◇ 邪魔者
ロッソの顔つきが険しくなる。
──ベルベットの方から、飛び込んでくるとはな
こういう事態になるとは思わなかった。まったくの予想外だ。
こちらの仲間がいることを知れば、ベルベットは警戒して空港に近づくのを躊躇すると思ったが、考えが甘かったかもしれない。
空港の中に入ると当然のごとく外国人が多く、ベルベットはけっして目立つ存在とはならない。
──俺の読みを逆手にとられたか
実にやっかいなことになった。空港内は広く、ベルベットを探すのは容易ではない。
ロッソとバルゴは、イリジンにそのまま搭乗手続きのカウンターを見張らせ、自分たちは第2ターミナルの一階に降りる。
羽田空港からの仲間たちがやって来て、彼らと合流する。
ベルベットは、アメリカへ行くとはかぎらない。第1、第3ターミナルも見張らせるべく、人数をふり分けようとしたときだった。
突然、ロッソのスマートフォンに着信音が響いた。ステファンの携帯電話からだ。
彼は、電話に応じる。
「ステファンか?」
次の瞬間、ロッソの思考が停止する。応答したのはステファンではない。女の声だ。
「ルーデス協会は、おまえをゆるさない」
愕然となり、絶句する。
──ルーデス協会……
ロッソたちは巻物を奪うため、ルーデス協会のクノイチ担当の連絡員を殺害している。
その連絡員になり代わり、巻物を手に入れて、それでベルベットを誘き寄せる計画だった。
しかし、クノイチのしたたかさは想定外だった。計画は、ものの見事に破綻してしまった。
混乱にみまわれる。ベルベットが自分たちとルーデス協会の問題に絡んでくるとは思えない。
そして、電話の声にはきき覚えがある。
──ベルベットじゃなかったのか?
思い当たる人物が、ひとりいる。
──まさか
そのまさかであることを、彼はすぐに理解されられる。
電話の声が伝える。
「後ろを見ろ」
ロッソはふり向いた。己の目に映る人物に、ロッソはギリッと歯ぎしりした。
「てめえっ」
髪をポニーテールにしている彼女は、クノイチのナナセだ。
三者会談ではまんまと逃げられ、ベルベットを追っているときに遭遇してカーチェイスとなったときも、彼女には一杯食わされた。
ロッソの頭に血がのぼる。ナナセはロッソに背を向けて、その場から立ち去ろうと走り出した。
ロッソは叫んだ。
「待ちやがれ!」
そういわれて、おとなしく待つ馬鹿はいない。ロッソはバルゴに伝える。
「ベルベットじゃねえ、クノイチの女だ。あいつが仕掛けていたんだ」
「なに?」
「絶対に逃がすなっ」
「わかった!」
バルゴは部下に連絡し、彼ら全員でナナセを追いかけようとする。
ナナセは駐車場の方へ走ってゆく。ロッソが声をはりあげた。
「車だ、あいつは車で逃げる気だっ」
バルゴが、足のはやいカルロに指示を出す。
「カルロ、女を追え。女が車に乗ったら、ナンバーを教えろ」
「はいっ」
「他のみんなは、車の方に向かえ」
「了解です」
さらに、カペラに連絡する。
「カペラ、女が車に乗ったらカルロを車で拾うんだ」
「わかりました」
そしてバルゴは、自分たちが空港まで来るのに使った車の方に向かった。
ナナセが、待たせてある車に乗り込んだ。必死で追っていたカルロが、発進する白いセダンのナンバープレートを確認する。
その間に、車を運転するバルゴはロッソを拾う。
カルロは、確認したナンバーを携帯電話でバルゴに伝える。
「白いセダンです。ナンバーは──」
息切れするロッソは、運転するバルゴに顔を向ける。
「あのときの白い車だな」
「たぶんな」
「邪魔しやがって」
ベルベットと片をつけなければならないのに、ナナセは思いもよらない障壁となり、彼らの前に立ち塞がっている。




