第7章【A.A.】①
新たな契約によって再び力の制御が叶った俺は己の悪魔化の変身を解いて人間の姿に戻った。
そしてルシフェルと今後の具体的な話し合いをする。
「……確認するけれど、唯一神は依り代となりえる人間と契約している。そいつさえ殺せば唯一神は延命手段を失う。ということでいいかな?」
「然り、現在契約している者を殺された場合、新たな契約者を得ることはできる。しかしそれではもう間に合わぬからな」
「どういうこと?」
「より強き契約と力を扱う頻度が多いほど契約による神、悪魔、自然などへの進行が早まる。唯一神との契約もそれは例外ではない。だが依り代が完全にその存在になるまで進行するには恐らく何十年という時間がかかる。それは唯一神が神々の権威全てを独占しているからに他ならぬ。依り代たる契約者には権威全てを受け止めきれるだけの時間が必要なのだ」
「そういうことか。なら依り代の契約者を見つけ出しさえすれば勝ち筋は見えたようなものだろうけど誰かは分かる?」
「正確には分からぬ。だが今は同じ大地におろう」
「日本に?」
「唯一神は自ら決して表に出ない。しかし表舞台に姿を見せぬこともない。それは部下を信用していないが故に。此度の支配先が日本ならば日本のどこかにいよう」
「部下を信用していないから現場にいるか……もっともらしい納得のいく答えだ。流石に海外だと調査の手が回らないけれど国内ならクーデターまでになんとか見つけられそうだ」
「ではヌミノース世界へと戻るがよい。戻り方は分かっておろう?」
「ああ」
俺とルシフェルが互いの交信で同座標にいることが条件だったなら帰り方も同じだ。
ヌミノース世界の契約者が契約した存在と同座標にいる場所に行けばいい。
そういう意味ではもし俺が一人で向かっていたら帰ってこられなかっただろう。
さて、できれば知っている場所に戻りたい。
となると嵐の妖精と契約しているユーハが案内役になるのが適任だろう。
妖精の森付近に戻れるかは謎だが、妖精由来ではない場所にはまず行きつかないはずだ。
ユーハたちにその説明をしたあと彼女に案内役をしてもらい王都から南西にある湖までやってくる。
そこには銀色の風の渦あるらしい。
3人はともかく俺は魔階層の契約者だからこれは見えないため、あるという言葉を信じるしかない。
俺たちは風の渦を潜り……ヌミノース世界の妖精の森から少し離れた川岸にたどり着いたのだった。
そこから妖精の女王に魔階層の話と俺の力が制御し直せたことを報告してから現実へと戻ったのだった。
◆
5月28日、月曜日
昼休みに学校で生徒会の雑務をこなしつつ唯一神の依り代はこの日本のどこに潜んでいるか考える。
少なくとも田舎にいることはないだろう。
いるとすれば政治と経済をコントロールしやすい首都近郊、そこで身内の背信を見られる立ち位置にいるはず。
「キューセイ、テレビに出ますわよ」
そこでユーハは唐突に自らの話題を振る。
マイナーとはいえ一応はモデルであるのだからおかしいことではない。
「それは凄いね。頑張って」
励ましだけ言って雑務を続けると彼女は手を使って俺の顔を曲げて自らに向けさせる。
「いや、あなたも出るんですのよ」
「は? 何故?」
「実はバラエティ番組からうちの事務所に急なオファーがかかって現役学生の条件を満たすあたくしが出ることになりましたの。それで当日の番組概要をざっと説明するこの企画書を渡されて読んだところで面倒なことに気付きましたの」
そう言いながら彼女は俺にその企画書を渡してきた。
政治系のバラエティ番組で現役の議員や起業家の青チームと学生の赤チームが雑談や討論する流れがメインなようだ。
ただ完全に自由な討論という訳でもなく進行通りに話の流れをもっていかなきゃならない民衆へのプロパガンダ目的がある。
その性質上、学生側は話を合わせる能力がある芸能関係が望ましい。
それでいて面白いこともアドリブで言わなきゃならない。
となると模範的な学生芸能人じゃ務まらない。
「……確かに面倒だね」
「船田社長の会社のCMに出たのが裏目でしたわね。あれでテレビ局のプロデューサーの目に止まったのがキカッケですの。おまけに父親が……」
「そういえばユーハのお父さんのこと聞いていなかったね。お母さんの方は亡くなられていると聞いただけだったし。どんな人なの?」
するとユーハは口を尖らせて嫌な顔をしだした。
「ユーハ?」
「はぁ……どの道は紹介しなければなりませんものね。フリーのアシスタントプロデューサーですわ。正規のプロデューサーから依頼を受けて手が回らない作業をこなす感じでしてよ」
「それってアシスタントディレクターじゃない?」
「使いパシリじゃなくて代理で指揮を出す方ですの。一応結構なキャリアですから」
「ああ、なるほどね。それでそのお父さんが何かしたの?」
「実はそのテレビ局のプロデューサーが父と友人なんでしたのよ。どこかの居酒屋で飲んでいる時にあたくしの話題になって「それ、俺の娘なんだ。君のところで使ってよ」って流れになったんですのよ~」
「仕事を振ってくれたいい父親じゃない?」
「面倒な仕事を振るなですわ! あたくしはモデルでしてよ。トーク力自慢の芸人でなくってよ」
下手なタレントや芸人よりもトーク力ありそうな気はするがまあいいか。
「経緯は分かった。それでどうして俺も出ることになるの? 俺は芸能人じゃないんだけど?」
「その辺は大丈夫ですわ。事務所経由で芸能人じゃないけどこのバラエティをこなせるとても頭がいい彼氏も出していいかってそのプロデューサーに確認したところOKが出たので」
「せめて俺に許可とってからにしない?」
「彼氏なんだから別にいりませんわよね?」
「……そうだね。君はそういう人だ」
「ですわ」
「まあテレビ局への探りはどの道として必要だったからありがたくはあるよ」
「決まりですわね。明後日は、あたくしに代わって面倒ごとは任せましてよ!」
「明後日って本当に急だね」
「学生側の募集ハードルが高いんですのよ。アイドル系の学生は下手な政治発言をすればイメージに傷がつきかねませんし」
「そうだよね。けれどこの番組4年も続いているあたり人気ではあるんだね」
「普通なら話す機会のないお偉いさんと学生の会話シチュですもの。センシティブな今の話題にも触れますし」
「視聴者の興味を引きやすいわけか。実態が上っ面だけの茶番だったとしても……茶番か。だとしたら……」
「ん、どうかしまして?」
そこで俺は他の生徒会役員に聞かせられないため、発言せずに手元の用紙に「ヤハウェイが絡んだ案件番組なのでは?」と書いた。
「ああ~、そうかもしれませんわね」
「そうだとしても行く価値はある。リルルとシュンノスケは必要なら呼ぼう」
「分かりましてよ」
◆
5月30日、水曜日
平日に学生たちを番組で扱う場合は学校を休ませるか、配慮して放課後からの時間となるが、この番組は前者と撮影時間は昼間となる。
それも相まって芸能人以外での学生を参加させるのも難しい。
俺とユーハは学校に許可を取ってテレビ局に向かった。
撮影時間前なので学生側の休憩室へと案内される。
そこには既に待機している芸能人学生が複数いた。
「妖風遊葉ですわ! 此度の番組ではよろしくなすってよ!」
休憩室に入って早々、ユーハは他の芸能人学生に挨拶して回る。
船田社長の件でモデルの仕事を見せてもらっていた時もそうだが、仕事での礼儀、あいさつ回りはしっかりしている。
弱小事務所なことも関係しているのだろうけれど、それを差し引いても仕事への意識が高いことが大きいのだろう。
挨拶された側は無難によろしくと返してくる中、一人感銘を受けたようにユーハの手を握る女性がいた。
「わぁ、CM見て綺麗な子だなって思っていたけど生で見るとチョーヤバイ」
「ふふん、当然でしてよ。えーと、あなたは……あ、最近歌番組で見ましたわ。ホラ貝でしたっけ?」
「ブブーおしい。貝塚ホルンです」
リルルとは別の意味でおっとりした女子という印象だ。
「歌手がこの番組に出るの珍しいですわね」
「それを言ったらユーハちゃんだって」
「あたくしは父親と親しかったこの番組のプロデューサーから指名されて」
「あはは、そうなんだ。わたしのほうはね、お父さんがこの番組の赤コーナーで定期的に出ている起業家で、今回学生枠が足りないから出なさいって言われた感じかな」
「無理やりですの? 嫌なら出なくていいですのに」
「そういう訳にもいかないよ。お父さんのメンツにも関わるし」
「お互い大変ですわね」
「そうだね~。ところでそっちの子は同じ事務所のタレントさん?」
「いえ、あたくしの彼氏でしてよ。すなわち一般人! 場違い!」
「帰っていい?」
「あーそれはダメでしてよ」
帰ろうとするとユーハは俺にガッシリ抱き着いて引き留めてきた。
「あははは、ユーハちゃん面白い。そのノリなら番組でも受けるよきっと」
「当然、このノリでぶちかましてやりますわ。あ、ヤバそうになったら軌道修正お願いしますわねキューセイ。そういうの得意なんですのよ。彼」
「はえ~、頭良さそうな子だなって印象だったけどそういうことできるんだ。MCとか目指せるんじゃない」
「そうですわね。キューセイ、うちの事務所に入ってそれ目指します?」
「目指さないから」
この流れで俺に興味を持ったのか、男性の芸能人学生から何度か話しかけられることになった。
雑談を続けている内に昼間の番組の時間が近づいたため俺たちはスタジオへと移動したのであった。




