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スパイラル・チェイス  作者: 左門正利
◆ 殺し屋たち
26/67

◇ 雇い主

 頬がげっそりとやせて青い顔をしたライオットは、まるで別人のようだ。ベルベットは、彼のちょっとした変装を見破ることができなかった。

 また、ベルベットがエリナの存在を知らないことも幸いだった。


 ベルベットがロビーで彼らを見ている間に、気配を消したヒトミがベルベットの席に後ろから近づいて、バッグを交換したのである。


 ナナセを追っていたベルベットは、完全にナナセを見失ってしまう。


 彼女は、ギリッと歯ぎしりする。


 ──ここまでコケにされたのは、はじめてだわっ


 巻物が入ったバッグは奪われ、ナナセも逃がしてしまった。


 ──このままじゃ済まさないわよ


 怒りのたぎる彼女の後ろを、スチュワーデスに扮したナナセが通り過ぎてゆく。





 警察が空港にわらわらと集まってくる。テロが起きたという情報も流れている。


 ベルベットは、足止めを食らうまえに空港を出ると、雇い主に連絡する。

 雇い主から直に手渡された、専用のスマートフォンである。その電話に相手がでる。


「俺だ。ベルベットか?」

「わたしよ。邪魔が入って、予定が狂ったわ。もう少し時間がかかりそう」

「なにがあったんだ?」

「クノイチよ。彼女たち、思ったよりやっかいな相手だわ」

「いま、どこにいる」

「成田よ、空港から出たところ。ここは、しばらく封鎖されるかもね」

「わかった。とにかく、はやいとこ巻物を頼む」

「ええ。わたしもあまり、時間をかけたくないからね」


 そういって、彼女は通話を切った。


 ベルベットは、胸の前で腕を組んで考える。クノイチの存在が、これほどやっかいなことになるとは思わなかった。

 ロッソたちも現地に到着すれば、騙されたことに気づくだろう。


「大失敗だわっ」


 彼女の眉間に、怒りのシワが刻まれる。




 ベルベットの雇い主は、別の人物に電話をかける。数秒後、相手が応答に出た。


「ロッソです」

「ロッソ、いまどこにいる」

「新幹線の中です。ボス、ベルベットは大阪から飛行機で……」

「ベルベットは成田にいるぞ。クノイチに邪魔されて、飛行機には乗れなかったようだがな」

「なんですって?」

「一杯、食わされたな。すぐに引き返すんだ」


 通話を終えたロッソは、渋い顔をバルゴに向ける。


「やられたよ。ベルベットは成田にいるってよ」

「本当か?」

「ボスが、そういってる。東京へもどるぞ」

「やれやれだ」


 ベルベットの雇い主は、ロッソたちのボスだった。


 ゴルドーファミリーのボス、ダリアン・ゴルドーは、巻物の奪取と同時にベルベットの殺害を目論んでいた。

 いかにも組織のボスだと思わせる恰幅の良い彼は、ベルベットに恨みがあるのだ。


 数年前、大きな取引が完了する直前に、見えない位置から取引相手のグッデンが殺害され、それがゴルドーの仕業だと勘違いされる。

 取引は失敗に終わり、腕利きの部下たちを何人も失った。


 どうにか生き延びた彼は、誰がグッデンを殺したかのか調べさせる。数ヶ月後、グッデンに恨みをもつ事業家が、殺し屋を雇ったことがわかった。


 情報屋がゴルドーに説明する。


「ファミリーどうしの遺恨を当たっていたのですが、さっぱりだったんで苦労しました。まさか、個人的な怨恨(えんこん)だったとは」

「雇った殺し屋というのは、誰だ?」

「ベルベットという、国際指名手配犯です」


 名前はきいたことがある。


 ──絶対に、ただでは済まさんぞ


 ゴルドーは、まずベルベットを雇った事業家を亡き者にする。


 そして、ベルベットをどうやって葬るかを考えていたとき、予期せぬ情報が入ってきた。情報屋がゴルドーに伝える。


「 MI6 が、日本のニンジャと取引するそうです」

「ニンジャ?」

「イギリスの女王直々の命令で、巻物というものを日本で受け取るようです。歴史的にも、かなりの価値があるみたいですよ」


 ゴルドーは考えた。


 ──これを利用しよう




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