3章⑥
12階に上がると天井が大きく筒抜けていた。
そしてこれまで壁に螺旋状で続いていた階段もなくなっていた。
「あれれ、行き止まり?」
「んなわけねぇだろ。と言いたいところだが階段がないどころかよじ登れるもんも何もないよな」
「つまりここからは飛行しろということでしてよ! あたくしみたいに!」
ユーハは自身の羽をパタパタさせてアピールするが俺はそれに手でストップポーズを取って制止を促す。
「確かに骸骨天使どもは全員飛べるだろうし、ヌミノース世界には飛行できる生物が多い。けれどそうであるなら初めからこの構造でいいはず。なのに前の階までは階段をちゃんと設けている。だとするなら何か先に進む方法はあるはずだ」
俺たちは周りを見渡して探り続ける。
するとリルルが天井方向を指差して知らせる。
「ねえ、あそこにあるのおかしくない? 机が浮いている」
筒抜けた天井は先が見えないし暗いため目を凝らす必要はあるが、確かに机が浮いているのが分かる。
「……もしかして」
俺は壁際へと移動して右足を壁に着けてみる。
すると重心が変わり右足の方に身体の重みがかかり、左足にはまるでかからなくなった。
そのまま壁を歩いて仲間たちに見せる。
「ええ、ウォークライド! キュー君凄い、新技!?」
「違う、そうじゃなくて壁際が高重力になっていて触れると重心が変わるんだ」
「なるほどな」
リルルとシュンノスケはそのまま俺のように壁を歩き始めるがユーハだけは自慢げに自らの羽を羽ばたかせてあえて飛んで上昇していく。
「飛べるって素晴らしいですわね!」
「自慢で無駄に力を使うのはやめよう」
「むぅ、ノリ悪いですわね」
ユーハは受けが悪いと察して壁に着地して俺たちと同じように歩き出した。
……階の高さ換算だと30階くらいまで歩いたところで、壁を登る前は見えなかった天井も見えてくる。
「ようやく先が見えてきたな、このまま……うおっ!」
先を歩いているシュンノスケがいきなり壁からの重力を失い落ち始めるも、彼は瞬時に壁に爪を突き立てて身体を固定して落下を防いだ。
そこで俺は隣にいるリルルとユーハにも制止を促す。
「シュンノスケ、大丈夫?」
「なんとかな、いきなり壁の重力が消えてビビったわ」
「ユーハ、反対側まで回って進んで見てくれる」
「お、そういうことですのね。分かりましたわ」
ユーハは俺の意図を察して180度反対側まで歩いてそこから天井へと歩き出す。
しかし彼女もまたシュンノスケ同様に壁の重力がなくなり落下しだすも、彼女は自らの羽を羽ばたかせて飛行しこちらに戻ってきた。
「ここから先は無理でしてよ」
「ええ、それじゃユーハちゃん以外上に行けないよ」
「いや、手はある」
そこで俺は宙に浮いている机を指差した。
壁を登る前で見上げた時はなんでこんなものが浮いているか謎であったけれど、ここまでくれば理由は分かる。
「シュンノスケ、届く?」
「余裕だ」
ウェアウルフに変身しているシュンノスケは驚く脚力で壁を蹴り宙に浮いた机へと飛び乗った。
そしてその机より少し上に浮いている机へと飛び移っていくを繰り返す。
よく見れば天井まで宙に浮いている机の数々は人の脚力次第では徐々に上げっていけるように位置設定されている。
「あー、なるほど、それだったらリルルにもできるかも」
セイレーンに変身しているリルルの両腕には羽が生えている。
これは飛べるものではないが滑空程度なら可能なため、彼女はジャンプ後に羽を広げると緩やかな落下で距離を稼いで無事机まで飛び移れた。
「さて問題は俺か」
変身できない俺の身体能力は上がっていない。そして元の身体能力が高いわけでもない。
となるとそのままジャンプしてもまず飛び移れない。
何か手はないかと考えていると目の前にユーハが飛びながら自慢げに手を差し伸べてくる。
「飛べるって素晴らしいですわね! チラ、チララ!」
「……そうだね、その素晴らしさにあやからせてほしい」
「ですの!」
考える時間も無駄だしリスクも高いなら意地を張る意味もない。
だから俺は彼女の手を取り、自身を抱えてもらいながら飛行してもらうことにした。
そのやり取りを眺めていたシュンノスケはため息を少しつきながらこう呟く。
「……意地張らねぇで素直になれるお前は大したもんだよ。リルル、滑空で届かないところは言えよ。一緒にジャンプしてやる」
「ありがと~シュンちゃん」
こうして俺たちはなんとか天井まで到達し、そこにある階段まで足を付けて次の階へと進んだのであった。
◆
高さとしては50階と仮定する階まで進むと円柱の形状をしたエレベーターが3つあった。
それらはそれぞれ上の特定の階へと直通であり、俺たちはどれに乗るかを考える。
「最上階の管制室、その下の被検体室、さらにその下の隔離室の3つか」
「あれ、他にはないの? ここまだ塔の半分くらいの高さだよね?」
とリルルは質問してきたため答える。
「恐らくだけど合間の区間は全てこの塔を制御するための機械構造のスペースに回しているんじゃないかな? これだけ巨大で長い塔を空洞だらけで維持できるとは思えない。シュンオスケはどう思う?」
「俺も同意見だ。機械工学は専門じゃなかったから詳しくは分からねぇが。んで、どこから行く?」
「書いてある通りなら被検体室に行く必要はないだろう。管制室にはこの塔の管理者がいる可能性が高い。とすると隔離室だね。ここに船田社長が囚われているだろうし」
それに3人頷いたため俺たちは隔離室のエレベーターを使用した。
◆
隔離室に到着するとそこにはガラスケースで軟禁されている船田社長の姿があった。
「いましたわ」
「! 君らはいったい……あれ、君は確かユーハ君の……」
俯いて暗い表情をしていた彼だったが俺たちが来たことで顔をあげて俺の存在を確かめたことで驚く。
「良かった、無事だったんですね」
「ああ、しかしどうやってここに。それに連れのその3人はいったい?」
「あたくしですわ」
ユーハはそこで一旦変身を解いて自身を認識させる。フェイスベールは被ったままだがそれでも知っている者からすれば彼女だとすぐに分かる。
「ユーハ君」
「船田社長、俺たちはあなたを助けるためにここまで来ました。驚きたい気持ちは分かりますが、まずは情報共有を」
「……そうだね、私がここに軟禁されたのは21日前の夜、社長室で今後の展開を考えていたところ空間が歪み引き込まれるようにこの室内に飛ばされた。その直後、大柄の骸骨の天使の化け物が目の前に現れて「ここは現実ではない別世界だから助けは来ない。30日後には解放してやる」と告げられた」
「なるほど、命までは取る気がないということはやはり……」
「ああ、あの骸骨天使は我が社を買収するために雇われた刺客だろう。しかし妙だ。私を解任して新しい代表を決めるだけなら1か月も必要とは思えない」
「あ、それに関してはご説明したいことが。実はこのヌミノース世界の時間進行は現実の6倍だから実際は4日も経っていません」
「何、本当かい?」
「はい、その証拠に空腹は何回ありましたか?」
「そういえば21日も経った割にはたまにここに食事を持ってくる小さな骸骨天使の回数は少なかった。しかし私の腹もその回数で満たされていた」
「そう、それが答えです。あなたの経緯は分かりました。今度はこちらの経緯を簡単にご説明します。俺たちはこのヌミノース世界に出入りできる認識力を持ち、あなたを攫った敵と戦っている立場にあります。今回はあなたの行方不明からの社の買収の話やそれに伴う警察の動きが早すぎたことが気になって調べてあなたを救出して事態を打開しようという方針で動きました」
「なるほど、理解した。つまり今すぐに私が現実に戻ることができれば社の買収はまだ止められる時期にあるということだね」
「そうです。ガラスケースを壊しますので下がってください」
ユーハはそこで変身し直す。
そして俺とユーハとリルルは下がったところでシュンノスケが鋭利な爪でガラスケースの壁をクロスに引き裂く。
それによりクロスに引き裂かれた部分はパリンと崩れ落ちて人が通れる穴があいた。
船田社長はそこを通って俺たちの方へと合流した。
その後、エレベータを使って下の階へと降りてそのまま階段でさらに降りようとするがその階段が何故か消えていた。
正確には階段に入るあたりが塞がるようにパネルが横から出て塞いでしまっているのだ。
「おいおい、マジかよ」
「まあ鹵獲対象を逃がすマネはしないよね。管理カメラがあったか分からないけれど社長が隔離室を出たら作動するようになっていたんだろう」
「どうしますの? 壁をぶち破ります?」
「そうしたいところだけど外には生成された黒い蒸気が漂い続けている。壁を壊してその蒸気がこっち側に入ってきたらそれこそアウトだ。そうでなくても蒸気が漂った上空を抜けて地上へ降りるのはユーハが社長だけを抱えていくとしても難しい。そうなってくると管制室まで向かって黒い蒸気を止めるか、階段を塞いでいるパネル解除するしかない」
「けどそれって上位天使と戦うってことだよね」
「そうなるね。これほどの規模を管理するならサドキエル以上に強大なのは予想できる。けれどそれしか方法はない。異論はある? 社長も含めて」
それに3人と社長は何も言わなかったため話は纏まった。
「決まりだね。行こうか管制室へ」




