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スパイラル・チェイス  作者: 左門正利
◆ 殺し屋たち
27/67

◇ 知らない事実

 ゴルドーは思考を巡らす。まずは、ベルベットを仕留めることができそうな殺し屋を探さねばならない。


 うってつけの人物が二人いる。ロッソとバルゴだ。当時、この二人はゴルドーの部下ではなかった。彼らのボスは、取引中に殺されたグッデンだった。


 ボスを守れなかった彼らは組織を追い出されてフリーになり、たいした稼ぎにならない仕事を請け負っていた。


 ある日の夜、酒場のテーブルで飲んでいた二人の前に、ゴルドーが姿を見せる。


「よう」


 ゴルドーはそういうと、椅子に座った。一瞬、唖然となったロッソがゴルドーをにらんだ。


「俺たちを笑いにきたのか?」

「そういきり立つなよ。おまえたちの知らないことを、教えてやろうと思ってな」

「なんだよ」

「グッデンを殺ったのは誰か、だ」


 バルゴが憤慨する。


「てめえ以外に、誰がいるんだよ!」


 ゴルドーは、葉巻をくわえて火をつけた。


「ベルベットだ」


 ロッソが目を丸くする。


「国際指名手配犯のベルベットか?」

「そうだ」


 ゴルドーは葉巻の煙を吐き出すと、いった。


「グッデンとの取引は、俺としても大事な取引だったんだ。大損害だよ。まさか、あいつを恨んでいたヤツがベルベットを雇うとは、考えもしなかったがな」


 バルゴが彼に問いかける。


「誰がベルベットを雇ったんだ?」


 ゴルドーは、ため息をついた。眉を歪ませ、しかめっ面になる。


「事業家だ。そいつがカナダの別荘に住んでいたのをつきとめ、すでに始末したけどな」


 ロッソが、そういうニュースを見たことを思い出す。


「あれは、あんたの仕業だったのか」

「そうだ」


 バルゴはふたたび葉巻の煙を吹き出した。


「おまえたち、俺のところにこないか。腕利きの殺し屋を探しているんだ」


 ロッソとバルゴは、顔を見合せる。


「ベルベットをこのままで済ますわけには、いかねえんだ。おまえたちも、そうだろ? グッデンの仇をとらせてやるよ」


 このときより、ロッソとバルゴはゴルドーの配下になるのだった。そして、彼らとともに組織を追い出された手下たちも、二人についてゆく。

 その手下というのは、成田国際空港でベルベットを見張っていたイリジンたちである。


 ゴルドーは今回の画策において、ロッソたちだけでは人数が少ないと思い、さらに何人かの部下をロッソのもとで働くよう、同行させたのである。




 ロッソとバルゴを迎え入れて数日後、ゴルドーはベルベットに仕事を依頼する。その内容は巻物の奪取だ。


 だが、ベルベットは断った。


「わたしは泥棒じゃないのよ。わたしのこと、知らないの?」

「あんたにしか、できないと思うんだ。巻物を、日本のニンジャが守っている」


 しかし、ベルベットは乗り気ではない。そんな彼女に、ゴルドーは告げる。


「巻物を奪い取ることができれば、一億円の金を払おう。前金は一千万円だ」


 ベルベットは、目を見開いた。


「ニンジャが守っている巻物に、それほどの価値があるっていうの?」


 ゴルドーはうなずいた。


「チンケな泥棒や殺し屋では、絶対に無理だ。暗殺集団のニンジャには太刀打ちできないんだよ。あんたでなければダメなんだ」


 一億円の成功報酬は魅力的だ。


「わかったわ」


 結局、ベルベットはこの依頼を引き受けるのだった。


 ベルベットは、ロッソとバルゴがゴルドーの配下として組されたことを知らない。ゴルドーファミリーのなかでも、側近の人間しか知らないトップシークレットだ。


 彼女はロッソとバルゴの存在は知っているが、この二人は未だにゴルドーを憎んでいると思っている。


 いつものようにスムーズに事が進まないのは、クノイチのせいだけではなかった。

 知らない事実を知らないままでいるベルベットは思考にズレを生じ、それが行動にも影響を与えている。


 彼女は、己のそういう状態にまだ気づいていない。



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