6章②
「なんだお前は?」
「その女子と同じ高校の風紀委員長だ。悪いがその子をこっちに渡してもらうぞ」
「ふざけんな! こっちはお持ち帰りの特別料金まで払ってんだぞ」
「だからなんだ、未成年淫行だぞ。恥を知れ」
「させてんのは店の方だろ。俺は客として買っただけだ。何がいけねぇってんだ!」
追いついてみれば案の定、金堂は怒鳴りつけるように筒田に言い分を言っていた。
しかし筒田のほうも引く気はまるでなく怒鳴り返している。
そして連れていた女子はというと薬でも打たれているのか目が虚ろで覇気がない。
「金堂先輩、落ち着いてください」
「そうですわよ、怒鳴り散らせば人が寄ってきて騒ぎになりましてよ」
「悪いが聞けん相談だ」
「お、すげー美人だな。あ~この子はもういいや、やるよ。嬢ちゃん相場の5倍は出すから俺にサービスしてくれよ」
筒田はユーハに興味を示した途端に連れていた女子の手を放して金堂に渡し、ユーハに迫ってそうゲスな要求をする。
「おええ、近くで見るとブサメン極まりないですわね」
対してユーハは率直に不快な顔をして俺の後ろに引き下がった。
「なんだよ、つれねぇな。冷やかしなら首突っ込むんじゃねぇ」
性欲に直球で自分本位なことばかりな態度をしている筒田への嫌悪感が余計に高まった金堂は彼の胸倉を掴んで壁に叩きつける。
「ぐえっ、何しやがる」
「さっきから堕落した物言いばかり、恥ずかしくないのか!」
その金堂の規律を守ろうとする瞳に思うところを感じたのか筒田は怒らずに急に笑い出す。
「くくく、青いねぇ」
「なんだと?」
「真面目に生きていたら報われる。周りから尊敬される。んなわけねぇだろボケ! ブサイクは金使って女買うしかねぇんだよ。頑張って仕事しても使い倒されるだけ。だったらこっそりおいしい思いするしかねぇ」
「腐り切っとる」
「そうさ、腐っている。けどそれが間違いってわけでもない。いや、正しいのさ」
「まずい!」
そこで筒田が何か力を使おうとする気配を俺は感じた。
だからそれより先に筒田の敵意を破壊しようとする。
しかし普通の出力では障壁があるようで破壊しきれないため出力を上げての強引な破壊をしてしまった。
それにより筒田は頭をふらつかせることもなく気を失いその場に倒れこんだ。
「なんだ、急にどうした? 明星、何かしたのか?」
突然のことに金堂は当然、困惑する。
そして直前に俺が言葉を放ったこともあって俺の方を見る。
「……していませんよ。恐らく体調が元から悪かったんでしょう。ともかく金堂先輩はその子の保護を。この男の処理はこちらでしておきます。勿論、この子を沈めていた風俗店も」
「いや待て、お前ならなんとかできるのは分かっている。そこはそのようにしよう。だがやはり不自然だ。胸倉を掴んだ時に首元からこの男の脈を感じ取ったが概ね正常だった。そんな人間が急に倒れるのはおかしい」
……とっさの判断でこうするしかなかったが失敗だったかもしれない。
一度意識を破壊したのもあって今の金堂は以前よりかなり正常に近いで安定してしまっている。
だから違和感にも気づきやすい。
仕方ない。興味の意識をある程度破壊するか。
そう思案した直後だった。金堂が頭を抱えてふらついてしまう。
ふらつきが収まらずに彼はそのまま昏倒するようにその場に膝をついて意識を失ってしまった。
「……あれ?」
「どうしたんですの? 力を使ったのでしょう?」
「いや、使うかどうかは迷っていたんだ。けれどそうなった……オンオフだけじゃない。力の制御が上手くできなくもなっている」
とするとこの二人に対して思った通りの出力でやっていたかも怪しい。
流石に破壊する意識の部位は間違ってはいないだろうが。
「ともかくこの場を処理しよう」
「分かりましたわ」
このあとリルルとシュンノスケと合流し、前回同様に現場に高天原の信徒が多くいる南の地区の警察署へと風俗に沈められていた女子を預けて事情を説明した。
地区の管轄が違うため未成年売春を行っていたその風俗店への摘発は恐らく難しいが、その女子がまた沈められないよう家庭問題も含めて対処はしてくれる手筈となった。
さて問題は金堂と筒田だ。
どちらも死んではいないが警察所内の休憩スペースに運ばれてしばらく経つも目覚めもしない。
ちなみに今いる警察署までその女子と大の男と大男の3人を運ぶ必要があったのだが、流石に薬漬けや昏倒した人間をタクシーにでも載せたら怪しまれるため、その高天原の信徒の警察で大型車を扱える者に来てもらうしかなかった。
協力関係だから問題はないのだが、結局高天原の組織力に頼るしかない自身の判断に思うところはあった。
とはいえ頼らずに上手く処理する方法もなかったのだが。
◆
……金堂の方が先にようやく目を覚ます。
「ここは……」
「警察所の休憩室です。処理はこちらで全てしておきました」
「……そうか、助かる。しかし何故俺は気を失って……」
「過労が原因でないでしょうか? ここ最近の金堂先輩は疲れているように見えましたし」
「確かに少し無理をしていたな。ん、後ろにいるその二人は?」
そこで彼は俺の後ろにいるシュンノスケとリルルに目がいく。
「友人です。その、今日はユーハと俺と、彼らでダブルデートのつもりだったので」
「ああ、そういうことか」
多少、違和感を覚えつつも粗探しする気力もないのか彼は納得したふりをした。
……ふりをしたか。
「そっちで気を失っている男はどうなった?」
「まだ目覚めていません。そのため事情聴取もまだです。金堂先輩を見送ったら俺たちも警察に任せて帰る予定です」
「分かった。明星、お前には世話をかけるな」
「いえ、気にしないでください。そしてお疲れ様です」
「ああ、お疲れだ」
金堂は疲れているのもあってすぐに立ち上がりさっさと警察署を出て行ったのであった。
それを見届けた俺たちは休憩室に戻って彼の前ではできなかった話を再開する。
「……」
「どうしたんですのキューセイ、失敗を後悔しても仕方ありませんでしてよ。やらかしたのならその後どう対処するか考えた方が……」
「うん、考えていたんだ。まず金堂先輩についてだけど目覚めてからの意識を視て確信した。意識が俺たちと同等の正常な状態になってしまっている」
「は? どういうことですの?」
「俺の意識破壊は対象の今ある認識判断を変更させられる。そして破壊する出力が高いほど精神は破壊され、精神が再生した際それは元と同じ状態にはならず正常に近づく。ただそれでも元から適性者になれるほどの正常さへは本来至れないはずなんだ。壊し過ぎればその対象は廃人になるからね」
「でもキュー君、金堂君、意識を取り戻したよね。判断もしっかりできていたし。壊し過ぎたならそれはありえなくない?」
「考えられるのは、金堂先輩の胆力が常人より優れていたからギリギリ精神が持ちこたえられたという説。しかし違うとしたら……俺の能力自体が変質し始めている可能性もある」
「んで、どうするんだ? 俺らと同じ適性者の資質を得られたならあいつも仲間にできるってことだけどよ」
「クーデターの期限にはまだ余裕がある。今からなら十分教えられるし、金堂先輩の性格上誘って断ることはないだろう」
そこで俺はユーハを見つめた。
その意図を察した彼女は両手で×を作る。
「NGで」
「だよね」
「戦力になりそうなのは理解しますわ。けどあたくしのモチベ駄々下がりになりましてよ」
「分かったよ。なら誘いはしない。さて、残る問題はこの男か」
そう言いながら俺は気を失っている筒田の意識を視て安寧の意識を十分に注意しながら少し破壊する。
それにより筒田は目を覚まし辺りを見回したあと俺たちを視認し警戒する。
「な、なんでこんなところに?」
逃げ出そうとするもシュンノスケが休憩室のドアに先回りして道を塞いだ。
「おい、どけよ」
「それはそいつの問いに答えてからだ」
とシュンノスケは筒田に俺の方へと注意を向けさせる。
「目覚めてすぐに悪いけれどいくつか教えてほしい。あなたは少し前から自身の仕事でメンテナンス先の通信基地局の制御システムに特殊なプログラムを仕込んでいる。そうですね?」
「なんでそれを?」
その問い返しを無視して俺はさらに問いただす。
「その特殊プログラムは誰から渡された? その人物が所属する会社の名前は?」
「言えるか! つか、なんでそんなこと知りたがる? あれ、待てよ……ウリエル様の都市で……あー! お前らあの時の奴らか!」
気づかれたか、意外と勘はいいようだ。
「目の前のガキ以外は大学生くらいだしな。間違いねぇ。さてはお前ら俺の特権を奪おうって魂胆か! ……ちっ、数の分が悪い。ここは誓約違反を犯しても異世界に脱出するしか道はねぇ」
そう言って筒田は何かを念じ始める。
「まさか、認識を無視した強制転移か!」
俺とシュンノスケは咄嗟に抑えようとする。
「もうおせぇ」
しかし念じるのがその直前に完成したようで筒田は目の前から……消えずにそのままいた。
「あれ?」
よく分からないが俺とシュンノスケは彼を組み伏せて床に押さえつけた。
「な、なんで異世界に飛べねぇ……あれ、まさか契約が切れているってのか。馬鹿な!」
契約が切れている? 唯一神との契約は勝手に切れるものなのか?
俺は気になって筒田の意識を詳しく確かめる。
……特に変わりはない。いや、俺の意識破壊を防いでいた障壁のようなものがなくなったままだったか。
ということはあれが契約の役割でもあり、それが破壊されたから能力を失ったということか。
これは聞き出すチャンスか、うまく利用できるかもしれない。
「再契約すればいいだけでしょう」
「バカが、新人はそんなことも教えられてねぇのか。契約が切れるってことは主への反旗をしたってことなんだよ。バレたら粛清されるに決まってんだろ」
なるほど、部下を信用しない唯一神らしい。
そう考えると反旗のため力を失わないよう画策していたウリエルは上手く立ち回っていたということか。
「おい、どうすんだよ。お前ら告げ口するんだろどうせ?」
「いや、そんなことしませんよ」
「え?」
「ただあなたの特権に俺たちも少しくらいはあやからせてほしい。初めから目的はそれだけだ」
「そう言って騙す気だろ」
「騙すメリットがない。良く考えたらあなたのように専門技術があるわけでもないし。あなたは契約が切れたことを悟られないように今まで通り役割を果たせばいい。どうだろう?」
「……ちっ、しゃあないか」
「交渉成立だな」
それから俺たちは筒田から自身に特殊なプログラムを渡してきた人物とそれが所属する会社を聞き出した。
会社の名はイエス・エイホバッセ
外資系のIT企業だ。
そして筒田に接触してきた人物は営業担当とされるアドナイ・アラーという人物であった。




