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スパイラル・チェイス  作者: 左門正利
◆ CIA
53/67

◇ 借りは返した

 その女性は、英語の発音からしてアメリカ人のようだ。


「すみません。はじめて来たデパートなので迷っているのですが、出口はどこにあるのかわかりますか?」


 この大事なときに、あまり人と関わりたくないビトーは、すぐに右手の人差し指を出口に向ける。


「あちらですよ」


 教えてもらった女性は、微笑みながら礼をいう。


「ありがとう、助かりますわ」


 出口に向かって腰をふって歩くその女性に、ビトーの目が釘付けになる。


 ──いい尻だ。俺も、あんな女と……


 女性は、そんなビトーの視線を感じながら思った。


 ──安全に外に出れるようにしてくれて、本当にありがとう


 彼女がベルベットだということを、ビトーはまったく疑問に思わない。

 狙撃時にともなう硝煙の匂いは、きつい香水でかき消されている。


 ベルベットは、なにもとがめられることなくデパートから出ると、タクシーをひろって空港へ向かうのだった。


 彼女がふたたび日本へ来たのは、情報屋のレニーから連絡を受けたからである。




 アメリカ、シカゴでゴルドーの一味をなんなく片づけたベルベットは、その屋敷を出たあとにレニーから電話を受ける。


「ベルベットさんですか? お知らせしたいことがあります」

「なあに?」

「ゴルドーファミリーの殺し屋が、日本の警察に逮捕されました。警察が彼らを発見したときは、倒れていて重症だったようです」


 彼女にすれば、予想はついていた。クノイチのナナセは、いとも簡単に自分の背後をとるほどの手練(てだ)れだ。ロッソたちでは、まったく相手にならなかっただろう。


 情報は、まだある。


「 CIA が出てきました。カーラという諜報員が殺害されているのですが、CIA は MI6 の仕業と考えています」


 これには、ちょっと驚いた。CIA が出てくるとは思ったが、自分ではなく MI6 の方へ疑念をぶつけるとは考えていなかった。


「いま、日本のクノイチが MI6 に加担している状態でして、そのクノイチも CIA の標的になっているようです」


 知りたい情報の本命は、クノイチに関することだ。レニーに頼んで正解だったとベルベットは思う。


 彼女は日本でロッソとバルゴに追われていたとき、ナナセに助けてもらった恩がある。


 ──借りを返すチャンスね


 そのために、ベルベットはすぐさま日本へ飛んだのである。なかなかハードなスケジュールだった。


 レニーが、師匠のシガーからひき継いだ情報網は信頼できる。

 そのなかでも、通信業務に携わる者から流される情報は大きい。彼らは通信設備の機器を通して、電話中の会話をきこうと思えばきけるのだ。


 CIA とナナセたちとの携帯電話での会話が、まるごと手に入れることができたのは、またとない幸運だった。


 ──あの動画が絡んでいるのか。ならば……


 ナナセとロッドマンが何時、どこで CIA と落ち合うか調べあげ、銃を手配し、どこから狙撃すれば良いか見定めて実行に移すのは、時間との勝負だった。


 彼女のおかげで、クノイチがカーラの殺害にはまったく絡んでいないことが CIA に証明された。

 ついでに、ライオットたち MI6 も無関係だったということが理解されたのである。


 ──借りは返したわよ、クノイチ


 ベルベットは、トニーに電話をかける。


「もしもし、わたしよ」

「毎度、ありがとうございます」

「あなたのおかげで助かったわ。そっちに振り込んだお金は、届いているかしら」

「はい、すでに確認しています」

「これからも、あなたにお願いするわね」

「またのご利用を、お待ちしております」


 ベルベットは通話を切る。


「シガーとちがって、ずいぶん謙虚ね」


 教育の行きとどいたサラリーマンのように礼儀正しい。シガーの弟子とは、とても思えない。


 しかし、腕は確かだ。確実な情報を提供してくれるシガーを失ったものの、その弟子であるレニーは彼女にとって大きな収穫である。


 ──ひと息ついたら、イタリアにでも行こうかしら


 タクシーの中で、バカンスの予定を考えるベルベットだった。




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