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4章②

 

 5月14日、月曜日

 その日の朝、ポストに俺宛てのレターが届いていた。

 差出人は金髪の少女のようで、救出した子供たちの安全が確認できたため2日後にここへやってくるといった返事であった。

 俺は昼休みの生徒会の事務処理のあとにユーハへ昨日の事件とそのことを伝える。


「……なるほど、そうなると船田社長との話し合う日は後の方がいいですわね」

「というと?」

「実は昨日にモデル依頼の仕事はだいたい片付きましたの。それと同時に船田社長も株主との話し合いを纏めて代表の座を維持できるようになって時間を空けられると連絡が来ましたわ」

「思ったより解決が早かったね。そうだね、じゃあ明日に金髪の少女と話し、情報を得た後に船田社長とも話し合おう。金髪の少女との話し合いは俺だけでも問題ないけれど……」

「当然行きますわ!」

「どうして?」

「それは大天使を一瞬で倒せるほどですもの、あたくしのパワーアップ!へのアドバイスが期待できるからですわ」

「ああ、それが目的ね。わかった。じゃあ明日は一緒に俺の家に行こう。リルルとシュンノスケは忙しいだろうし日曜日まで呼ばないでおこう。新しい情報は分かり次第共有するけれど」


 ◆


 5月15日、火曜日

 生徒会の仕事は副会長に投げて俺たちは素早く帰宅して俺の家で待った。

 すると30分後にチャイムが鳴り、金髪の少女がやってきたため出迎える。


「ようこそ、とりあえず入って」


 少女をリビングに座らせてお茶を出して最低限のもてなしをして話を切り出す。


「さて、俺たちのことを把握しているだろうけど一応自己紹介しようか。俺は明星救世、そしてこっちは……」

「妖風遊葉ですわ! 最近CMにも出てましてよ。チェックしてくださいまし!」


 ユーハはノリノリの営業スマイルで少女にアピールする。

 まあ魔法のアドバイスを受けたいからなんだろうけど。


「あ、はい。私はエレシア・ハースマイン。ヨーロッパから来ました」

「西洋、もしや魔女の国からの来訪者では?」

「そんなものはありません」

「では不思議の国からやってきた異世界人とか? お人形さんみたいに可愛いですし」

「それも違います。……ねえ、この子外してくれない?」


 ユーハのテンションについていけないのかアリシアは明らかに不快な顔をしてしまった。


「静かにさせるから寛容になってほしい。ユーハ、ここで不機嫌になって帰られると色々面倒だし魔法のレベルアップもたぶん無理だから抑えて」

「ぬぅ、仕方ありませんわね」

「それで欧州から何故この日本へ?」

「それはこの国がヤハウェイの支配浸食を受けてかなり危うい状況だからです。とはいえ欧州のように取り返しがつかないまでではありませんが。あなた方はヤハウェイについてどこまでご存じです?」

「ヌミノース世界を経由して人々の無意識を支配して犯罪幇助させようとしている。その影響力は警察や有名大学にまで及んでいるくらいしか分からなかった」

「そんなところでしょうね。今後のためにも説明しておきましょう。ヤハウェイとは数百年前から世界を統制支配しようと目論む支配階級が設立した組織です。その名の由来の通り唯一神による絶対統制を実現し、安定した利益搾取の構造を成すことを悲願としている」

「数百年前か、テレビも新聞もない時代でどうやって大衆をコントロール……そうか、宗教と呪い、風評か」

「お察しの通り、しかし原始的な大衆コントロールはコスパの観点から長続きせずに支配構想の確立はなかなか難しかった。しかし現代においてSNSとスマートフォンが普及し、それを介した意識操作システムが開発されたことで事態が一気に急変した」

「なるほど、だから今になって……」

「ええ、初期段階の不完全なシステム、ヌミノース世界に設置する試験段階の電波塔、未完成のそれらであっても何が起きているか把握するのが遅れた欧州の大部分は抵抗することもできずあっさりとヤハウェイの支配下に堕ちました」

「そうなってしまっては直接取り戻せる術はないか」

「そう、だから私は方針を切り替えた。ヤハウェイが次なる支配に置こうとする国へと先んじて赴いて牽制し、そして彼らに抗える契約者を見出して防衛体制を作らせる。それを各国で繰り返していけばいずれ故郷を取り戻す情勢が作り出せると」

「事情は分かった。ではなぜ俺たちに声をかけなかった? 俺たちが契約できていることは既に把握していたのだろう? 眺め続けてピンチになった時だけ助ける真似をする意味もないだろう?」

「それはあなたが高天原の関係者だったから。高天原は今の日本の庶民を守り、腐敗した政府を敵視する組織です」

「なら問題はないはずだ」

「ええ、いずれクーデターを起こして腐敗を一掃し政権を奪い取るだけなら私は警戒しなかった。けれど高天原にはもう1つの計画がある。それは人の意識を高次元へと高める……すなわち人格の強制的な優良化を目標としている」

「……」


 そう、俺が高天原に力を得たことを報告しなかった理由はこれだ。


「人種も出自も問わない。ただ日本の水準を満たすモラルとマナー、良識は絶対なくてはならない。しかし出来損ないの人格は絶対出てくる。私利私欲に溺れ、身勝手に他人を襲い、罪を感じない。それらを絶対的になくすためには意識を操作する力が必要だと総代は判断した。だから研究チームも早くから発足させた」


 俺の母親が務めているのがその研究チームだ。


「理屈は私も理解します。しかし精神の支配を扱うということは高天原が第2のヤハウェイに転ずる危険性にも繋がる」

「だから俺は本家に報告しなかった」


 そう答えるとエレシアは初めて期待が持てる顔をした。


「! そうですか。なら私のしていたことは無駄足でしたね。最悪のケースに備えて、あなたたちや総代の孫娘である天道愛華をヌミノース世界へと攫い人質とできるようにと工作しようとしていたのですがいりませんでした」

「これでお互いの疑念はある程度晴れた」

「そうですね、話し合いをして良かった」

「話は逸れるけれど、治安の悪い地区で攫われていた子供たちを助けていたのはヤハウェイ関係であったりする?」

「いえ、直接的な関係はありません。私は私で大天使を倒していたのですけれど、その大天使が行っていた事業の2次被害で人身売買が発生していることを知りそれであそこに赴いたのです」

「なるほどね。いや、だとしたら金堂先輩からの連絡は偶然ではないのか? 彼の耳に噂が入るタイミングがエリシア、あなたが大天使を倒したことで発生した余波だったとしたら……」

「ああ、なるほど。その可能性は考えなかった。たぶんそうでしょう」

「ひとまずは共闘できると考えていいかな?」

「それはキューセイ、あなたの判断次第です。高天原に契約者の力の情報を流そうとするなら相容れなくなる。しかし高天原はそれを欲しているでしょう? そしてそれを断った場合のあなたの立場は危うくなる」

「御もっともだ」

「返答を待ちます。連絡先を交換しましょう。答えが決まったらかけてください」


 連絡先を交換するとエレシアは席を立ち、家を出て行ったのだった。


「あ、あたくしのレベルアップ~! 聴きそびれたじゃありませんの」

「まだ共闘してないから無理でしょう」

「ならとっとと高天原の話を蹴る……あれ、蹴ったらまずいんでしたっけ?」

「うん、だからしっかり考えなきゃいけない。まあ、契約者の力について開示するつもりはないけれど。クーデターに関しては政府が己を正さない自業自得だからそれでいいと思う。けれど人の意識を強制的に良くするのはきっと違う……ユーハはどう思う?」

「あたくしも違うと思いますわ。悪い奴が出たら出たで成敗してしまったほうが割り切りついてよ。誰もかれもが良い子になんてなってしまったら本来の良い子の価値がなくなりますもの」

「そうだね、本来の良い子の価値が見出されなくなるのは確かに問題だ」


 ◆


 5月16日、水曜日

 その日の朝は、風紀委員との合同会議で決まったランダムな日程での早朝の抜き打ちチェックが行われていた。

 これは本来風紀委員だけの仕事ではあるものの、トラブルが発生すればその生徒が生徒会を頼ってくるケースもありうるためユーハを除く生徒会役員もまた早朝早めに登校して受け答え役として立っている必要がある。

 ユーハが何故除くのかというと金堂と相性が悪いのもあるが、早起きが得意ではないしやりたがらないのもある。

 最近までモデルの仕事が忙しかったこともあって生徒会役員はこれを全員了承済みだ。


「おい、枕なんぞ何故学校に持ってくる?」

「昼寝する時に使うんですよ」

「あのなぁ、お前のその様を周りが見たらどう思われるか考えろ。昼を仮眠に使うのは構わんが」


 金堂がカバンに枕を入れてきた男子生徒を注意していた。

 これは難しい話だ。

 規則上は問題ないがこれを許容してしまうと風紀が乱れる。


「何がダメなんすか?」

「そんなことも分からんのか?」


 ふて腐った態度に金堂はイラつくがそこに割って入る。


「例えばだけれど、君が枕を持ってきていいとなったら皆似た類のものを持ってくるようになる。例えば座布団とか。女子は特に椅子の上に敷きたいよね。けれどそれが当たり前になった教室の景色や清潔感はどうかな?」

「ん~、まあ良くねぇかな?」

「うん、ここから夏にかけて湿気と熱さを綿製品は吸う。そうなってくるとカビが発生してくるし教室の空気まで悪くなりかねない。そういう訳だから控えてもらえるかな?」

「確かにカビ臭いのは勘弁だな。軽率だった」


 男子生徒は反省して枕はちゃんと持ち帰ると約束した。


「手間をかけさせたな。明星」

「いえ、ただ先ほどのように理解がない生徒は多いのでもう少し噛み砕いて教えた方がトラブルにはならないと思います。面倒だとは思いますが」

「そうだな、面倒と思って理解させる気持ちが厳かになってしまった。気を付けよう」


 この金堂とのやり取りは印象的だったのか周囲から評価の声が聞こえてくる。


「ねぇ、あの1年の子、明星君だよね」

「もう、あの金堂風紀委員長に認められているのか」

「他の生徒会役員がビビってる中で勇気あるなぁ」

「というかユーハ生徒会長は?」

「あの人は看板だから、こういう雑務は副会長とか他の人任せじゃん」

「それもそうか。初めは自分より背が低い年下の彼氏ってどういう意図かと思っていたけど明星ヤバイわ。こりゃ次の生徒会長決まりだな」


 そしてこれらの声を聞いていた中にはアイカがおり、彼女は何かを思ってか俺をジッと見つめていた。

 だから俺は声をかける。


「アイカ」

「ん、どうしたのキューセイ君」

「放課後だけどさ、久しぶりに話さない。家のことも含めてね」


 ただ話すだけなら断られる可能性もあったため、高天原のことも持ち出しておく。


「……うん」


 彼女は少し考えた後そう返事をしてくれた。


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