第6章【あるべき世界を目指して】①
5月25日、金曜日
本来なら休日での再会合を予定していたのだが、総代の方で休日の予定が詰まっているということで急遽、この日の夜に高天原神社へと赴いてのものとなった。
急というのもあってシュンノスケとリルルは今回参加していない。
参加しているのは俺とユーハ、エリシア、船田社長、そして俺の両親だ。
ちなみにアイカも来てはいない。
既にアイカには俺がユーハと正式に付き合ったという事を報告して納得してもらっているからだ。
そしてそれは総代にも伝わっている。
だからこの話し合いでアイカとの婚約の話が盾として使われることはそもそもない。
「急なこちらの都合に合わせて参じてくれたこと感謝する。明星の子よ、アイカから事は聞き及んでおる。残念ではあるが仕方あるまい。その隣にいる娘を選ぶというなら止めはせぬ。それがおぬしの意思なのであろう」
「はい」
「ではそれ以外の話をするとしよう。明星の子よ、有耶無耶になったおぬしの脱退についてだが……」
「それについてなのですが知っての通り、鳳凰堂のニュースや船田社長の会社の経営問題によって事情が変わりました。本来なら船田社長の投資で設立した部署で適性者を増やし数合わせしたところでヤハウェイに対抗する算段でした。けれど鳳凰堂の死によって船田社長は国からの公共事業契約をそろそろ打ち切られる。となればそれもできない。しかし時間は待ってはくれない」
「なるほどな。では脱退の話はなしとして異世界の契約の力を提供すると」
「いえ、この状況でもなお善意の強制させる計画には賛同できない。けれど高天原にはクーデターを成功させてもらうしかないしそのための防衛措置も用意してほしい。全面的な協力はできません」
「ではなんとする?」
「脱退はします。その上で協力関係になりたい。まず研究を破棄してください。その上でエリシアを講師として貸出し高天原で適性者の素養がある人間を契約者にしていく。これなら総代は信用できる部下をヌミノース世界での防衛戦力として扱えるし、俺の要望も通る妥協点だと思います」
「なるほど。その通りだ。わしもそれならば飲めはする。研究についての成果は可能であればであったからな。こうなった以上は一端諦めよう。しかし1つだけ聞きたい。そうなればおぬしの母親は仕事を失うぞ。そのことを分かっておらぬお主ではなかろう」
「ええ、親の仕事を奪う俺は親不孝極まりないことなんて承知しています。けれどすると決めた」
「そうか……里奈よ、息子のこの決断をどう思う?」
それに母は既に伝えていたとはいえいざそうなってみたら耐えられないのか爆笑しながら答える。
「生まれて一度も迷惑かけなかったのに、この途端場で飛んだ我儘をしてくれたわね!って感想ですね。あはは、確かに社会人として見たらなんてことしてくれるんだ!なんですけど母親からすればやっと愛すべきバカ息子らしいことしてくれたって気分です。変わっているって思われるでしょうけど納得はしています」
「母さん、長年やってきたことを無にしてごめん」
「いいわよ、いいわよ、気にしてない。あなたもそうでしょ?」
「そうだね。キューセイ、お前は生まれた時から母さんに似てとても賢い子だった。けれどどこか危うかった。それが今は何故か感じられないんだ。感覚的で確証なんてないけれどその彼女や仲間との出会いがいい影響をくれたんだろうね。好きにやりなさい。私たちのことは気にしないでいい」
「父さん、ありがとう」
「……分かった。それがおぬしら両親の答えなら何も言うまい。その条件でゆこう。よって明星救世よ。現時点をもっておぬしを高天原より除名する」
「はい」
その後、総代は今までの険しい表情をやめて笑みを浮かべる。
「強くなったな。故に実に惜しい。次にまみえる時は対等な協力関係よ、頼もしくあれ」
「今までお世話になりました」
◆
5月26日、土曜日
クーデター計画は船田社長の会社が契約を打ち切られるより前である今より3か月未満であることが決定した。
そうでないと公共事業を利用したクーデター補正を船田社長が実行できなくなるからだ。
既に実行部隊である兵の数と質は整っており、起こそうと思えばすぐにでも起こせる状態なのだが、世界情勢を鑑みて機を窺っていた。
そしてヌミノース世界対策が必要という事が判明したことにより、防衛目的で高天原の適性者を戦力になるように整える必要まで出てきた。
その期限は2カ月ほどが望ましい。ギリギリまで引っ張りすぎると船田社長の会社の契約が予想より早く切れてしまう可能性もあるからだ。
そのため講師となったエリシアは今日からしばらくそれにかかりきりになる。
「……という訳だからエリシアの力には当分頼れない」
俺はここまでの事情の説明をいつものショッピングモールのカフェでシュンノスケとリルルに伝えた。
「また4人に逆戻りってわけか。ま、あいつ強すぎたし俺らが強くなる意味じゃいないほうがいいかもな。コツは教わったわけだしよ。んで、これからどうすんだ? 集まったんだし説明だけじゃ終わらねぇよな?」
「そうだね。ウリエルが治めていた都市で最初に話した下品な骸骨天使のことを覚えている?」
その話題を出すとユーハとリルルは露骨に嫌そうな顔をした。
「キュー君、もしかしてそのおじさんを現実で探すって話なの?」
「よくわかったね。リルル」
「そうじゃなかったらいいなって言っただけだよぉ」
「あーうん、そうだね。不快なのは分かっている。ただ都市の各所にある通信基地局に特殊なプログラムを仕込んでいるって結構な役割だなって思ってさ。実は昨日の脱退後に船田社長に相談して、ヤハウェイの大衆の無意識操作が起きている地域の通信基地局の設置とメンテナンス仕事をしている会社を洗い出してもらったんだ。実際に調べたのは秘書の面舵さんで彼から今日の朝に結果のメールが届いた」
そこで俺は自らのスマホにあるその人物の顔写真と履歴を皆に共有する。
「筒田嵯峨雄、40歳。通信会社の現場担当で最近の該当地域のメンテナンスは全て彼が進んで請け負っている」
「ぶっさ、納得しかない顔ですわね」
「思った通り気持ち悪いよ~、見なきゃよかった」
「話を続けるよ。彼は休日、治安の悪い地区の風俗店に良く足を運んでいる。住所も特定済みだ。俺たちは今からそこに行って彼を捕獲するというのが今回の目的。ただこちら同様にヌミノース世界に出入りできる存在だし、場合によっては戦闘になりかねない。できるだけ不意打ちでリスクを抑えたいから油断させる形でやりたいんだ」
そこでユーハとリルルは机をバンと叩いた。
「嫌ですわ、こんなブサイクに媚びるの」
「そうだよ、触られたくない」
「触らせる気はないよ。油断したところを意識破壊で動けなくするし。ただ上手くいくかは分からないからシュンノスケに体を張ってもらう可能性もある」
「あー、俺はそういう担当ね。了解」
「シュンちゃん、何納得しているの? リルルが他の男、それも気持ち悪いおじさんに襲われてもいの?」
「いや、俺彼氏じゃねぇし」
「うわーん酷い。キュー君~、付き合おう~。だからこの作戦やめよう」
「そうですわ。彼女を囮に使うなですわ」
思った以上に二人が拒絶しているな……触れさせる気はないんだけど……それでもか。
「分かった。作戦を変えよう」
「いいのかよ?」
「いいよ。確実性が薄れるだけだ。二人のモチベーションを殺してまで無理にやらせることでもない」
「はーお前頭いいけどその辺は柔軟というか効率悪いことも受け入れるんだよな。そこはすげーって思うわ」
「そうそう、キューセイはそういうところが素敵なんですのよ」
「ねー、キュー君のそういうところ好き」
二人は露骨に俺の両腕に抱き着いてきたのだった。
◆
そして治安の悪い地区にやってきた。
来るのはこれで3度目だがやはり空気として腐敗が漂っている。
「それじゃ手はず通りに。シュンノスケとリルルは誘い込む場所の確保を。俺とユーハは筒田嵯峨雄を見つけてそこに誘導する」
二手に分かれて俺とユーハは風俗が多い区画へと進んでいく。
当然だがユーハが美人なのもあって店前で声をかけるボーイたちは彼女を見てスカウトしてきそうであった。
だから彼らの興味という意識を破壊してそれを未然に防ぐ。
「っ! オフにしにくいな」
「大丈夫ですの? あたくしをジロジロ見ているボーイたちの意識を壊していたんですのよね」
「彼女を守るのが彼氏だからね」
「ふふっ、そういう気遣い好きでしてよ。でも負荷がかかっているならやめなすって。いざとなれば風の魔法で撃退できますし」
「騒ぎになりかねないからそれはできるだけ使わないで」
「はーいですわ。はぁ、せっかくのデートですのに風俗街ってアレですわね」
「ならデートと思わないで行こう」
「ですわね~、んん、あれは!」
彼女は目の前に珍しいものを見たようで驚き固まった。
俺もそのあと見て確かに驚きはした。
「金堂先輩」
「ん、お前らか。なんでここにいる?」
「デートですのよ。こっちのセリフですわ。まさか、モテなさすぎて欲求のはけ口が見つからずについに風俗に……見損ないましたわ」
「違うわ! うちの生徒が風俗に沈められている匿名の通報を貰ったものでな。店の店頭ラインナップにある風俗嬢の顔を見て照らし合わせているところだ」
「休日にご苦労様です。俺たちも手伝いましょうか?」
「ちょ、キューセイ、目的が違いましてよ」
そう小声で行ってくるユーハに俺も小声で返す。
「それはそうだけど流石に捨て置ける問題じゃない」
「もう、ド気真面目ですわね」
ユーハがやれやれと呆れたところで風俗店から一人客が出てくる。
探していた筒田嵯峨雄だ。
しかも彼は明らかに学生の顔の女をお持ち帰りサービスで連れ帰ろうとしていた。
「ぬ、あの子だ。間違いない。明星、手を貸せ!」
颯爽と突撃する金堂をあとに俺とユーハは額に手を当てる。
「こんな偶然ってありまして?」
「あったのだから受け入れるしかない。下手すると金堂先輩の身が危ないしアドリブでフォローするしかないか」
「ああもう、面倒ですわね」
金堂はそのガタイの良さを生かして筒田嵯と女子を強引に路地裏へと連れ込む。
恐らく説教を開始するのだろう。
俺たちも急いで路地裏へと駆け込んだのだった。




