◇ 予期せぬ事態
二日後、ライオットの病室の前で警護の任務についているエリナに、ナナセから連絡が入る。
CIA が、話し合う時間と場所を指定してきたのだ。また、ライオットにもロッドマンから電話が入る。
「このまえにいったように、あなたはそこでおとなしくしていなさい」
そういわれて引き下がるライオットではない。
「自分も行きます」
「ダメよ。向こうも二人で来るから、あなたがいっしょだと話し合うまえに、おじゃんになるわ」
「あっちも二人だけで来るとは限りませんよ」
指定した場所で彼女たちと会う相手が二人でも、他の仲間がどこかで見張っている可能性が高い。
「自分は、離れたところで見ています。表には出てきませんので」
「仕方ないわね。あなた、身体の方はいいの?」
「完璧です。ぐっすり眠りましたから」
ロッドマンはやれやれと思いながら、ライオットのいうことをきき入れるのだった。
翌日── CIA がロッドマンとナナセに指定した場所は、それほど規模の大きくない公園だ。
時間は午後二時というので、ロッドマンとナナセはその時間に到着するよう、公園に向かう。
五分前に着いたとき、CIA の二人はすでに来ていた。
彼らを前に、ロッドマンが意外だという想いを口に出す。
「こんな見晴らしの良い場所を選ぶなんて、ちょっと驚いたわ」
周りから、まる見えの状態だ。どう考えても見晴らしが良すぎる。
しかし、この時間は辺りに人影はない。
「われわれだけなら、こういう場所でかまわない」
事前に調査したのだろうが、よく調べあげたものだ。
彼らのいる場所からずっと離れた四方にビルがある。
ライオットは、東の方にある五階建てビルの屋上から、双眼鏡でロッドマンたちの様子をうかがう。
CIA との話し合いがはじまったようだ。お互いに向き合うその距離は、五メートルと離れていない。
ナナセが上着のポケットから、自分のスマートフォンを取り出した。
「この携帯電話に、ベルベットとゴルドーの組織が関係する動画が入っている」
右手に持つスマートフォンを、顔の横まで上げて話しているときだった。
突然、まったく予期せぬことが起きた。
パキンッ
ナナセが持っていたスマートフォンが、後ろへ弾かれたようにその手からふっ飛ばされる。
銃撃だ。CIA の二人の、ずっと後方から狙っている。四人は散り散りに、素早くその場から飛び退いて身を伏せる。
四人とも、自分が狙われていると思った。
しかし──
ビシッ、バキッ、パキャッ
銃撃を受けているのは、ナナセのスマートフォンだ。彼女の携帯電話は、もはや修復不可能というほど粉砕されてしまった。
しばらくして、銃撃が止む。ここにいる人間を狙い撃ちする気はないようだ。
四人は用心しながら、ゆっくりと立ち上がる。
CIA の一人が、口をひらいた。
「狙撃したのは、おまえたちではなさそうだな」
ロッドマンがそれに応える。
「あなたたちでもないみたいね」
ナナセが、銃弾が飛んできた方を向いていった。
「ベルベットだ。あいつ以外に、考えられない」
ただ、ベルベットであれば、誰も殺さないのが腑に落ちない。そう思いはするのだが、明らかにスマートフォンに記録された動画を知っていて、それを狙っていた。
ナナセは、ローライズのパンツのポケットからマイクロSDカードを出した。
「本チャンの動画は、これに収められている」
破壊されたスマートフォンの映像は、コピーだ。
ナナセはSDカードを男の一人に放るように渡した。
「自分にはもう必要ないので、調べてみるといい」
SDカードを受け取った男が応える。
「おまえたちを信じよう」
ようやく、誤解が解けたようだ。
ホッとするナナセとロッドマンだが、不思議に思うことがある。
──ベルベットは、なぜ誰も殺さなかったのだろう?




