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スパイラル・チェイス  作者: 左門正利
◆ 対決
40/67

◇ マフィア VS クノイチ

 ロッソは、立ちはだかるナナセをにらみつけた。


「貴様っ、どこまで俺たちの邪魔を……」


 ナナセは、驚くべきことを彼に告げる。


「ベルベットなら、もう日本にはいないと思うぞ」


 ロッソは絶句する。


 ──この女は、自分たちの目的を知っているどころか、ベルベットの動向までも把握しているのか?


 すぐに冷静さをとりもどした声で、彼女に訊いた。


「貴様はベルベットの仲間か?」

「あの女と仲間になった覚えはないわ」


 そんな言葉を簡単に信じるようなロッソではない。ベルベットがクノイチと手を組んだとすると、やっかいだ。


 どのみち、彼にとってナナセがいるかぎり、ベルベットを仕留めることは困難だ。

 ナナセの存在は、とてつもない邪魔になる。


 ロッソの武器は拳銃だけではない。右の懐に忍ばせてあるナイフを取り出そうと、左手をスーツの内側に突っ込んだ。ナナセは、すぐさま飛び込むように前転する。


 彼女の予想外の行動に、ロッソの動きが止まった。まさか突っ込んでくるとは思わなかった彼は、手にしたナイフをあわててナナセに向ける。


 だが、ナナセは立ち上がりつつ右腕でロッソのナイフを下から跳ね上げる。続けざまに放った左ストレートが、ロッソの顔面にもろに決まった。


 鼻血を吹きながらよろけるロッソに、ナナセは追い打ちをかける。右足でロッソの股間を蹴り、悲鳴をあげながら前にかがんだ彼の頭をつかむと、その顔に膝蹴りをぶちかました。


 意識を失った彼は、後ろにドタッと倒れる。


「ベルベットの方が、はるかに強いわね」


 ナナセはロッソの服からスマートフォンを取り出し、彼の指先でロックを解除すると、その携帯電話で警察に電話をかける。


 自分の指紋をふきとったスマートフォンと蹴り飛ばしたロッソの拳銃を、倒れている彼の近くに置くと、その場からさっそうと立ち去るのだった。




 場所は変わり、バルゴの方は──


「ガキだからといって、容赦しねえぞっ」


 立体駐車場の三階で、ヒトミを相手に憤っていた。


 忍者装束のヒトミは、冷めた目をして言葉を返した。


「ルーデス協会は、あなたをゆるさない」


 バルゴは苦い顔をする。うかつだった。自分たちがルーデス協会を騙っていたのを、すっかり忘れていた。

 そして協会が追っ手を差し向けることも頭になかった。


 しかし、まさかこんな子どもを相手にするとは夢にも思わなかった。


 ──俺もナメられたものだ


 相手が殺しを生業(なりわい)とする組織なら、子どもだろうがその命を奪うのに躊躇はしない。


 二人の距離は、およそ六メートル。


 ヒトミが、背中の刀に手をかける。バルゴはスーツの内側にある拳銃をにぎった。


 そのとき、バルゴは常識はずれの現実を目の当たりにする。


「──っ!」


 彼は、自分の目を疑った。ヒトミが二人に分かれたのだ。


 以前、ニンジャは影分身という技を使うときいたことがあるが「あり得ねえだろ」と、これっぽっちも信じずに笑い飛ばした記憶がある。


 二人のヒトミは、唖然となって固まっているバルゴのまわりを一方が時計方向に、もう片方が反時計方向にぐるぐるまわる。


 バルゴは銃の照準を定められない。


 不意に、ヒトミの片割れがバルゴの目の前で足を止めた。

 バルゴは彼女に狙いを定める。


 刹那──


 ズドッ


 バルゴの背中を、刃が突き抜ける。


「ぐおっ」


 さらに──


 ドシュッ


 目の前にいるヒトミが、バルゴの胸に刀を突き刺した。


 刀を抜くと、バルゴは銃を持ったまま、うつ伏せに倒れた。

 そこには、二人のヒトミがいる。


「さぞ、驚いたでしょうね。ヒトミ」

「最初から二人いたなんて、なかなかわからないものよ。フタバ」


 彼女たちは、双子だったのだ。姉のヒトミに妹のフタバである。


「殺さないようにやっつけるのって、難しいわね。ヒトミ」


 バルゴは、死んではいない。


「本当にね。この男の携帯で、警察に電話しましょう」


 バルゴのスマートフォンで警察に連絡した彼女たちは、ナナセと同じようにスマートフォンの指紋をふきとって彼の近くに置くと、すぐさまその場を離れるのだった。




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