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スパイラル・チェイス  作者: 左門正利
◆ 対決
39/67

◇ 策略

 バルゴや、彼の仲間の運転する車が、ナナセを乗せた白いセダンを追う。


 カーナビが設置されてはいるが、日本の地理に全然くわしくない彼らは、どこを走っているのかさっぱりわからない。


 だが、いまの彼らにすれば、地理云々よりもクノイチの乗る車を見失わないようにすることの方が重要だ。


 アメリカとちがって日本の車は運転席が右側であり、車道の左側を走るのは、違和感があって妙に具合が悪い。

 それでも、追跡している白いセダンは視界の外に出ないよう食らいついている。




 彼女たちの乗るセダンが、地下の駐車場に入った。


 その間、カペラたちの車は信号にひっかかってしまい、バルゴが運転する車以外は追ってこれなくなっている。


 ロッソが眉間にシワをよせる。


「見逃すなよ」


 バルゴにすれば、いわれるまでもない。


「逃がしゃしねえよ」


 駐車場の中をぐるぐるまわりながら、追っているセダンが出口まできたとき、ロッソが焦ったように声をあげた。


「待て、止めろっ」


 バルゴは急ブレーキを踏むと、怪訝な顔をロッソに向けた。


「どうしたんだよ」


 ロッソはバルゴに思い出させる。


「まえにも同じパターンがあっただろ。ナンバーは確認したか?」

「………」


 確かにそういうことがあったと思い出したバルゴは、ふとバックミラーに視線を移す。そこには、ひとりの女が立っていて、彼らが乗っている車を見ている。


 ナナセだ。


 彼は叫んだ。


「ロッソ、後ろだ!」


 そのとき、一台の車が駐車場の出口を急いで突っ切った。白いセダンである。


 ロッソはバルゴに告げる。


「あれがクノイチの車だ。おまえはあの車を追え。俺は、後ろにいる女と片をつける」

「わかった」


 ロッソは車から降り、バルゴは出口を過ぎたクノイチの車を追うのだった。




 ナナセの姿は、もう見えない。ロッソはスーツの内側から銃を取り、ナナセが立っていたところまで進む。


 まわりを確かめるが、彼女はいない。


 ──どこだ


 車高の高い車がならんでいる左側へ足を進める。慎重に辺りをうかがいながら、左へまわる。


 数歩、進んだときだった。ゾワッと背筋に悪寒が走る。殺し屋として生きてきたロッソの、危険を察知する独特の感覚である。


 彼はふり向いて銃を構える。すぐ目の前にナナセがいる。距離が近い。


 引き金をひくまえに、ナナセが右足でロッソの銃を蹴り飛ばした。

 彼の手から放れた銃が、車のボンネットに落下してバウンドする。


 ロッソは飛び下がった。しかし、ナナセは間合いをつめてくる。


 ロッソは右手をふりまわす。


「このっ」


 ナナセは後ろを向きつつそれをしゃがみながらかわすと、右足を伸ばしてロッソの脛を蹴る。

 ロッソは顔を歪めながら膝から落ち、両手を地面に着いた。


 刹那、ロッソに戦慄が走る。


 ──やばいっ!


 左側に転がるように、必死で身体を動かした。

 次の瞬間、ナナセの強烈なかかと落としがアスファルトにのめり込む。


 ロッソは急いで立ち上がり、ナナセとの距離をとった。


 ──なんて女だ


 あのかかと落としを頭に食らっていれば、頭蓋骨が砕けていたかもしれない。


 接近戦、素手での戦いが苦手なロッソにすれば、ナナセは天敵といってよい。全身が冷や汗につつまれる。




 クノイチの乗る車を追跡しているバルゴは、立体駐車場の三階に入った。そこにある車の数は、それほど多くない。


 追っている車が右へ曲がり、バルゴも右へ曲がったときだった。

 突然、フロントガラスにボールのようなものをぶつけられ、それが潰れて視界が真っ赤に広がる。


 バルゴはあわててブレーキを踏み、車を止めた。


「くそっ」


 白いセダンを見失った彼は、ドアを開けて外に出た。


 駐車場の中は、静まりかえっている。クノイチの車を探そうと足をふみ出した矢先に、何者かがバルゴの前方にあらわれた。


 その姿を見たとき、彼の目が点になる。


 ──あの子は、確か……


 見覚えのある子どもが、バルゴから数メートル離れたところに立っている。 


 ヒトミである。彼女は紫の忍者装束で、背中に刀を備えている。




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