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5章⑧

 

 放課後に俺たちはAIシップエンジニアリングビルの社長室へと赴いて船田社長と話し合いを始める。


「病み上がりなのに早急に呼び出して済まないね」

「あの発表をされてしまえばこっちもすぐに話し合って後手に回らないよう方針を固めなくてはなりませんし」

「ありがとう。まずこちらに新しく起きた情報を共有しよう。実は昨日の時点で僕の元に鳳凰堂氏の案件を引継いだという与党の若い議員がやってきてね。彼の死亡はその時に既に聞かされていた。そして我が社が現在請け負っている公共事業は3か月後の契約更新日をもって打ち切り、別の会社に委託するという宣告までをしてきた」

「かなり早い対応ですね。話を割る形になりますが、先にお教えしておきますと鳳凰堂の正体はアイカを攫った主犯で、ウリエルの座に就いている者だったという可能性が高いです」

「なるほど。そのウリエルは3日前に君に倒された。しかしだとすると事はヌミノース世界の話だ。警察が調べ上げられるわけもない」

「ええ、そしてあの都市は主への反旗を画策していたウリエルに情報統制されていたと思われます。ですから外部のヤハウェイには当時の情報が掴めない」

「つまり君が犯人だという事も分からないわけだ。だとするとここでの発表は何が目的だろうね?」

「ウリエルに限らず自分の支配圏を持つ大天使以上はその情報を秘匿する傾向があります。そうでないなら俺たちの正体はとっくにバレて共有されている。だからこそ今まで大天使を倒してもこのような公の身内の死の発表はしなかった。けれどここでしたということは流石に熾天使まで葬られては余裕もなくなったということなのでしょう。だからこその牽制、そして強硬手段への布石にも思える」

「強硬か、証拠をでっち上げて気に入らない相手を逮捕でもしてきそうだよね」

「ええ、そしてその候補になるのは船田社長あなたの可能性が高いでしょう。次点で高天原も危うい」

「恨みはしないよ。君がウリエルを倒さなければよかったなんて言うつもりもない。鳳凰堂氏が買収の話を念押ししてきた次点で従わなければ何かされることは覚悟していたしね。こっちを揺さぶって味方に付けることを止めて潰しに来たというなら話は早い。契約完了の期限以内に先にこっちから打って出るだけさ。その前に急に逮捕されたり暗殺は避けたいかな」

「ヤハウェイの筋書き次第ですけど、契約の期限を言い渡してきたという事はそれまでは大丈夫だと思います。途中で社長が死んで公共事業が一時的にでも不安定になるのは政府としても信用メリットが削れることに繋がりますし」

「だろうね。しかし引継ぎが本当に早いね。新しい大臣の任命は総理がするものだ。殺害という警察の見解があったらあったでまず動揺するし、人選で時間もかかるはずだろうに」


 そう、船田社長は遠回しに伝えてくる。


「まるで総理大臣もヤハウェイみたいな言い方ですわね」

「そう言っているんだよ。キューセイ君、聡い君ならこれは予想していたよね」

「はい」

「警察のトップや大物政治家やらそんなのばかりですわね。もう全部ヤハウェイなんじゃないですの?」

 そこで俺と船田社長は目を合わせて互いに苦笑いする。

「え、何かまずいこと言いましたの?」

「いや、その可能性が高いから困るんだ。異層制御室の件は国交省が絡んでないとありえないし。シュンノスケの大学も冷静に考えたら文科省が少なからず絡んでいた方が自然かな」

「笑えないよね。当然だけどメディアも結構侵食されている。政府与党は当然としてヤハウェイが関係するだろう外資や事件をやり玉に挙げるニュースなんて絶対出さない」

「もうどうにか改善できる状況でもないし、そんな時間もない。となるとやはりクーデターに賭けるしかありません。当然それをすればヤハウェイは妨害のためにヌミノース世界経由で高天原の幹部を暗殺なり誘拐なりする。ですので事前に防衛対策なり殲滅もしなきゃならない」

「そうだね、やることは変わらない。けれど今の調子じゃ殲滅まで時間がかかりすぎる」

「分かっています。本来であれば俺が高天原を脱退し、船田社長が新しく設立する部署を間借りして仲間を増やしていって数合わせをする算段でした。けれどこの会社の収益となる仕事が大きく減らされたらそれもできない」

「幸いにも君の幼馴染が誘拐されて脱退の話だけは有耶無耶になったのが救いだね」

「……ええ、だから総代ともう1度ちゃんと話し合います」

「分かった。総代との話がまとまったら君の口からも聞かせてくれ。総代の方から連絡は来るだろうけれど僕はあの人のことを完全には信用していない。情報に齟齬があっても困るし。憧れている君には失礼だったかな」

「いえ、憧れているし同じ目線を持てている存在だと今でも思っています。けれどだからこそ俺があの人の立場だったらこちらの要望を完全に通すような頷きはしないし、こちらに黙って策を張るかもしれない」

「複雑だね」

「ええ、見解の相違がないなら素直にアイカと婚約してその地位を次いである意味楽ではあったんでしょうね」

「けれど君はそうしなかった。そしてユーハ君を選んだ。そうだろう」

「え、あ、はい」

「歯切れが悪いな。付き合っているんだろう」


 それにユーハはどう言おうか迷っている素振りだ。

 本当のことを話したら話したで面倒だからだろう。


「僕が掴めなかった人の娘を君は手にしているんだ。その関係が仮に嘘であっても僕を失望させてくれないでくれよ。心象が悪くなれば友好関係にはヒビが入るからね」


 そう話を絞めて彼は俺たちを帰らせたのだった。


 ◆


「仮の恋人関係も疲れますわね」


 ビルを出た後にそう愚痴をするユーハに対して、本来なら合わせて話題を切り替えるべきだが俺はあえてこう切り返す。


「ユーハ、この後も時間ある?」

「ありますけどどうしたんですの?」

「その恋人関係についてね。とりあえず場所を移そう」


 前に訪れた人気の少ない河川敷にまたやってきた。


「少し前にここでお互いの過去を打ち明けましたわね」

「そうだね」

「それでどんな話なんですの?」

「ああ、うん。考えたのだけれどやはり高天原を脱退するのは変えない。その上での協力関係になるのが一番いい。けれど恐らく総代は認めないだろうね。俺がお気に入りだから」

「うわっ、自慢話ですの? それなら付き合いませんわよ」

「違うよ。アイカとの婚約関係が保留のままなのも次の話し合いの時にはよろしくないなって話さ。俺を引き留めるために総代はアイカのことを盾にする」

「それはそうでしょうね。あの子もあなたのこと好きでしょうし」

「そうだね。気付いていたし力を得て他人の意識を視られるようになってからは確証に変わった」

「ええ、ええ、そうでしょうね。恋愛関係だと結構ズルですわよね、その力。ん? あれ……」

 そこでユーハは知られているのはアイカだけではないと察して冷や汗をかき始める。

「うん、何を考えているかは分からないけどどういう感情かは分かっていた。リルルも、そしてユーハ、君も」


 そこまで言ってユーハは顔を沸騰させるほどに赤くなる。


「きゅ、キューセイ!」


 急にネタ晴らしになったらこの反応は当然か。


「黙っていてごめん。色々片付いてから答えを出そうと思っていた。けれどそう上手くいかないから。だから今、俺から言うよ。ユーハ、俺と付き合ってください。仮ではない本物の関係として」

「あー、ああああ~! なんですのこれ~! ものすごく恥ずかしいですわ~! というか告白までぶっこまないでくださいまし!」


 ユーハは踊るようにくるくると叫びだした。

 周りに少なからず人はいるため明らかな珍行動に映るが止む得ない。

 しばらくして冷静さを取り戻した彼女は俺をジッと見つめる。


「むむ~、ここは否定して違いますわよ~、あたくしあなたのこと好きじゃありませんのよ。勘違いさせるような素振りしてしまってごめんなさいですわ~。って言いたいところですけど、意味ありませんわよね」

「意識が見えているからね」

「ああああああ~ふ、不公平ですわ~!」


 彼女は俺の後ろに回って腕を回して首を絞める。

 少し苦しいが死ぬ程度のものじゃない。


「話を本題に戻すけど正式な恋人がいればアイカが盾にされることもない。総代も割り切ってくれる」

「わかってますわよ。そうじゃなくて~」

「なら告白しない方が良かったかな? 条件としてはリルルでも良かったし、彼女なら抵抗もなく受け入れてくれただろう」

「それは……」

「脅すとかそういう意図で言ったんじゃないよ。考えたんだ。なんでユーハに決めたんだろうって。彼女としての御しやすさならアイカやリルルでいいって理屈じゃ分かっていた。なんで君なんだろうって……」


 そこまで思いを伝えるとユーハは首を絞めるのを止めてくるりと回りながら俺の前へ立つ。


「……そんなの決まっていますわよ。あたくしが一番輝いていますもの!」

「ああ、そうなんだ。我儘でめんどくさがりで五月蠅いけれどそんな君が一番輝いて見えた。そこに惹かれた」


 たぶんそれを言った時に俺は少し照れていたのだろう。

 だからかユーハは納得して歩み寄って俺を抱きしめて見下ろす。


「まさか自分より背が低くて年下の男の子が初彼になるとは思ってみませんでしたわ」

「嫌かな?」

「気にしませんわよ。ドが付くほど気真面目で義理堅くて面倒見がいいあなたのこと好きですもの」


 そう言ったあとユーハは顔を近づける。

 俺はそれに答えて自らの顔を近づけ互いの唇を軽く重ねたのであった。


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