◇ そこまでいう
話がひと区切りついたところで、ロッドマンが思い出したように口をひらいた。
「お茶を出すのを忘れていたわ。いま用意するわね」
ナナセとエリナが頭を下げる。
「すみません」
「おかまいなく」
テーブルに紅茶が運ばれる。ライオットの顔は渋いままだ。
「 CIA との話し合いに行くのは、二人だけだよね」
ロッドマンが答える。
「そうよ」
ライオットは声に不安を滲ませながら、自分の心情をストレートに伝える。
「危険だと思います。相手の方も二人とはかぎらないし、自分も行った方がいいのでは?」
当のロッドマンは、危機感などまったく抱いていない。
「せっかく彼らと話し合いができる状態にこぎつけたのに、あなたが出てくると台無しになってしまうわ」
「しかし」
「あなたは邪魔なだけ。わたしとナナセに任せておきなさい」
だが、ライオットは心配だ。
「エリナに二人がかりで襲うようなやつらですよ。女性を相手に、紳士の欠片もないあいつらは……」
「いいから、わたしたちに任せてっていってるの」
ナナセとエリナは、まるで姉弟げんかを見ているようだ。
ロッドマンにすれば、この CIA との話し合いで絶対に誤解を解かなければならない。これが失敗すると、友人のピーターもどうなるかわからない。
彼女は、別のことをライオットに訊いた。
「あなた、身体はもう大丈夫なの?」
ライオットは、うなずいて答える。
「ええ、なんともありません」
ところが、エリナがいうには
「病院から車に乗るまで、ふらついていましたよね。まだ安静にしていた方が……」
ロッドマンが眉をよせる。
「あなたは病院で寝ていなさい。事が終わるまで起きなくていいから」
「いや、しかし」
「身体を治すのが先。いいわね」
有無をいわせない。さらに
「これから女だけで話をするから、出ていってちょうだい。女の下着に興味ある?」
ライオットは、焦ったように首を横にふる。そんな話の輪の中に、男の自分が入れるわけがない。
ロッドマンは、彼を追い出すようにいった。
「じゃあ、さっさと病院へもどって。ひとりで行けるわよね?」
ライオットは唖然となった。
──病人だから病室で寝てろといったんだろうに
その病人に、ひとりで帰れというのか?
ライオットは心の中でぶつぶついいながら部屋を出ると、タクシーをひろって病院へ向かうのだった。
ライオットが去り、女だけがのこった部屋でロッドマンが伝える。
「盗聴器を始末しましょう」
探して見つかった三つの盗聴器を、彼女たちは壊した。
これで、気がねなく女子トークをはじめられる。
服やグルメの話題に花が咲く。ロッドマンはうれしそうだ。部屋ではいつも独りなので、ナナセやエリナと他愛ない話をするのが本当に楽しい。
話題がライオットのことに移る。病院には、彼が帰ることをエリナが電話している。
そのエリナが、口をひらいた。
「ライオットさん、ひとりで帰らせて大丈夫でしょうか」
ロッドマンは、問題ないという感じでいった。
「まあ、心配ないでしょう」
彼について、ナナセが率直な感想を述べる。
「あの人は、諜報員には見えませんね」
ロッドマンは微笑んだ。
「そこがいいのよ。うだつの上がらないサラリーマン、てな感じでしょ」
エリナも思ったことを話す。
「なにか頼りなさそうに見えますよね」
ロッドマンは相槌をうつ。
「そうなのよ。背が高いだけの、でくの坊っていう印象でしょ?」
えらいいわれようである。だが、MI6 における彼の評価は、見た目とは全然ちがう。
「彼はね、ああ見えて命令されたことは必ず完遂するの。彼なら、死んでもやりとげる」
ナナセは目を丸くする。ライオットがそれほど心の芯が強い男だとは、思ってもみなかったのだ。




