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5章③


 洞窟を出て谷の先にある草原まで出てそこからさらに山岳地帯を登り頂上を目指す。

 エリシア曰く、頂上まで登ればアイカを攫った飛行船が到着しただろう場所が見えるからだそうだ。


「まるで現実にある街そのものだな」


 実際に到着すると東に視認できる都市が見えた。

 それは現実の都心のように機械文明的な見た目が遠くからでも分かるほど、このヌミノース世界の景色においては異端であった。


「あれが日本におけるヤハウェイの拠点、本部の1つであるはずよ」

「本部という事は大天使の数も複数あると見ていいかな?」

「大天使どころかその上位、熾天使や智天使などももしかしたらいるかもしれない。そうなってくると今の戦力ですべて倒すのは無理ね」

「けれどアイカを最短で救出して知られずに逃げるというのも恐らくは難しいよね」

「でしょうね、仮にあなたの幼馴染……アイカが現実に戻されればそれは彼女に近しい人間が助けたとバレるようなもの。船田社長のように戻ったあとヤハウェイ関係者にシラを切って乗り切る手は使えない」

「再攻撃は免れないか。なら無理にでも倒すしかないね」

「洞窟でもあなたが寝ている間に3人には少し魔法を教えたけれど、ここから都市にたどり着くまでも間があるからできる限りは教えるわ。けれど付け焼刃じゃそこまで戦力は変わらない。それでどうやって敵を殲滅させるの?」

「アイカに契約者になってもらう」


 その言葉に4人とも驚いた。

 彼女を戦いに巻き込まないように遠ざけていた俺が言ったのだから。


「分かっている。今更だよ。けれど神格が保障されているアイカなら即戦力は間違いない」

「そう、ならそうしましょう」

「確認するけれど契約と洗脳を強要するには相応の準備が必要だから時間はまだあるということでいいね」

「ええ、本人の意思を無視した契約はそう簡単にできるものじゃない」

「逆に言えば本人に意思があればそうでもないわけか」

「どういうこと?」

「いや、可能性を考えただけだ。万が一程度のね。アイカがその選択をすることはまずないだろうから忘れてくれ。それとこれは直接関係ない質問だけれど魔階層と神階層についてだ。妖精の女王は魔階層の存在を知っていた。しかし今までヌミノース世界に出入りしていて魔階層に行く方法というのはヤハウェイの研究資料にも見当たらなかった。つまり今は直接行く方法はないと見ていいのかな?」

「そうね、今は恐らくないでしょう」

「昔はあったということ?」

「そうよ、100年前はヌミノース世界の特定箇所で条件を満たせばその2つの階層へと足を踏み入れられたし、逆にむこうの側の神と悪魔も希少ではあるけれど来ていた。けれどいつの間にかそれはできなくなってしまった。恐らく唯一神が封じてしまったのでしょうね」

「なるほど、ということは唯一神、そしてその契約者である天使どもは封印を解ける可能性はあるということかな?」


 そこでエリシアは盲点だったとハッとなる。


「それは……可能性としては有り得るわね。完全な見落としだわ。キューセイ、あなた普段通り冴えてきたわね」

「そうだね。そしてそうであるなら少し急ごう。勿論到着するまでは3人にギリギリまで魔法を教えてほしい。結構アドリブな対応もしなきゃならないと思うだろうから」

「分かったわ」


 方針と懸念点をまとめた俺たちは山岳地帯を下りながら都市を目指したのだった。


     ◆


 本部となる都市の内部には天使どもがひしめている。

 これらは殲滅するつもりだが、最優先はアイカの救出にある。

 そのため救出まではできるだけ気付かれないように極力戦闘を避けるしかない。

 さて、都市への入り方だが意外にも都市を円に囲う塀のようなものは一切なくどこからでも入ることができる。

 不用心すぎると思ったが大天使以上が複数滞在する場所に足を踏み入れる勇気はこの世界の生命にはもうほぼない。

 だから不要というのも頷ける。

 そのおかげで検問などの突破を考える手間が省けたのは良かった。


 エリシアは300年の経験の蓄積によって様々な魔法を高レベルに扱える。

 ヌミノース世界の契約者は現実で能力の制限をかけられるため、彼女の「自身を別人に思わせる」誤認魔法も精度を若干欠いていた。

 しかしここではそれもない。

 彼女自身だけでなく他人である俺たちも含めて骸骨天使と思わせられるようにかかった誤認魔法は、潜入後に行きかう骸骨天使たちに怪しまれることはまるでなかったほどだ。


「天国なのかゴーストタウンなのかよくわからねぇ絵面だな」


 とシュンノスケは呟いた。

 街並みは現代の都心そのもの、そこに骸骨の天使たちが楽しげに笑い、寛いでいるのだから確かに何とも言い難い気味の悪い光景だ。


「亡者の溜まり場と天国はある意味近いものなのかもしれない」

「どういう意味だ?」

「人らしい場所じゃないということだよ。ヤハウェイによって選ばれた存在である彼らは普通の人を見下した高み……すなわち天国にいると思い込んでいる。しかしとしてその実態は欲に塗れた薄汚い金の亡者の溜まり場でしかない。ということだよ」

「は~、なるほどな。つかやっぱお前はものの捉え方が変わってんな。んでどうするよ? バレてねぇとはいえこのままじゃお前の幼馴染……アイカが正確にどこにいるかの手掛かりがつかめねぇ」

「そうだね。……エリシア、彼らに話してもバレる心配はない?」

「大天使以上なら危険性はあるだろうけれど、ここらにいるのは雑魚ばかりだし恐らくは問題ないわ」

「分かった。じゃあ聞き込みをしてみよう」


 そして俺は手前のオープンカフェで陽気に寛いでいる骸骨天使に声をかける。


「少しよろしいでしょうか?」

「ん、どうしたあんたら?」

「その……ここへ来るのは初めてなもので少し臆してしまって……」

「あ~! あんたら新人か。ま、確かにビビるよな。こんな現実と変わらねぇ規模の都市を再現できるヤハウェイの力によ。けどまあテキトーに命令に従ってりゃ問題ねぇだろ。それでおいしい思いができる。あんたらはどういった経緯で入ったんだ?」


 ここは沈黙すると怪しまれるため答えなければならない。

 しかしあり得ない答えを言えば当然怪しまれる。

 ここで俺は空田清美のことを思い出した。

 あの女は大学で優秀な学生をスカウトして自身が所属する機械工学の研究所を起点に勢力を増やしていた。

 恐らくは他の有名大学でもこのような事例はあるはず。ならこう言えば怪しまれないはずだ。


「大学で先輩に誘われて」

「お、というとあんたら若いのか。はは、オッサンの俺はみっともない顔見せられないわ。俺は通信の基地局の設置の仕事をしていてな。まあ金の実入りはなくもなかったが仕事の拘束時間も長いわ、トラブル対応続きだわで嫌気がさしていたんだ。そんなところでよ、ある契約先の営業の方が内密に基地局の制御システムに特殊なプログラムの追加をって頼んできた」

「特殊なプログラム?」

「ああ、ほら、無意識な大衆を操作するためのやつだよ。俺も最初はそんなもん仕込んで大丈夫か?問題にならねぇか?と疑ったたさ。けど接待された後だったしよ。どうせ嫌気差していたしやっちまうかって。んでそうなったらもうネタばらしで引き返せなくなったわけよ。まあおかげで俺も腹くくれて今じゃ立派な一員だ」

「なるほど。ちなみに接待というのは……」

「おいおい、そこは聞くだけ野暮ってもんだろ。俺みたいにモテないおっさんがされて嬉しい接待って言ったら決まっているじゃねーか。ああ、つか、女子結構いたりする?」


 ユーハ、リルルはとても不快なのか引いた態度をとっていた。


「あー……色々教えてくださってありがとうございます。ついでで教えてくださると助かるのですが、少し前に飛行艇が都市に戻ってきましたよね。ああいった時は近づかない方が良かったりします?」

「あ~大天使様の不敬を買わないかってことか。俺ら下っ端は入れない場所を特に言われているわけじゃないが、これ以上は立ち入るなって空気はちょくちょくあるよな。大天使様以上が御用達で使うことが多い飛空艇の関連施設は勿論のこと、研究施設も興味本位で行かない方がいい。中心部にある政庁ビルなんてもってのほかだ」

「なるほど。長くおいしい思いをしたいなら触らぬ神に祟りなしですね」

「はは、上手いこと言うな」

「では、これで。御高説ありがとうございました」

「おう、またな。学生諸君」


 その中身がモテないおっさんの骸骨天使と別れたあと、俺たちは人気……いや、骸骨天使がいない場所で話し合う。


「最低ですわね、あのオッサン。キャバクラか風俗か知りませんけどあ~気持ち悪すぎますわ」

「だね~、リルルああいうおじさん大嫌い。現実だときっと厭らしい目をしているよ」

「けれど情報には感謝だ。おかげでアイカの行方もだいぶ絞り込めた」

「そうだな。つか、よく話し合わせられたな。大学で誘われたってまあ実際あったことだけどよ、当の大学生の俺の方が思いつかなかったわ。やっぱお前回るな」

「賭けだったけれどね。けれど自信はあったよ。ああいう浮かれたタイプは気分よくしゃべりたいだろうしそれをうまく引き出せるように、こっちの情報は最低限に絞ってコントロールすればいいんだよ」

「キューセイはそういうの上手いですものね。金堂君を手懐けるくらいですし」

「金堂君って誰?」

「あたくしの宿敵、風紀委員長のゴリラですわ!」

「ウホホ? 動物が風紀委員長なんだ」

「いや、流石に比喩だろ。分かれよ」

 そんな脱線したやり取りが始まったところでエレシアが頭を抱えだす。

「話しの筋戻してくれる?」

「あ、うん。飛空艇が到着してから少し時間が経ってしまっている。となるとそこにいるということはまずなく、研究施設か、政庁に移送されたと考えた方がいいだろう」

「洗脳するんでしたわよね。という事は研究施設の方ですの?」

「いや、研究という事は分からないものを解明するためにやるんだ。けれど今回はそうじゃない。神階層と契約させ洗脳するという目的が明確にある。となれば確立した手段だけを要いるはず。それは恐らく政庁のほうにあるんじゃないかな?」

「下っ端の骸骨天使どもに非公開の手段を使うとしたら確かに政庁は打ってつけね」

「決まりだね、行ってみよう」


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