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スパイラル・チェイス  作者: 左門正利
◆ 男たちの憂鬱
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◇ ピーター

 ロッドマンの誤解は解けた。だが、彼女は CIA の男たちに念をおす。


「ピーターをはやく自由にしてちょうだい。わたしの大事な友人だから」


 CIA に所属するピーターは、ロッドマンより年上である。彼女の目の前にいる二人から見れば、ピーターは大先輩だ。


 ロッドマンの目が、相手を射すくめる。


「もし、ピーターになにかあったら……」


 彼らは、強い口調で言葉を返した。


「それはない。絶対にないっ」

「あの人になにかしようものなら、おおごとだ。絶対にあり得ない!」


 思いもしなかった返答に、ロッドマンもナナセも唖然となる。


 男たちの顔色が、心なしか青い。ロッドマンは思った。


 ──この男たちは、ピーターを恐れてる?


 ナナセが二人に訊いてみる。


「捕らえたピーターさんをどうこうしようとは、最初から考えていなかったということか?」


 彼らは口をつぐむ。


 ロッドマンは考えた。


 ──変ね。ひょっとして


 青ざめている男たちに問いかける。


「あなたたち、彼に弱みをにぎられているんじゃないの?」


 ビンゴだった。それが顔にもろに出るので、わかりやすい。


 ロッドマンは言葉を続ける。


「ねえ、なにがあったのか話してよ。わたしなら、なんとかできるかもしれないわよ」


 彼らは顔を見合せる。そして、決心したように話しはじめた。


「ピーターさんがカーラの情報を流していたことがわかったので、あの人を尋問室に連れて行って、いろいろきき出そうとしたんだが……」


 当時、尋問室にいたのはピーターの他に、いまロッドマンと話しているトーマスとエリック、そしてライオットといっしょにいる作戦リーダーのワット主任に部下のアレックスだ。


 ピーターとワットが机を隔てて、向き合うように椅子に座る。

 トーマスとアレックスは、ワットの左右に立っている。エリックは調書の内容をパソコンに入力するため、少し離れた別の机に位置していた。


 ワットたちは大先輩であるピーターに対して、手荒なマネはできない。MI6 のロッドマンという人物にカーラの情報を流したことまでは突き止めているが、それが本当にカーラの殺害に直結するかどうかは、わからない。


 事の核心に迫る部分をききたいワットたちだが、きかされたのは、とんでもない話だった。


 海外の様々な事案に対処する CIA において、ピーターは CIA きっての情報通である。だが、その知り得た内容は、国外に関してばかりではない。


 彼が把握する情報は、同じCIAである身内の人間に対しても容赦(ようしゃ)しない破壊的威力があるのだ。


 ピーターが不意にワットに話しかける。


「ワット」

「なんです?」

「スペインにいる、二人目の女房は元気か?」


 ──ギクゥゥゥッ


 ワットの顔から、一気に血の気がひいてゆく。


 ──な、なんで、ルシアのことが!


 彼の横にいるトーマスとアレックスが、驚いた目をしてワットに顔を向ける。


「主任、奥さんいるのに、二人目の女房って……」

「このまえ、休みの間はイタリアへ行くっていってて、本当はスペインに行ってたんですか?」


 ワットの額から冷や汗が浮き出る。彼は、やけくそになったようにいい放った。


「仕方ないんだよっ。あの親子、可哀想なんだよ。ほっとけねえんだよ!」


 問題の女ルシアの、前の夫だったアルバロは武器商人だった。五年前、CIA はアルバロをマークしていた。


 そしてある日、オペレーション・マーキュリーが実行に移される。この作戦のリーダーはワットだ。


 CIA はアルバロに偽の取引をもちだし、深夜の港に誘き寄せる。取引のために用意したクルーザーの船のなかで酒を飲ませ、キャビンから外に出たところで隠れていた部下が鉄パイプで頭を一撃、そのまま海に放り捨てた。


 任務を終えた彼らは、クルーザー船ごと現場から離れる。目撃者は誰もいない。


 地元の警察は、アルバロが酒に酔って転んだ拍子に頭を打って海に転落し、溺死したと見解する。事件性はないとして、この一件を片づけたのだった。




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