◇ 三者三様
一方、ロッソの方も、ベルベットにまかれてしまった。
「チッ」
舌打ちした彼は、仕方なくバルゴと分かれた場所までもどると、すでにバルゴがそこにいる。
バルゴのそばまで来たロッソは、彼に向かって口をひらいた。
「おまえもダメだったか」
「ああ。だがな、見ろよ」
バルゴはそういって、右手に持っている筒を顔の位置まで上げた。
ロッソの目が点になる。
「おい、それは……」
「巻物だよ。ベルベットじゃなくて、あの女がもっていたんだ。誰だか知らねえけどな」
「部下に連絡しよう。さっさとボスのもとに運ばせる」
「それがいいな」
予期せぬ収穫だった。
ロッソをまいたベルベットは、都市近郊のホテルに泊まる。
部屋に入って、すぐにバッグの中身をチェックした。残酷な事実が、彼女を唖然とさせる。
──ない……
自分の持ち物はあるが、肝心の巻物が入っていない。
「やられたわ」
彼女はため息をついて、ベッドに背中から倒れ込んだ。
どうもおかしい。ふだんの自分であれば、こんなことにはならないはずだ。
己の感性に、ズレが生じている。
「なにか間違っているのかしら?」
今回、予定外だったのは、ロッソたちから狙われたことだ。
彼らのボスであったグッデンを殺害したのは、ベルベットである。そのことを簡単にはわからないようにしていたのだが、どうやって調べたのか気づいたらしい。
なかなか、しつこい。まあ、ボスを殺されて組織を追い出されたのだから、無理もない。
ベルベットは、ロッソたちがルーデス協会の人間になりすまし、巻物を奪おうとしたことを知っている。
このことがわかったとき、彼女はいささか驚いた。まさか彼らが日本に来ているとは思わなかったのだ。
ベルベットに巻物奪取を依頼したのはゴルドーだ。ロッソたちにすれば、ゴルドーのメンツを潰すためにも、自分が受けたこの依頼を全力で阻止してくるだろう……と、彼女は考えた。
だが、ゴルドーとロッソたちがつながっていることを、ベルベットはまだ知らずにいる。
それが、彼女の感性を微妙に狂わせ続けているのだった。
バルゴから逃げきったロッドマンは、タクシーをひろって地下鉄の駅に行くと、地下に降りてナナセに連絡する。
「ごめんなさい。バッグも巻物も奪われちゃったわ」
「怪我はないですか?」
「なんとか大丈夫」
「話もききたいですし、会いたいのですが」
「わかったわ」
「いま、どこにいますか?」
ロッドマンはナナセに居場所を教えると、車で迎えに来るという。ほどなくカナエが運転する白い車が来ると、胸をおさえているロッドマンは後部座席に乗り込んだ。
助手席に座っているナナセが、彼女の方をふり向いた。ロッドマンを気づかうナナセは、話す途中で絶句する。
「だいじょう……っ!」
「ええ、大丈夫」
ナナセは目を見開いた。ロッドマンの服は、胸の部分が血に染まっている。心臓の位置だ。
「カナエ、病院へ行って、急いで!」
「了解っ」
ロッドマンは焦った。
「だ、大丈夫だから。この傷は……」
ギャキキキッと悲鳴をあげるタイヤの音が、ロッドマンの言葉をさえぎる。
結局、ロッドマンはナナセが指定する病院へ運ばれるのだった。
その病院では、ロッドマンを診た医師をはじめ、ナナセたちも驚いている。
ロッドマンの胸のレントゲンを撮ったところ、明らかにふつうとはちがっていた。彼女の心臓は、チタン合金の壁で守られている。また、乳房も人工のものが挿入されていた。
目をぱちくりしているナナセは、信じられない思いが口に出る。
「 MI6 にサイボーグがいるっていう噂は、本当だったんですね」
ロッドマンは、ため息をついて言葉を返した。
「それをきいたの、きょうで二度目よ」




