6章⑥
「ルクス・アバドン!」
開始早々にルシフェルの足元から光の柱を発生させてその姿を包み込み焼き尽くす。
しかし魔法の効力が切れてそこにいるルシフェルは傷一つとしてついていなかった。
「やはり耐性は俺と同一か」
「然りな、されど技の手前は同じかな? ルーン・アバドン!」
俺の周囲の床8か所からルーン文字が浮かび上がりそこから光が放出され、それらは螺旋を描くように光の柱になり俺を覆いつくす。
結果的には俺のルクス・アバドンと焼く範囲は変わらない。
しかしルーン文字の影響と螺旋状に光を編むことでエネルギーの動きが対象を縛り上げるため負荷量が格段に上がっている。
そのせいか光への完全耐性があるというのに俺の方は少しばかり命を削られるに至った。
「ぐっ」
「半身となった時点でそなたには我が力の半分が備わっている。持つべき力もそして相性も変わりはしない。違うとすれば……」
生きてきた時間と経験だ。
俺の得た魔法は全て作り立てで粗ばかりだ。研鑽の時間などなかった。
対してルシフェルは唯一神に人から切り離されて魔階層が生まれてその王となってから今に至るまでの膨大な時間で全ての魔法を研鑽しつくしているはず。
「フォトン・デカラビア!」
光で形成した5角形の鏡を10個も周囲に展開し、それらを不規則に周回させつつ鏡から特殊な光を発生させながらルシフェルを包み込もうとする。
「スターダスト・デカラビア!」
しかし天井より星型の光が流れ星のように無数に降り注いで鏡を全て破壊しまった。
魔法の性質こそ違うが後出しで同じ悪魔の名前のものを出してきているのはあえてなのだろう。
使い手の不足を知らしめるために。
「それでも……レイ・ベリアル!」
「ディレイ・ベリアル!」
ルシフェルの真上に光のハンマーを形成、そのまま振り下ろそうとするもハンマーは俺の制御を受け付けずに宙に浮いたまま動かなくなる。
ディレイ……つまり対象を遅延させて制御権を奪ったということか。だとしたら……
「なっ!」
ルシフェルは宙に舞いハンマーを手に取り俺へと投げつけた。
それを俺は回避するしかなかった。
回避した先にある壁は高反発の衝撃で大きくヒビが入り、そしてハンマーの先からはレーザーが無数に照射される。
そのレーザーの1つがユーハたちに向かう可能性を俺は察して彼女らの前に移動する。
予想通り飛んできたレーザーの直撃を受けきってなんとか被害を抑えたのだった。
しかしこれも光への完全耐性で効かないはずなのに命が少し削れる結果になってしまった。
「……身の精一杯で仲間を気遣う余裕もなくなることはまだないか。だが、光明が見えることもない……光への完全耐性が互いにあるとしてもそれ以外の要素は全て受ける。だからこそ分かるだろう。今のそなたが如何に届いてないかを」
それに対して観戦していたユーハたちは切れ気味に口を出す。
「何千年だか知りませんがそれだけの時間を生きた超老害が力を得て一月くらいしか経っていないペーペーを虐めて何がしたいんですの?」
「そうだよ、卑怯だよ」
「初めから勝負になってねぇだろ」
当然の反応だという顔のルシフェルはそれを否定せずにこう答える。
「そなたらの言うことは最もだ。だが……だからなんだ?」
「な?」
「不条理は常としてある。勝ちを逃す危険を冒してまで手心を加えられる美学など唯一神の系譜にはおるまいよ。違うか?」
「! ぐぬぬ……このわからずや。いいですわ、だったらあたくしたちも加勢しましてよ」
俺の前に立って3人は何か交信を始めた。
その直後に変化が起きる。変身だ。この魔界層においてヌミノース世界の契約者が力を行使するためにより深い契約を結ぶことでそれは起こる。
しかしそれは俺同様に進行を速めることに他ならない。
「まて、皆、そんなことをしたら!」
「構いませんわ。ここで負けるよりは……」
「ほう、この世界において自然階層の契約者が己の姿を変えるか……なら、フォール・オブ・サタン!」
ルシフェルは光の大剣を生成しそれで何もない空間を切り裂く。
見た目として空振りに見える。
だが変身中だった3人の姿が人間に状態に戻ってしまった。
「え、どうして?」
「この大剣は昇格という事象を切り伏せる。よって今、そなたらがやろうとしたより強き契約は無効となりしばらくはできなくなった」
「そんなのありですの」
「ククク……流石に人の身の姿でこの戦いに割っては入れまい」
「舐めるなですわ。それでも……」
「いや、いい。ユーハ」
そこで俺は彼女の肩を引っ張って止めた。
「キューセイ、でも」
「やはり俺一人でやらなきゃならないんだ。ジ・シャイニングターン」
タルワール形状の剣を光で生成して彼女より前に出る。
「どうやって勝つんですの?」
「分からない。けれどあの大剣の使い方を見て思うところはあった。探れるものはあると思う。リルル、回復だけ頼める?」
「うん」
リルルからの回復を受けて全快に戻ったところを見計らってルシフェルは語りながら切りつけてきたため、俺は応戦する形で剣劇に持ち込つつみ話を聞く。
「神の救いは自らの足元を掬う罠に他ならない。そして己と向き合う意思を捨て盲信することは位を得た堕落である。であるならばその真逆を行くことこそが……」
「その者のためなのだろう。けれどほとんどの人はその矛盾から目を背ける」
「そう、故に真実とは求められているようで求められていない。代わりに耳障りの言い納得が求められた。長き時間の中で人々が捨ててきた真実という光がどこに落ちたかといえばここ魔階層、そして我よ」
「なるほど、疑問ではあったことだ。人が本来持っていた向き合うべき悪意が切り離されたとしてそれら1つ1つはその捨てた本人と同等程度にしか強くないはずだ。けれどルシフェル、お前の強さは唯一神さえも脅威と見なしているほどだ。つまり今、この世界にいる悪魔というものは人が向き合えなかった悪意の集合体でもあるんだな。それが種別ごとに形を成している。けれどならお前の命は永遠のはず。この世界に光を放出し続けていてもその量を調整すれば捨てられ続ける真実の供給量と差し引いて寿命は残せるはず」
俺がその答えに至ったのを見てルシフェルは笑いながら大権を振り抜き俺を大きく弾き飛ばす。
やはり剣劇においても勝ち目はまるでない。
けれど殺気はまるでなく先ほどの魔法戦闘以上に遊ばれている。
それはユーハたちも感じたのか、ルシフェルの語りを聞く態度がより真剣になる。
「魔階層の王としての責務は果たすべきと思うておる。しかしそもそも唯一神が成した今の全ての世界のありようを良しとも思うておらぬ。不文律のまま永らえることが正しいのか?」
「だとしたらルシフェル……いや、ここにいる悪魔たち全てが同意しているのだろう。お前たちの望みは……!」
「そう、人に還ることだ! 勿論、果てしない時が経ったあとだ。元通りなど叶わぬと分かっておる。それでも新たな明日を目指さぬ理由にはならない」
「その新たな明日がどんな結果を生むとしてもか」
「それが自由であり、それを認められる覚悟こそ責任だ。恐らくは人類の人口は減少するだろう。かつて繁殖が上手くいかなかった時のように」
ようやくわかった。
何故、こういう形式で勝ち目がない戦いをルシフェルが促したのか。
俺にも人類の人口が減少する結果を受け入れろということだ。
そうなった際の責任を持てと。
その覚悟こそルシフェルを……光の悪魔たちを従え制御する条件なのだ。
「いいだろう。俺はお前たちが目指す明日を認めよう。そして俺たちがその上で自分たちの明日を目指す。更なる契約だ。それをここに示す」
そこで俺は自らの光の剣に失敗覚悟で試みをする。
風を纏わせ、水を滑らせる。
そして自らの足には迅雷の如き速さがあるように力を込めて床を踏み込み距離を一気に詰める。
エリシアが自身の適性以外の属性を扱えることからも修練を積めば俺たちもそれはできるのだろう。
けれど今の俺はそもそも修練する間がなかった。
だから見よう見まねでユーハ、リルル、シュンノスケの要素をわずかながらでも再現した。
それによる剣への威力補正などないに等しいだろう。
けれどこれが力を得てからの仲間たちとの旅路の形だ。
それに受け答えるようにルシフェルは俺が振り落とした剣を大剣で受け止める。
だが、衝突した大剣の刃にひびが入り……それは折れることとなった。
「……意味のない攻撃だ。己が得意な光をより高度に編んで剣に上乗せしたほうがよかろうに。しかし今はこれでよい」
ルシフェルは大剣を己が意思で消した。
戦いは終わりだ。だから俺もまた剣を消す。
「明星救世よ、そなたはもう半身ではあるまい。依り代ともならん。唯一なる神を倒すその時まで我らを従えん主となった。それが新たな契約だ」
ルシフェルは右手を差し伸べてきたため、俺はそれに応じて握手をした。
「共に倒そう、唯一神を。そして築いてみせる悪魔が再び還っても問題がないような世界を」




