◇ 発信器
ライオットは、クノイチの息がかかっている病院へ運ばれる。即、入院となり、ICUへ移動した。
待合室の椅子に座っているカナエが、あきれたようにいった。
「無茶しすぎでしょ。あの人、馬鹿じゃないの?」
横に座るヒトミが、目を細める。
「カナエ姉さん、それはいい過ぎ」
スマートフォンでナナセと電話をしていたエリナが、彼女たちにふり向いた。
「ナナセも来るって。いま、タクシーに乗ってるみたい。上手くまいたようね」
しばらくして、ナナセがパンツ姿の普段着で病院にあらわれた。
彼女は、みんなに訊いてみる。
「ライオットさん、ICUに運ばれたってきいたけど、どんな感じ?」
彼女の問いかけに、ヒトミが答えた。
「絶対安静だって」
ナナセは、ため息をついた。そのあと、大事なことを思い出す。
「ヒトミ、ベルベットのバッグは?」
バッグをもっているのはエリナだ。彼女が答える。
「これよ。中を調べたけど、すごいわよ」
そのバッグは、卒業証書を入れた筒が、すっぽり入るほどの大きさだ。つまり、巻物も入っている。
バッグの中には、様々な名義のパスポートをはじめ、ベルベットがいつも携帯していると思われる物がある。
一見すると化粧道具だが、中には弾丸が入っていたりする。
口紅は、ふつうのものより重いもの、軽いものがあり、キャップが開かない。なにが入っているのかわからないが、ベルベットしか開けられないようだ。
その他、変形する小型ナイフやピッキングツールなど、一般人には必要のないものが入っている。
よくわからない装置もあった。カナエが誰ともなく訊いてみる。
「これ、なにかしら?」
エリナが推測する。
「暗号解読器のようね。それでドアの電子ロックを解除するのかも」
こういう品々に対して、ヒトミが疑問を口にする。
「こんなものを入れてると、空港の持ち物検査にひっかかるんじゃないの?」
エリナはヒトミに顔を向けると、いった。
「表面の革の裏側に、エックス線検査をスルーさせる特殊な素材を使っているのでしょうね」
ナナセは、エリナに問いかける。
「このバッグ、どう処分するの?」
訊かれた彼女は、答えた。
「ロッドマンさんが、調べさせてくれって。断る理由はないでしょ」
「ええ、別にかまわないわ」
「彼女には、あとでこちらから連絡すると伝えてるわ。ナナセ、お願いね」
「わかったわ」
ナナセはその場でロッドマンに連絡し、ベルベットのバッグをひきわたす日時と場所を決めるのだった。
一方、成田を出たベルベットは、東京のホテルへ泊まる。もちろん偽名だ。
部屋に入ってシャワーを浴びたあと、ベッドに仰向けになりながら、なぜクノイチが自分を待ち伏せするように空港にいたのかを考えた。
不意に、彼女はガバッと起きる。紺のスーツのポケットを調べると、入れた覚えのないボタンがあった。
「これは……」
ボタンだと思ったが、よく見るとちがう。発信器だと気づいた。
「やってくれるわね」
ライオットだと見当がついた。スーツに発信器を仕込むことができたのは、彼だけだ。
「侮ってたわ」
殺害したジムよりもライオットの方がちょろいと思っていのだが、そんな彼はまがりなりにも MI6 の諜報員だということを思い知らされる。
彼女は自分のスマートフォンを手にすると、特定のアプリを起動させる。
「発信器を仕込んでいるのは、MI6 のあなただけじゃないのよ」
空港で入れ替わった自分のバッグには、発信器が取り付けられている。エリナたちは、それを確認できていない。
スマートフォンのアプリで、バッグの位置を追うことができるのだ。
「ライオット、そしてクノイチ……次は容赦しないわ」
彼女の目が、冷たく光った。




