◇ 狙撃手を追え!
ナナセのスマートフォンが銃撃を受けたのを見たライオットは、急いでビルの屋上から一階へ降りた。
外に出て銃弾が発射された方向に顔を向けると、どこから狙撃したのか、だいたいの当たりをつける。
「あのデパートか?」
公園から百メートルほど離れているデパートまで走り、店内に入ってエレベーターを探す。狙撃はおそらく屋上からだろう。
エレベーターを見つけてそこに向かうと、スーツを着た五人の外国人に出くわした。彼らも、ここへ急いで来たようだ。
ライオットは、すぐにピンときた。それは相手も同じだった。
── CIA か!
── MI6 のライオット!
CIA の男たちが、スーツの懐に右手を突っ込む。
ライオットは左手の掌を前に出し、彼らを諫めるようにいった。
「待て、ここは日本だぞ」
そのひと言が、ホルスターから銃を取り出そうとした彼らの動きを止める。
懐の銃をにぎったまま、一人がライオットをにらみながら口をひらいた。
「あの銃撃は、MI6 の仕業じゃないのか」
ライオットは首を横にふる。
「ちがう。あれが MI6 なら、自分はこれほど急いでここには来ない」
「………」
もし、逆に同じことを問われたとき、自分たちも同様に答えただろうと CIA の彼らは思った。
そのとき、二人のスマートフォンが着信を知らせる。
一人はライオット、もう一人は CIA の誰かだ。
ライオットは電話に出る。発信者はロッドマンである。
「ライオットです。ぶじですか?」
「ええ、ぶじよ。CIA の彼らもね」
彼女は、落ち着いた声で伝える。
「狙われたのは、ナナセの携帯よ」
「なぜ、彼女の携帯が」
「やっぱり動画でしょうね」
「動画? マフィアのゴルドーとベルベットがつながっていたという、あれですか」
「それを知っているのは、あの女だけでしょ。警告したんでしょうね。これ以上、自分に関わるなと」
CIA の方にも、同じ話が伝わったようだ。リーダー格の男が、冷静さをとりもどした声を出す。
「とにかく、屋上へ行こう」
さらに彼は、仲間の二人に指示する。
「おまえたちは、一階にいるんだ。狙撃手が出口に向かって行くのを見張れ」
ライオットの言葉が続く。
「たぶん、ベルベットだ。日本人にくらべて背が高い女だから、目立つと思う」
彼らは二人の男をのこしてエレベーターに乗り込んだ。
屋上に到着すると、みんなはバラバラに分かれて狙撃手を探す。すでにこの場にはいないと思うが、油断できない。
ライオットも銃を手に、慎重に辺りを探る。
しばらくして、CIA の一人が声をあげた。
「おい、来てくれ」
なにかを見つけたようだ。ライオットもその声にしたがう。
行ってみると、そこにはスナイパーライフルが銃口を上にして空調設備に立てかけるように置いてある。
どう考えても、ナナセのスマートフォンを狙い撃ちした狙撃銃にちがいない。銃器を所持することが法律で禁止されている日本へ、どうやって持ち込んだのか?
それは、ベルベットに雇われた運び屋が作業員になりすまして部品を調達、屋上で組み立てて完成させたのだが、みんなは知るよしもない。
辺りに人の気配はない。CIA のリーダーである主任のワットが、一階にいる仲間のビトーに携帯電話で連絡する。
「俺だ。屋上には、もう狙撃手はいない。そっちに怪しい人物はいないか?」
「ベルベットと思われるような外国人の姿は、ありません」
一階にいる二人は、エレベーターにエスカレーター、そして二つの出入口を監視している。
「そうか。ひき続き、出口を見張っているんだ」
「了解」
通話が終わった直後、ビトーに外国人の女性が話しかけてくる。
背の高さと美貌から、ビトーは一瞬、女優かと思った。
着ている服は一見して高級そうで、手入れがいきとどいているグッチのバッグが「彼女はセレブの観光客です」と教えているようだ。
三十歳前後に見えるメガネをかけたその女性は、香水の匂いがきつい。とても美人だが、ちょっと鼻につく。
右手に抱えているのは、子どものオモチャらしい。包装紙にリボンが結んである。




