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スパイラル・チェイス  作者: 左門正利
◆ 追跡
29/67

◇ 奇襲

 ある昼下がり──街外れの喫茶店で、ナナセとロッドマンがテーブルを前に向き合って会話していた。


 ロッドマンがナナセに感嘆する。


「ベルベットを出し抜くなんて、すごいわね」

「あいつは、格闘技にもかなり精通しているようでした。彼女は、並みの殺し屋ではありません」


 二人はしばらく話したあと、喫茶店を出ようと席を立った。


 ナナセが、ロッドマンに大きな手さげ袋を渡す。中に入っているのは、ベルベットのバッグだ。

 バッグを袋に入れておかないと、ベルベットが見ればすぐに自分のバッグだとわかるだろう。 


 ロッドマンは、興味津々な顔をして受け取った。


「ありがとう。MI6 の方で調べてみるわ」


 喫茶店を出て、二人は別れる。ロッドマンは、跡を追われることもなく自宅のマンションに着きそうだと思い、歩道を歩きながら角を右に曲がった。


 そのとき──ロッドマンにしては、あまりにも無警戒すぎた。ベルベットのバッグの中身を調べたいという想いで頭がいっぱいになり、警戒心がうすれていた。


 いきなり、ナイフがロッドマンの胸に突き刺さってくる。そのナイフは、狙いをはずさなかった。心臓への一撃。


 ガチンッ


 不意打ちを受けたロッドマンは、ドサッと後ろに倒れた。左手に持っていた手さげ袋が地面に落ちる。


 ナイフを持った相手が、すかさず追い打ちをかけてくる。上からふりおろされるナイフを、ロッドマンは素早く右へ転がりながら、どうにか避けた。


 ナイフをにぎっているのはベルベットだった。

 彼女は手さげ袋を拾いあげると、神妙な顔をする。最初の一撃の違和感が、半端ではなかった。


 ──ガチンッ……?


 心臓を狙ったナイフが肋骨に当たった感じではない。


 胸をおさえながら起き上がったロッドマンに向かって、ベルベットは口をひらいた。


「まさかとは思ったけど」


 以前にきいたことのある噂は、ガセネタではなく本当らしい。当時は、まったく信じていなかった。


「 MI6 にサイボーグがいるっていう話は、事実のようね」


 ロッドマンは、なにもいわない。彼女は、なぜベルベットがここで待ち伏せしていたのか疑問に思う。

 自宅のマンションは、やすやすと調べがつくようにはしていないはずだ。また、これまで尾行されたこともなかった。


 ──尾行じゃない


 彼女は MI6 の諜報員である。跡をつけられているなら気配でわかるし、相手をまく術も心得ている。

 正面から不意をつくように襲われるのは、明らかに待ち伏せだ。


 まわりには誰もいない。ロッドマンもベルベットも、そう思っていた。


 ところが──


「いたぞ!」


 ベルベットが、声がした方にチラッと視線を移す。ロッソとバルゴがこちらに向かって走ってくる。


 ベルベットはベルベットで、なぜ彼らが自分の居所をつかむことができるのか不思議だった。

 彼女は、自分の右側に面した車道を突っ切ってゆく。ロッドマンは、来た道をひき返すように歩道を走った。


 ロッソがバルゴに声をあげる。


「ベルベットの他に誰かいるぞ。おまえはそっちへ行け、俺はベルベットを追う」

「わかった」


 ロッソはベルベットが走った車道を渡り、バルゴはロッドマンを追いかける。


 バルゴは確認した。


「女?」


 彼の前を行くロッドマンが、角を左へ曲がる。バルゴも同じように角を曲がった、そのとき


 ドガッ


 バルゴはロッドマンのパンチを顔面にもろに食らう。


「ぐっ」


 バルゴは鼻血を出しながら後ろにヨタヨタとよろけると、尻もちをついた。


 ロッドマンは、一目散に逃げてゆく。


 ──女のパンチじゃねえぞ……


 上半身を起こしたバルゴは、左脇のホルスターから銃を抜いて、ロッドマンに狙いを定める。しかし、頭がガンガンして上手く狙えない。


 ロッドマンは次の角を曲がり、バルゴの視界から消え去った。


「くそっ」


 銃をホルスターに収めて立ち上がろうとしたとき、黒い筒が転がっているのに気づいた。


「なんだ、これ?」


 ロッドマンが落としたものだ。




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