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7章③

 

 6月1日、金曜日

 再来週からテスト期間に入るのもあって生徒会の仕事は今日の放課後のこの作業で一旦停止となる。

 キリ良く済ませておかなければならない作業を済ませると生徒会役員たちはすぐに帰ることなく再来週からの試験の話題に花を咲かせる。


「……キューセイ、試験勉強は大丈夫でして?」

「大丈夫かな。最近忙しくはあるけど総合20位以内は余裕だと思う」

「うわっ、出ましたわ、天才の余裕」


 その引き気味な態度のユーハの言葉に周りが頷いた。

 どうやら皆、相応にテスト勉強に時間はかけているようだ。


「そういうユーハはどのくらい狙えそう?」

「真ん中の120位くらいじゃないですの? 赤点はまず取りませんわよ」

「……生徒会長がその成績でいいの?」

「生徒会長が成績優秀、学年上位なんてファンタジーだけでしてよ!」

「ああうん、別にそうでなければならない決まりはないよね。そういえば聞いていなかったけれどユーハはどうして生徒会長に……いやそもそも生徒会に入ろうと思ったの? 面倒くさがりな性格からすれば入る理由は薄いと思うんだけど」

「ああ、それは副会長の寺田君が1年時から生徒会役員で2年の時に生徒会長に立候補を目論んでいたんですけれど……ぶっちゃけ華がないから生徒投票じゃまず受かりませんわね!」


 ユーハはズバッと過去を蒸し返して言い切ると副会長は胸を押さえて抉られた傷を抑える。


「なんとなく読めてきた。それで」

「それであたくしに声をかけてきたんですの。自分の代わりに看板になってくれって」

「条件は今みたいにモデルの仕事と重なったら勝手に抜けていいかな」

「そのとおりですわ! あたくしとしてもキャラアクセントに生徒会長の肩書が欲しかったですし、それが本来の仕事量をしないで手に入るなら儲けものと思ったんですの! ……けどそれでも多すぎますわ」

「いや、ユーハの担当量は少ないと思うよ。寺田副会長、それで良かったんですか? 生徒会長には結局なれていないし」

「けどあの時はああしないと副会長の肩書すら手に入らなかったし」

「まあそれはそうですね」

「ふふん、生徒会長立候補のアピールタイムの時は歌って踊ってやりましたわ」

「あ~それは勝てるよね。というか歌や踊りできるんだ」

「まあ小さい頃からレッスンは受けていましたし。キューセイは幸せ者ですわね。こんなハイスペックな彼女がいて」

 自画自賛にポーズを取るユーハに俺含めて他の生徒会役員は呆れつつも頷いた。

「そうだね。中間くらいしか狙えないなら少し危ういと思うし勉強時間をもっと割いたほうがいいんじゃないかな?」

「つまらないこと言いますわね。そんなことしたらデートの時間が削れてよ。あなたの方が年下だから勉強を教えるなんてこともできませんし……あれ、できないこともない気が……」

 するとユーハは自身の現代史の3年生向けの教科書とそれに対応した問題集を俺に渡してくる。

「ここの72ページ目からの問題、テキトーに問いてくださいまし」

「そんな無茶な」

 と言いつつ俺は10分ほど問題集を解いてみる。

「……え、なんで解けているんですの?」


 ユーハだけでなく他の生徒会役員もドン引きしたように口を開けて驚いた。


「なんでって教科書あるんだし解読はできると思うけど。まあ流石に手間だったけど」


 ユーハはしばし俺を見つめて考え込み決断する。


「……キューセイ、勉強を教えなさいですわ!」

「ええ……1年生が3年生に教えるなんてありえなくない?」

「ならあなたがあり得る例になればいいんですわ!」

「勝手だなぁ~……いいよ、じゃあこのあと勉強会をしようか。いい機会だしユーハの家にお邪魔していいかな?」

 するとユーハは露骨に嫌そうな顔をして軌道修正しようとする。

「あたくしがキューセイの家にまたお邪魔してあげてもよろしくてよ。そのほうがあなたも楽でしょう?」

「……もしかして家が散らかっている?」

「あたくしが通る道は綺麗でしてよ」

「じゃあ君のお父さんに会わせたくない?」

「ギクギク!」

「分かりやすく効果音を口にしたね。俺としては少し話しておきたいことがあるんだけど」

「あのだらしない男にそんな価値がありまして?」

「父親に容赦ない評価だなぁ。けれど業界人としてのキャリアは長いようだし色々コネを持っているならそこから得られる情報はあると思う」

 そこでヤハウェイ関係で探りたいんだなとユーハは察し、ため息をついた。

「はぁ、分かりましたわよ。あたくしの部屋じゃなくておっさんに興味あるとかキューセイ変わっていますわねぇ」


 話は纏まった。

 生徒会が解散となったあと俺はユーハの自宅にお邪魔することとなる。


 ◆


 学校のある地区から電車で二駅ほど移動した都内のマンションにユーハは住んでいた。

 セキュリティがしっかりした高級な部類だ。

 フリーのアシスタントプロデューサーだから本業のプロデューサーよりは収入は落ちるのだろうけれどそれでも相応の稼ぎがないとここには住めないはず。

 しかしだとするとユーハは父親の何を嫌がっているのだろう?


「お邪魔します」


 玄関を開けて中に入ると一人の男が出てきた。

 背は高めで細身だ。それでジャージを着ており髪はボサボサなためだらしない印象をまず受ける。


「あれ、君初めて見る子だね」

「お初にお目にかかります。俺の名は明星救世、あなたの娘であるユーハさんとお付き合いさせてもらっているものです」

「へぇ……彼氏……君がぁ……ユーハちゃん、これドッキリ?」

「違いましてよ」

「ええ!」


 そこで彼はオーバーリアクションに驚いてみせた。

 しかし意識を視るにそこまで驚いてはいないようだ。


「中学生かな、ユーハちゃんショタ好きだったっけ?」

「一応高校生1年生です」

「あ、そうなの、ごめんね勘違いしちゃって。もー挨拶に来るなら事前に教えてよ」

「急にいなくなったり、そもそも爆睡していたりな人に教える意味がありまして?」

「あ、はい。そうですよね~信用ないですよね~ボク。ま、好きに寛いでいってよ。ボクからは特に「娘に彼氏など許さん」とかないからさぁ」

「ああ、いえ、実はあなたに聞きたいことがありまして」

「ボクに?」

「はい、調べさせていただきました。妖風忍さん、若い頃は舞台やゲームのプロデューサーとして活躍し、結婚後は所属会社から独立し今までのコネから手広いエンタメジャンルのプロデューサー代理事業やアドバイザーをこなしている。業界での二つ名は影の立役者。あなたが手掛けた舞台作品をいくつか見させてもらいました。演出の切り替えセンスが凄まじいですね」

「おお、それはありがとう。というか君、話し方がめちゃくちゃ大人。何この子、今まで見たことないタイプ。ちょっと使ってみたいかも」

「有難い申し出ですがお断りします」

「あら残念、話が聞きたいんだっけ? いいよ、ユーハちゃんの彼氏を無下にはできないしね。僕の部屋に行こうか」

 忍さんの部屋はデスクトップPCの画面が4つもあり、珍しい機材がゴチャゴチャして並んでいて足の踏み場に少し困る。

「しばらく見ていませんでしたけどごちゃごちゃして汚いですわね。整理できないんですの?」

「ユーハ、気持ちは分かるけどあとにしてもらえる? 俺が出て行ったあとは好きにしていいからさ」

「……はぁ、分かりましたわよ」

「おお、あのユーハちゃんが従順に言うこと聞いているなんて凄い」

「煩いですわ」

「では、話しを始めます。俺は先日ユーハの誘いで成功者と挑戦者(サクセスフル&チャレンジャー)に出演しました。内容としてはプロパガンダが酷く見る価値がないものでしたね」

「はは、プロパガンダが酷いか! うん、そうだね。ユーハちゃんはどうだった?」

「キューセイと似た感想ですわ。あんな茶番に捻じ込まれて機嫌が悪くならないと思って?」

「でも知名度は上がるんだよね、あの番組。親としては娘のポテンシャル高いって分かっているなら売り込みたいじゃん」

「そういうのをありがた迷惑っていうんでしてよ」

「あ~まあそうだね、勝手なことしてごめん。それで」


 ここまで話して分かったが忍さんは割と自分勝手だ。

 ユーハは母親似だと思っていたがこのあたりは父親似なのだろう。

 自分勝手なユーハが同じ自分勝手な父親と相性がいいかというと違うだろう。

 理解はできても噛み合わないというものはある。

 俺と母親が互いに頭が良すぎて同族嫌悪になっているのと少し似ている。


「対面していた青チームの中に帰化の政治家がいました」

「ああ、帰化議員いたよねぇ」

「はい、彼が青チームの実質的な統制を取っている素振りをしていたことからも、あれらが癒着したお仲間なのは察せられましたね。とても気持ち悪かった」

「あはは、君そう言うのダメなんだ。ならメディアは向いてないかな」

「ああいうことってどのメディアでもあるんでしょうか?」

「政治の力が働いて制作されているってやつ?」

「はい」

「う~ん、僕の知っている範囲だけどテレビ放送以外はそこまでないんじゃないかな?」

「というと?」

「テレビってさ国から資金を出してもらえるんだよ。あ、スポンサー名義でだけどね。で、そのスポンサー名義になっている会社ってのが官僚の天下り先だったりする。勿論テレビ局の上層部のポストにも天下り枠はある。結局双方にいるわけだよ。だからプロパガンダ制作なんて露骨なこともできちゃう。片方だけなら何やってんだって問題になるからね」

「それは確かにそうですね」

「他には出版社かな。けどこれは限定的だね。雑誌ってお金を払って読むものでしょ? そんなものにプロパガンダ捻じ込んだら雑誌自体が売れなくなるしリスクが高すぎる」

「それ以外は直接的にプロパガンダをしろという関係にはならないはずだ。僕の経験談だけど、テレビ以外でそういう仕事を振られた経験もない、もしかしたら気付いてないだけであるかもしれないが」

「いえ、とても参考になりました」

「そうかい、それは良かった。というか見当は着いていたって顔だね」

「けれど確証があったわけでもないです。一応自分の耳で聞いておきたかったので」


 メディアの高天原への悪印象操作を見ていればその構造に予想は着いていた。

 しかし予想でしかない。

 高天原本家のほうで実態の裏取りはしているのだろうから大丈夫とは思うが、万が一に違っていたならクーデター前に進言しなければならない。

 そういう意味で意味のある質問だった。


「喉が渇いたね。ユーハちゃんお茶入れてくれる? ねえ、いいでしょ?」

「仕方ないですわね。今日だけですわよ」


 ユーハが部屋を出たのを見計らって忍さんは俺に尋ねる。


「ユーハちゃん、大変でしょう? 彼氏になって苦労してない?」

「初対面の時は我儘で確かに苦労しましたけどいいところもいっぱいあったので。一緒にいると楽しいですし」

「そっか。だから好きになってもらえたんだね。長く続くか分からないけど応援しているよ」

「はい、ありがとうございます」


 そこでユーハがお茶を持って戻ってくる。


「ほら、お茶ですわよ。感謝しなすって」

「おお、ありがとう。ああ、そうだ……1つ言い忘れていた」

「なんですか?」

「帰化議員の名前、亜土内新だっけ。与党がネット工作までして批判を封じているけれどそれでも国内だけでなく海外からも「これはおかしすぎる」って意見が殺到しているんだ。その対策なのか彼の特集が様々なメディアで組まれるらしい。アドバイザーをしている提携先の出版社から「どう取り扱えばいいか」って相談を昨日されたんだよ。最近の日本の政治はおかしかったけれどこれからさらにおかしくなるかもしれない。だから気を付けてね。興味を持って調べるのはいいけど目障りだと思われたら危険だからさ。ユーハちゃんの彼氏にはそうなってほしくないな」

「忠告ありがとうございます」


 そう頭を下げつつ、俺はアドナイの特集があるというリーク情報を得られたことに感謝した。

 忍さんには悪いがこれでアドナイが打つ手を少し絞り込めた。

 念のために高天原にも情報を共有しておこう。


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