◇ 落としまえ
アメリカ・シカゴ──ゴルドーのスマートフォンに、日本にいる部下から連絡が入る。
「俺だ。……なに?」
ゴルドーは呆然となった。ロッソとバルゴの二人が、日本の警察に逮捕されたのだ。しかも重症らしい。
──あの二人が?
ベルベットを狙って返り討ちにあったのかと思ったが、それにしては妙だ。警察に逮捕されたというのが、よくわからない。
ベルベットが相手ならば、こういう結末には至らない。殺し屋の彼女であれば重症で終わらさず、確実にトドメを刺すはずだ。
「なにが起きている?」
まったく見当もつかない。
部屋の外では、別の異変がゴルドーに迫っていた。
ボスであるゴルドーの部屋に、コールガールが近づいてくる。
部屋のドア付近に張りついている二人の部下が、怪訝に思いながら顔を見合わせる。
「女が来るって、きいているか?」
「いや。なにもきいてないぞ」
真っ赤なボディコンの服に黒いコートを着た、いかにも娼婦に見える女が、彼らの前まで来る。
「止まれ、動くな」
バッグを左肩にかけている彼女は、足を止めた。
部下たちが、その女に問いかける。
「おまえは誰だ」
「見ればわかるでしょ? 呼ばれたから来たのよ」
「女を呼んだとはきいていない」
彼らは、ふと思った。
「おまえ、どうやってこの屋敷に入った?」
「どうやって、って……ふつうにドアを開けて入ったわ」
「ドアのところに、男たちがいただろ」
「誰もいなかったわよ」
部下たちの顔から血の気がひく。この部屋は二階だが、一階の入口付近には四人の仲間が常に警戒して目を光らせているのだ。
誰もいないということなど、あり得ない。
「ボスに知らせるんだ!」
部下たちが女に背中を向けた、そのときだった。
パシュッ、プシュッ
サイレンサーを付けたハンドガンから、彼らに向けて銃弾が発射される。
撃ったのは、もちろん彼女だ。二人の部下は、あっという間に絶命する。
「さて、と」
女は、ボスのいる部屋のドアをノックする。中から「入れ」という声がきこえて、少しだけドアを開ける。
彼女は部屋に足をふみ入れることはせず、手榴弾のようなものを放り投げた。
すばやくドアを閉める。部屋の中で「ボンッ」と音が響く。
しばらくしてドアを開けると、白い煙が床を這うように立ち込めて、男たちはみんな倒れている。
ボスのゴルドーに、彼の側近が三人。そして、日本から帰国したマーキーもいる。
その部屋に女は入った。ハンドガンを右手に、目当ての男のところへ歩みよる。
仰向けに倒れているゴルドーに、彼女は言葉をかけた。
「なかなか効くでしょ、このガスは」
彼女が部屋に投げ入れたのは、ガス弾だった。吸い込むと、身体がしびれて動けなくなる。
ゴルドーは、必死で声を出そうとする。
「お……おま……え……」
自分を相手に、ここまでできる女は、一人しか思いつかない。
「ベルベッ……ト……」
ベルベットは、すでにアメリカに来ていた。日本の空港では黒髪のカツラをかぶり、団体で日本に来てアメリカに帰国する人々にまぎれて、ロッソの部下たちの目をあざむいたのだ。
そしていま、ゴルドーを見下す彼女は、口元に笑みを浮かべる。
「お礼参りよ」
銃口をゴルドーの頭に向ける。
「わたしをハメようとするなんて、いい度胸してるじゃない」
ベルベットの目が、冷たく光った。
「バイバイ、クソ野郎」
当たり前のように、引き金をひいた。その銃弾はゴルドーの額に炸裂し、彼の命を一瞬で奪い去る。
さらに、マーキーや側近たち全員にトドメを刺すと、ベルベットは部屋を出る。
この屋敷内で生きている人間は、彼女だけだ。外で見張っていた部下たち四人は、ボスの部屋に来るまでに始末している。
あっさりと片をつけた彼女は、何事もなかったかのように屋敷を出るのだった。
しばらく歩いていると、スマートフォンが着信を知らせる。
相手は情報屋のレニーだ。
「もしもし、わたしよ」
「ベルベットさんですか? お知らせしたいことがあります」




