つまり生命力に依存しない物質で構成されている。
だからガブリエルは岩雪崩を消失させることなどできない。
そしてそれを回避するための機動力などないことはさっきまでの戦いで証明済みだ。
『馬鹿な、私は総理だぞ。こんなところで消える訳には、わけにはああああああああ!』
岩雪崩に押しつぶされながら悲鳴を上げるも、ついにはその声も途絶えてガブリエルは消滅したのだった。
当然、ガブリエルから出産という召喚をした扱いになっている骸骨天使も消えたのだった。
◆
ガブリエルを倒した後に俺たちはこのプラントの破壊を考えて異層制御室にある操作パネルを触りながら最適な処理方法を探っていく。
……どうやらこのプラント自体を元の場所に返すことはできるようだ。
遅延操作も受け付けるため俺たちが外に脱出したあとにプラントを戻すということもできる。
けれどその場合、異層制御室の機能そのものは生きているためヤハウェイが後にまた運用するのは目に見えている。
だから異層制御室自体を破壊して転移自体をもうできないようにしてしまった。
そして施設内部のありとあらゆる研究フロアを破壊してすぐには復旧できない状態にしてしまい、現実の学校に戻れる認識を得られる模様が取り揃っている部屋へと赴いて現実へと戻ったのだった。
「学校を覆う黒い瘴気が晴れたな。生徒たちも問題なく下校していっている」
「金堂先輩、疲れはどの程度あります?」
「そこそこだな」
初めて覚醒した後は慣れないこともあって疲労が相応に溜まる。
だからこそ1日は置いてからのほうがいいのだが状況的に彼の手をここで欠くのはよろしくない。
「なら無理を承知で言いますけどこのあと都内にある残り4つの学園と同座標にあるヌミノース世界のプラントの破壊に付き合っていただけますか?」
「かまわんぞ。他校は本来なら管轄外ではあるがそうも言ってられんだろう」
「ありがとうございます」
残り4つのプラントの場所だが、さきほどのガブリエルのプラントを破壊して回るついでで見つけた資料の中にその記載はあった。
この学校からの移動距離はどれも変わらない。
となると問題は処理しきるまでの総時間だ。
スマホで時間を確認すると会議からの10分休憩キッチリ立っていた。
ヌミノース世界の時間進行はその6倍なので1時間はあちらにいたことになる。
他のプラントも同じ10分で終わらせられるとしても計40分、ただ現実で処理し終えた学校から次の学校に向かうまで20分はかかる。となると移動時間は80分、合計120分、つまり今から2時間は絶対にかかる。
加えて金堂先輩だけでなく俺たちの疲労も当然溜まってくるため終盤は惰性でさらに時間をかけてしまうかもしれない。
そこまで時間が経つと最後に処理する学校が敵の手に落ちてそこの生徒に被害が出るのは避けられない。
なので俺はシュンノスケ、リルル、エリシアに連絡を入れた。
エリシアは今も高天原の本家で講師をしているが今から全力でこちらに来てもらえば30分で合流できるだろう。リルルとシュンノスケは20分以内にこちらに着けるそうだ。
なのでこの3人には俺たちとは別チームを組んでもらって4つのプラントを並行処理する作戦を取る。
「え~、この3人のまま続けるんですの?」
作戦を説明するとユーハは金堂先輩を見て不満を言った。
長く一緒に居たくはないのだろう。
「バランスがいいからね。前衛はシュンノスケと金堂先輩が適任だからこの二人は分ける。耐久面で金堂先輩の防御力か、リルルの回復がいるからこの二人も分けなきゃならない。リルルのほうを俺たちの方へ入れると前衛がいなくなる。そしてリーダーは俺とエリシアが担うしかない」
「ぬうう~完璧な説明でひっくり返せませんわ」
「ということで我慢してね。ユーハ」
「分かりましたわよ~、あ、そういえば風紀委員との合同会議はお開きですわね」
「そうだな、休憩時間も今終わった。生徒会室に戻ってそう役員たちに告げてから次の学校に向かおう」




