5章⑥
「リヒトゥン・バール」
ウリエルの周囲に光の粒子を出現させそれらを超振動させる。
それにより雷が発生し大気がギュッと凝縮したように気圧変化までをもたらす。
気圧の変化は突風を生みウリエルを軸に軽い竜巻を生み出す。
それで光の粒子の振動は竜巻で加速しさらに雷を生み出し出力を上げていく。
それは一定に達すると床から天まで伸びる雷光の柱となって弾けたのだった。
『……』
しかしウリエルは直撃を受けてもまるで効いていないようでただ俺を見定めるかのように見下ろす。
「ならフォトン・デカラビア」
光で形成した5角形の鏡を10個もウリエルの周囲に展開し、それらを不規則に周回させつつ鏡から特殊な光を発生させる。
『目くらましか? そんなもので……いやこれは!』
ウリエルは闇の炎で鏡を壊そうとするが狙いが外れる。
そこでこれが目くらましではないことに気付くがもう遅い。
周回する鏡はウリエルを囲い込むように狭まって辺と辺が接合していき10面体のパズルとなって完全に封じ込めた。
それにより内部は特殊な光で満ちてウリエルの姿が完全に見えなくなる。
「仕上げだ!」
俺は故意に完成されたパズルを砕く。
それによりウリエルは完全に茫然とした表情となった。
このフォトン・デカラビアは相手の認識を惑わせる幻惑の光を鏡から発生させる。
それを浴びた敵はまず照準能力を失う。
囲い込まれてその光に満たされると識別も思考プロセスもゴチャゴチャになる。
その状態で完成されたパズルを割るとそれがトリガーとなって、狂わされた認識の解除もできなくなる。
「止めだ、レイ・ベリアル!」
ウリエルの真上に光のハンマーを出現させてその頭蓋へと思い切り叩きつける。
その高反発の衝撃で頭蓋に大きなヒビが入る音が鳴る。さらに接触部分からの無数のレーザーでその体を切り刻まれた。
床に分解されたウリエルの肉片がボトボトと落ちることとなった。
「はぁ、はぁ」
「うくっ、痛い!」
やはりウリエルにダメージを与えるとアイカにもいくのか。
まだ肉片が消えていないという事は生きている。
アイカには悪いがこのまま焼き尽くして完全に消し去る。
「ルクス・アバ……っ!」
唱えきる前に違和感を覚える。
その己の感覚の正しさを信じるかは半信半疑であった。
迷った末に俺は後方に飛んだ。
その直後に天空から黒い火の柱が振り落とされる。
それは床を貫通して政庁の下層を燃え上がらせるほどの威力だった。
直撃していたら重症だっただろう。
いったいどこからと上を見上げる。
そこには奴の背中にあった6つの闇の炎の翼を持つ丸いリングが自律して浮いていた。
そしてそのリングは内周には炎で顔が作られている。
そう、ウリエルの顔だ。
「そっちが本体か」
床に落ちた肉片は宙に浮かび上がって結合していき元の形に戻りつつその背中にリングを再び納める。
『我はもはや肉体という枷からも解き放たれた。ああ、素晴らしい。視えている世界というものがもはや違う。これが神に至るということか』
リングが本来だから肉体の方に幻惑しても意識をリング側にもってくれば回避できたということか。なら!
「レイ・ベリアル!」
「無駄だ!」
やはりリングの方にも視覚が備わっている。
ウリエルはレイ・ベリアルをかわしつつ、両手を合わせて大仰に念じる。
『審判の時だ。主を超える我が威光によって灰となれ!』
その直後、政庁一帯が闇の炎によって覆われた。
あり得ないほどの大規模魔法だ。
闇の炎はあらゆるものを焦がし灰へと変えていく。
それは政庁周辺にいた何も知らない骸骨天使たちも例外ではない。
すべてを灰燼に帰す豪炎が1分ほど続いてようやく収まる。
そこに俺たちはまだ立っていた。
リルルとエリシアは水と氷を掛け合わせた強力な膜を張って何とかしのいでいた。
俺はというと火への耐性が高いおかげで消し炭にはならずに済んだ。
とはいえかなりの生命力を奪われた。
2度受けたら耐え切れない。
『これを耐えるか』
「はぁ、ぜぇ……」
『しかし虫の息だな。よかろう。最後は直接仕留められる栄誉をくれてやる』
ウリエルは炎の剣を生成して右手に持ち床へと降り立つ。
打開策は……ダメだ。殆どの手は試した。
それでもなお底知れない強さがある。
かといって耐性が高くない仲間たちに頼れはしない。
無理に出せば致命傷を受けた時に直しようがないのだから。
ウリエルは動けない俺にじりじりと迫り、目の前に来たところで剣を大きく振り上げる。
終わった……
そう諦めようとした瞬間に声が聞こえる。
アイカたちじゃない。これは……俺と契約した……
——大いなる光は畏怖を呼び起こす。貴様が大事として止まない少女がそうだったように。なれば逆も然り――
逆……つまり俺が恐れていると? ウリエルとアマテラスを……そうかもしれないな。それが引き金になったたということか。
——クク、夜明けを目指さんとする者よ。太陽の天使がそうであったように我もまたこの機会を待ちわびていた。今ならばより強き結びつきが成せよう。されど覚悟せよ。それは貴様をより真実から脱がれられなくする呪いでもある――
……元より逃げる気はない。俺は自らの悪意を……お前自身から目を背けない。だからより強い力を寄こせ。サタン、いやルシフェルか?
——クク、どちらでも良い。良かろう。より強き契約を! 悪魔束ねし我が輝きを今こそ纏う時だ!——
それにより俺の体に異変が起きた。
体中が光に包まれて変容していく。
『こ、この輝きは!』
それに恐れをなしたようにウリエルは距離を取る。
変容して少し背が高くなったのか視点が変わる。
リルルの方にある氷の膜の欠片に映る自分を見てどういう状態かを理解した。
髪は白髪になり、頭には悪魔の角が生えていた。
肌は黒くなり肘や膝からは鋭利な骨が出ている。
つまりこれはヌミノース世界であるのに悪魔の姿に変身できているということだ。
『その姿、馬鹿な。ここはヌミノース世界だ。如何にして!?』
慌てふためくウリエルに俺は冷静に答える。
それだけの余裕が沸き上がる力が今はあるからだ。
「自らの悪意をより受け入れた。それだけだ。ジ・シャイニングターン!」
今ならまだ間に合うとウリエルは炎の剣で俺の首を切り落とそうとしてくる。
それに対して俺は光のタルワール剣を生成して弾き返す。
そしてそのままウリエルの胸を刺し貫いた。
『無駄だ、肉体の枷を外れた我には……』
「分かっている。だからあるべき認識に戻すんだ。これはそういう剣だ」
刺し貫いた光の剣を引き抜いてカギを開けるモーションをする。
するとウリエルの体に異変が起こる。
無機質な肉が剥がれ落ちて元の骸骨の大柄な姿へと戻されたのだ。
同時に背中のリングは消失し、元々の闇の炎の羽も背中から直接生えるようになった。
『馬鹿な、複式契約が解かれただと!』
「終わりだ」
『まっ!』
解除後で動けないウリエルを容赦なく光の剣で一刀両断した。
『おあああああああああああああああああ!』
それによりウリエルは崩れるように剣から漏れる光に焼かれて消えていったのだった。
「……うくっ、限界か……」
ウリエルを倒した直後に極端な倦怠感が襲ってきて変身が解けてしまう。
「キューセイ、無事ですの?」
ユーハが真っ先に駆け寄ったところで俺は立つ力も保てずに彼女の方へと崩れ落ちる。
それを彼女は抱きとめてくれた。
「ケルベロスにやられた時の君以上に消耗したと思う。できれば帰りたいけれど……」
そこでエリシアが都市の状況を見て判断する。
「帰りましょう。今この都市はウリエルが政庁を丸ごと燃やしたことでパニックに陥っている。帰還ルートまでの妨害は受けないはずよ」
「そうか。本来なら異層制御室を操作してこの都市自体を破壊すべきなんだろうけどそこまでの猶予はない。そうなってくると新しいヤハウェイの大天使がここに就任するだろうけど仕方ない。アイカは?」
「複式契約が解除されたところで気を失ったわ。相当負担がかかっていたんでしょうね。この子の生命力の消耗もかなり激しい。急ぎましょう」
そして俺たちは都市を脱出して元来た道を戻り、今回ヌミノース世界に入った場所から現実へと戻ったのだった。




