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3章③

 

 5月10日、木曜日

 放課後に生徒会で雑務をしていると教頭先生が警察を案内しながら生徒会室に入ってくる。

 軽い事情聴取で済むため応接室などは使わずここでの立ち話で済ませると警察官は前置きして俺とユーハに「船田社長が行方不明になった」と告げた。

 ……本当だとしても1日も立たずに警察が来るのは早すぎる。


「二人は昨日、船田氏と会食をしていたよね。何か知らないかな?」

「知りませんわ。彼より先にレストランから出て行ってそれっきりですし」

「俺も彼女の付き添いだったので同じです」

「そうか、そうだよね。学生が彼に心当たりあるはずもないか。ご協力感謝します」


 そう言って警察官はメモも取らずに淡々と捜査を止めて学校から去っていった。


「行方不明……あたくしに言われたことそんなにショックだったんですの?」

「いや、優良企業を率いるトップがその程度のことで自暴自棄になるなんてありえない。それより……」


 俺は目線で二人だけで話したいと訴えた。

 ユーハはそれを察して俺の腕に抱き着く。


「副会長! あたくしたちデートをしたくなりましたの。あとよろしく!」


 そう告げると副会長と他の生徒会役員はいつものユーハの我儘だと受け入れて頷いてくれた。


 学校の外に出て二人だけになったところで俺は話しを再開する。


「あの警察官の意識を見ていたんだけど調べようという気がまるでなかった」

「ならなんであたくしたちに事情聴取なんて真似したんですの?」

「事情聴取はしていたという体裁が欲しかったんだと思う。そもそも1日も経っていないのに船田社長が行方不明になった扱いで警察が動いているのが早すぎる。誘拐ならまだしも行方不明なら三日程度は間を置いてしか断定できない」

「確かにそうですわね。……あれ、待ってくださいまし。ならなんで警察は行方不明と決めつけたんですの?」

「行方不明扱いにするということが事前に決まっていたから」

「それって!」

「ああ、警察はグルだろう。さて、ここからが問題だ。なんで船田社長を失踪させて事後処理を早急に済ませる必要があったのか? その理由はどうしたら分かるのか?」

「グルの警察に聞いても知らん存ぜぬですわよね。となるとやはり……彼の会社の人たち?」

「うん、連絡先は知らない?」

「そういえば仕事初めに秘書の方から連絡先を教えてもらいましたわ」

「直接会えるようお願いできる?」

「分かりましたわ」


 ◆


 秘書の面舵(おもかじ)という男性に「直接会って今後の仕事についてご相談したい」と連絡を入れると彼は忙しそうにしながらも本社に来てくれるなら時間を作ると返してくれた。

 なので俺たちはAIシップエンジニアリングへと赴いて彼と面会する。


「お忙しい中、お時間を作っていただきありがとうございますわ」

「うちの看板モデルになってくれている人を無下にはできませんよ。それでご相談の件なんですが、契約を変更するつもりは我が社にはございません」

「あ、それについては二の次なんですの」

「え?」

「まあ事務所には重要なことなんですがそれよりも気になることがあって……」


 そこで俺たちは警察の動きが行方不明になる前提としか言えないほど早すぎることを説明した。


「……あー君たちにまで事情聴取はしたんだ。ちゃっかりしているなぁ」

「何か知っているんですの?」

「……」


 彼の意識を見ると子供には言わない方がいいと考えて芽生えた善意の守秘意識があった。

 これは本来壊すべきではないが、その場合は聞き出せる糸口を失ってしまうため俺はその守秘意識を壊しつつユーハと懇願する。


「お願いですの、教えてくださいまし」

「このままだと取り返しのつかない事態に発展しかねないかもしれない気がするんです。何が起こっているか納得だけでもさせてください」


 少し頭を抱えてふらついた面舵さんはそのあとため息をついて仕方ないなぁといった顔で口を開く。


「実は今我が社では買収の話が持ち上がっていてね。社長はそれに反対だったんだ。しかしその社長が失踪した昨日の夜に幹部二人が裏切りを働いて買収の話が加速してしまった。このまま社長が戻らないと会社が海外に売り渡されてしまう」


 それを聞いて今回の警察の動きが何を目指していたか見えてきた。


「買収には警察も噛んでいるという訳か」

「彼氏君やはり頭がいいね。十中八九そうだよ。僕らの方でも警察の動きが早すぎるとは思っていた。社長が不在の今、会社の方針の決定権は幹部5人にある。その内の二人が買収賛成派。数の上では負けているが問題は株主たちだ」

「大株主たちが買収に賛成なんですね」

「そう、だから社内政治は本当に真っ二つに割れた状態だよ」

「持ちこたえられますか?」

「無理だね、トップの不在が長引けば長引くほど会社の評判が悪くなる。警察がすぐに行方不明という見解を発表するだろうから誤魔化すこともできない。だから次の代表を選ぶ話をするしかない。しかしそうなるとそこでも株主たちの意向が反映されてくる」

「ですよね、出来レースなわけだ」

「納得してくれたかい? そういうわけだからこの件には関わらない方がいい」


 そう優しく諭してくれる面舵さんに対してユーハは堂々と告げる。


「嫌ですわ! このあたくしが看板を務めている会社が売り払われるなんて胸糞悪いんでしてよ」

「え、ああうん。そうかもしれないけど受け入れよう。それに君、船田社長はケンカ気味に別れて帰っちゃったくらいに好感を持ってないでしょ?」

「ええ、あたくしを見ないで死んだ母をしみったらしく追いかけている男なんて嫌いでしてよ。けれどそれはそれ。依頼したなら最後まで付き合う責任を果たしなさいな。どこかに消えてさよならなんてそれこそ許しがたいですわ」

「そんな無茶苦茶な。……我が強いなぁ。美人だけど弱小事務所にいる理由分かってきた。社長この子を起用したの失敗じゃない?」

「ぶつぶつうるさいですわ。あたくしを選ぶのは正解でしてよ! それを今から分からせて差し上げますの。そのためには兎にも角にも社長を見つけ出せねば」


 そこで俺は面舵さんに謝る。


「こういう彼女ですみません。とはいえ言っていることは間違いじゃない。なんとしてでも船田社長を見つけなきゃならない。俺たちも探してみます」

「ありがとう。では面会を終了とさせていただきます」

「あ、ちょっと待ってください。船田社長を最後に見たのはどこですか?」

「ああ、それは社長室だよ。僕はトイレに行って戻ってきたらいなくなっていた。たまにふらっと出かける人だし必要なら連絡を入れてくれるだろうと思っていたら朝まで帰ってこないし連絡かけても出ないしでおかしいってなった感じかな」


 面会を終えて外に出た俺はAIシップエンジニアリングビル最上階を地上から見上げる。


「何しておりますの?」

「もしかしたらだけど……船田社長はどこにも出かけてなんていないんじゃないかな?」

「社長室から動いていないなら見つからないはおかしいですわ?」

「本来ならね。けれど俺たちはそういう現象を体験している。もしこの事件の背後に奴ら……ヤハウェイが関わっているのだとしたら人一人を別世界、別空間に隔離するくらいはやるだろう。たったそれだけで莫大な利益と支配権を得られるのだから」

「待ってくださいまし、それじゃ誘拐ですの」

「そうだね、けれど警察は誘拐にはしない。あくまで船田社長が行方不明という自己責任な印象になるほうが都合はいいから」


 ここまで事件の実態を「認識」することはできた。

 あとはこの会社周辺であり得ない光景や状況を認識できさえすればいいはず。けれどその前に聞かなくてはならない。


「ユーハ、もし社長がヌミノース世界の敵の居城なりに幽閉されていたら助けるでいいんだね」

「当然ですわ、何の問題がありまして?」

「生かして連れ戻すということは事情を知る人間になるということだ。その場合は協力者になってもらうしかない。嫌えないということだ」


 それにユーハはかなり悩むも腹を決めて答える。


「ん、んんんんんん~~~~~~あー分かりましたわ。邪険にしないと約束します」

「なら行こうか」


 注意深くビルの周りを観察する。

 すると隣にあるビルからドローンが複数飛んで蠅のようにAIシップエンジニアリングを周回していることに気付く。


「嫌な動きですわね。ネチネチ窓越しにビル内部を観察してストーカーですの?」

「普通に違法だね。ここまで露骨だと警察が動いてない方がおかしい。けれどだからこそ俺たちはこう認識できる。このビルは船田社長の城ではなくなっている。その真逆、彼を出さないように監視している牢獄の塔と化しているのだと」


 そう認識できた俺たちはヌミノース世界へと移動できたのだった。


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