◇ またまた入院
エリナは、ロッドマンの話に納得できるものがある。
ベルベットから巻物を奪還するために、空港へ行ってライオットと夫婦役を演じたときのことを思い出す。
その作戦が終わった直後に、ライオットは意識不明の重体に陥った。彼なら、本当に与えられた任務は死んでも遂行するかもしれない。
ロッドマンは紅茶をすすりながら、うちあける。
「今回のように、わが国の女王が絡んでくる任務には、必ず彼が駆り出されるの」
ナナセは、思わず訊いてみる。
「あの人は、それほどすごい諜報員なのですか?」
「 MI6 の評価では、超A級のエージェントよ。本人は自覚していないでしょうけどね。教えてないから」
ナナセもエリナも、目をぱちくりさせて唖然となった。
──そこまで有能な諜報員だったとは……
ベルベットがかなり頭のキレる殺し屋とはいえ、ライオットは女が仕掛けた罠にあっさりとハマるような男だ。
クノイチの彼女たちは、そんな彼にハズレを引いたと思っていたが、とんでもない間違いだったらしい。
超A級と呼ばれるには、まだ若いような気がする。よほど有能なエージェントなのだろう。
ロッドマンは、さらにつけ加える。
「彼は、絶対に仲間を裏切らないからね」
ニヤニヤした顔で話す彼女の言葉には、なにか含みがあるようだ。
女ばかりが三人集まっての話は、ライオットの話題で盛り上がるのだった。
背が高いだけの「でくの坊」と思われていたライオットは、病院へ到着するなり看護師ににらまれ、病室のベッドに寝かされる。
すぐに点滴の処置をされると、知らない間に眠りについた。
目が覚めると、そばにいた看護師が声をあげる。
「あ、起きましたか」
彼女はドアの方へ行くと、病室の外にいるエリナを呼び出した。
エリナが来ると、彼女はライオットに微笑んだ。
「やはり、疲れていたんでしょう。六時間ほど眠っていたんですよ。もう夜です」
いささか驚いた。ベルベットに仕込まれた劇薬の影響が、思った以上に身体にのこっているらしい。
何気なく右手を額にもっていったときだった。
「?」
右腕に包帯が巻かれているのに気がついた。
包帯の下に、厚くテーピングがしてあるような感覚だ。袖をまくって、その腕をまじまじと見る。
エリナが彼に伝える。
「ああ、寝ている途中で目が覚めたとき、ベッドから起きようとして倒れたんです。そのときに、医療機器に腕をぶつけて怪我をしたんですよ」
全然、覚えていない。
「軽い怪我ではなかったみたいで、クノイチ秘伝の薬を処方しています。特別な薬なので、包帯ははずさないようにしてください」
そんなに重い怪我をしたのか?
しかし、痛みはまったくない。薬が効いているのか。
不意に、大事なことを思い出した。
「エリナ、CIA の件はどうなった?」
彼女は首を横にふる。
「なにも進展はありません。連絡待ちの状態です」
ライオットにすれば、やはり女二人だけで CIA との話し合いに向かわせるのは心配になる。
──そのときは
自分のことなど、気にしてはいられない。
──もう一度、病院を抜け出してでも……
彼女たちを守らねばならないと思っている。
エリナは、そんなライオットの想いを察したようにいった。
「大丈夫ですよ。ロッドマンさんは CIA が相手でも対等にわたりあえるし、ナナセはわたしたちの中でも特に優秀なクノイチですから」
どちらかというと、ライオットの方がナナセにお世話になっている。
だが、それが事実であっても彼は紳士だ。
──男の自分が、彼女たちを守れなくてどうする
ライオットの覚悟は揺るがない。
彼の想いが肌に伝わってくるエリナは、彼に惚れそうになる自分を思うのだった。




