7章②
番組タイトルは成功者と挑戦者(サクセスフル&チャレンジャー)
収録開始と共にMCが番組の概要を説明したあと、今回の青チーム10人と赤チーム10人の計20の出演者を紹介する。
青チーム……現役の政治家、起業家、経営者などはどれも社会の成功者と言っていいほどの著名人ばかりだ。
対して赤チーム……学生縛りでの芸能関係、またはメディア出演がある有名な学生で固められており、成功に至っていないが足がかりを掴んでいるライン、すなわち挑戦者という立ち位置になる。
ちなみに俺は今回メディアに出るのが初めてで、ユーハの恋人兼学校の生徒会仲間というとても場違い自己紹介をされたため浮いた笑いを貰われることとなってしまった。
さて、この番組は生放送ではないが生の声を出し合っている風のやり取りをしなくてはならない。
そのため回答が用意されているセンシティブな話題をあえて学生側は振るのだ。
「補助金って結局は国民の血税ですよね? それを一企業がジャンジャンもらえるってやっぱりおかしいことだと思うんですよ」
俳優の学生が補助金ありきで儲けている経営者に対してそう切り出す。すると経営者はこう答える。
「たしかに公平性に欠けることは認めます。けれどわたくしたちの事業のおかげで世の中のなかなか仕事に着けない障碍者や訳ありの方たち……言い方は悪いですが社会の底辺が食い繋げられている。そういう方たちの命を守るためにも補助金を貰わないわけにはいかないんです。これはおかしいことですか?」
「それは……おかしくないですね」
そこで打ち合わせ通りの拍手が起こる。
……茶番だな。補助金が底辺に行き渡るまでにどれだけ中抜きされているか分かったものではないし、その訳ありの方たちの中には犯罪者やマフィア絡みもいる。
俺がいると断定している理由は、その経営者の事業の実態がそういう暗いものだと高天原の調査で判明したのを聞いたことがあるためだ。
それからも学生側が疑念を振って成功者たちが実はこういう理由があったんだと美化したような茶番劇を何度も続けていく。
それで放送用の十分な尺が確保できた。
ただスタジオの収録時間はまだ余っており、その場合はフリートークに入る。
これは放送では基本流さないものだが、緊急時に流せる扱えるボツネタ集としてストックして置くものらしい。
「ホルン、もう少しアドリブを聞かせて自分を売り込め」
「ご、ごめんなさい。お父さん」
フリーになった早々にホルンの父親、貝塚渦からしっせきされた。
それで少し沈黙が走る空気になってしまうが隣にいる与党の議員が彼をなだめて場を和ませる。
「まあまあ、貝塚さん。こういう場で表立ってのしっせきは空気悪くしますし止めましょうよ」
「亜土内さん……あなたがそういうのであれば」
まさか、このスタジオで会うことになろうとは……
亜土内 新、中東系の帰化議員で30代の若さで外務大臣を担当している。
「さあ、さあ、なんでも聞いてよ。面白いネタになったら儲けもの。ダメならNGになるだけだしさ」
このスタジオに来てから目に見える全ての出演者、そしてスタッフの意識には目を通した。
結果として言うと赤チーム、学生には意識が極端に歪んでいるものはいない。
対して青チームで意識が歪んでいないものは二人しかいない。
貝塚渦の歪み方は相当だ。大天使ほどと言ってもいい。
アドナイ・アラーを除く5人も歪んでいるが貝塚ほどではない。
となるとヤハウェイと関りがあるが立場としては高くはないのだろう。
ホルンの方の意識が正常寄りなのは父親がヤハウェイに関わらせていないということなのだろうか?
それでアドナイ本人はどうかというと……視えないというのが答えだ。
なにも意識していないわけじゃないだろう。真実の光さえも届かない底知れない闇の奥底まで本心を隠したような……そういう視えなさだ。
船田社長から話を聞いていた時からヤハウェイでも相当な地位にいることは推測出来ていたし、貝塚への対応を見るに大天使よりさらに上の存在なのは間違いない。
けれどそうだとしても視えないなんてことがあるんだろうか?
見るも悍ましい醜い意識が見えるのだろうと思っていただけに予想外で不気味すぎる。
だからこそ俺は挙手をした。
この場で問いただし見極める必要があると直感が告げている。
「おお、彼氏君。場違いなんて気にせずにズバッと来てくれていいよ」
「では遠慮なく……アドナイさんは少し前まで議員ですらありませんでしたよね? いつの間にか議員名簿にその名前が追加されていた。選挙に出てもいない……それも目立つ帰化人がしれっと議員になっている。しかも鳳凰堂氏から外務大臣の任を引き継いでまでいる。騒がれるべき案件だ。けれどメディアはまるで取り上げない。どころか野党もそこを指摘した形跡がない。どういうことなんです?」
そこまで言うとスタジオが凍り付いた。
予想通りかなりのタブーだったのだろう。
だがアドナイは笑い飛ばすように陽気に答える。
「へぇ、君面白いね。ネットの声はだいたい黙らせたし記録もちゃんと追えないように改竄したんだけどなぁ。まあ、僕は外見からどうしても目立つよね。無理があったかな」
「非を認めますか……選挙制度に反した存在なら辞任すべきではありませんか?」
「はは、なんで辞任しなきゃならないのかな?」
そこでアドナイの声色が少し変わった。
それに周囲の青チームの面々が怯えるも俺は即座に切り返す。
「訴えなど起こらないしどうにでもなるからということですか?」
「もうNGな話題になっちゃっているから答えるけどそういうことさ。逆に聞くけど僕の何が気に入らないのかな? 不正でこの立場にいても仕事をちゃんとするならいいじゃない?」
「外務大臣とは外国との対応を前線で担う仕事です。それを不正な手段でその座に登った帰化人に任せるのは危険だ。信用がない」
「信用か……いいね。君15歳だっけ? それにしてはとてもしっかりしている。赤チームの誰よりも。どころか青チームの大人たちよりも上かもね」
「称賛なんて求めていません」
「あはは、外務大臣に褒められてはしゃがないか。凄い子供だ。うん、そうだね。僕も信用は大事だと思っている。それがないから怪しい相手は見張ってなきゃいけない。疲れるよね~。ねえ、どうしたら信用って生まれるかな? 裏切らないって保証ができるかな?」
「お互いに嘘をつかない。騙さない。それだけでしょう」
「うん、そうに違いない。けど政治も経済もさ相手を騙してナンボなんだよね」
「なら今の政治も経済も土台からしておかしい」
「あはは、違いない……うん、似ているね」
「似ている?」
「むか~し、むかし、僕に反抗してきた怖い相手がいたんだ。君はその彼に似ているなって」
「そうですか」
そこでフリートークの時間が終了する合図が鳴って番組は終了となった。
「ここまでか。プロデューサーさん、タブートークする子は基本締め出しなんだけど、この子は面白いから御咎めなしでいいよ」
「わ、分かりました」
そこでプロデューサーが収録現場に入りアドナイに頭を下げることなった。
◆
収録語に出演者は各自帰っていいのだが、俺とユーハはプロデューサーに呼び出されることになる。
理由は当然、タブートークをアドナイにしたことだ。
「ユーハちゃん、この彼氏なに? 僕の首が飛ぶかと思ったよ!」
「知りませんわよ。だったらフリートークのタイムなんて入れるなですわ」
「まあそれは御もっともだ。けど尺稼ぎでここで撮り貯めたストックあると何かと便利なんだよね」
「だったらリスクを受け入れろですわ。それ以外の部分は完璧にこなしていますしそれで文句言うのは要求のし過ぎでしてよ」
「ぐぬぬ……確かに二人とも初とは思えないくらいトーク上手くて驚いたしそこは評価したい」
ここまで場違いだの若干罵倒気味に俺のことを言っていたユーハだったが、こういざとなればフォローしてくれるのは恋人だからだろう。
……いや、俺ほどではないが茶番に付き合わされて不快だったからの方が大きいか。
「行き過ぎたトークをしてあなたの進退に影響を与えたことに対しては謝罪します」
ここで俺は深めに頭を下げておいた。
あの場の発言からの流れで収穫があったから後悔はないがそれはそれだ。
「うん、まあ分かればいいよ。それじゃ帰っていいよ」
「いえ、その前にいくつか質問があるのですがよろしいでしょうか?」
「え~、君この状況でよくその選択が取れるね。ユーハちゃん、頭いい彼氏なのは分かるけどこの子ちょっと怖い」
「面倒ごとを片付けてくれる超便利な彼氏ですし相手の意識を破壊する怖さなんてどうでも良くはなくて?」
「意識を破壊するって何言ってるの?」
これはユーハがカマをかけた。
ヤハウェイの契約者なら「意識の破壊」に反応するはずだ。
つまりプロデューサーは関係ないことが分かる。
けれど番組の方針はヤハウェイの都合がいいようなプロパガンダが組み込まれている。
ということは……
「この番組に出演するにあたって放送当初の映像を参考に見てみました。そのあとユーハから今の企画書を、そのあと台本を渡されて随分と形態が変わったんだなって印象を受けました。こういってはなんですが昔と違って今は青チーム側の都合がいいような筋書きがすぎるように思えます」
「それそれ、やらせが過ぎて気持ち悪いですわよね」
そこまで聞くとプロデューサーは思い当たることが多々あるのか頭を悩ませる。
「やっぱ学生にはそう映るよね」
「なにがあったんです?」
「簡単に言うと上層部の圧力と出資先の要望かな。それにある程度は答えないと制作資金が切られるんだよ」
予想は着いていたがやはりか。
ヤハウェイはできるだけ証拠を残さないため自前での制作・運営は行わない。
それでメディアを操作したいとなればピンポイントで上層部だけを取り込み、あとは外資や政治の公金で要望を通すのが無難だ。
「やりたい番組でもなんでもなくなっているじゃありませんの。本末転倒ではなくて?」
「そんなの分かっているよ。うん、何やっているんだろうなってスタッフたちとも愚痴りあっているばかりだよ最近は。はぁ、忍君……ユーハちゃんのお父さんみたいに独立したいけど不安定になるんだよね、収入」
「そうなんですのよね。そのせいであたくしちょっと苦労しましたの」
「娘が言うと説得力あるねぇ。ええっと、もう質問はないかな、彼氏君?」
「はい、この番組はいい経験になりました。参加させていただきありがとうございます」
そのあとテレビ局を出たところで俺はユーハに告げる。
「確証とまではいかなかったけれど唯一神の依り代を見つけられたと思う」
「あの外人政治家ですの?」
「ああ、アドナイ・アラー。ヤハウェイとの繋がりは元から分かっていた。そして唯一意識が視られなかった。さらにその発言傾向も妖精の女王やルシフェルから聞いた像とも一致する」
「あれ、だったら意識を不意打ちでぶっ壊せば良かったんじゃありませんの?」
「視えない意識は壊せないから……あれ、けれどなんでそんな対策をしているんだろう? 俺以外にも意識を視られる存在がいる……もしかしたらヤハウェイの身内にか。自分が内部監査する側だからこそ思惑は悟られたくないというところか」




