第八話:綻ぶ小さな蕾
次の文が届いたのは、前の密会から一月以上後だった。
【次の三日月、子の刻。
西の竹林で待っています。
如月】
短い文だったが筆致がどこか弱々しく見え、胸に妙なざわめきが残った。
そして約束の夜。俺はいつもより早く社に着いた。
闇に沈む竹林の中、風の音だけが静かに耳を撫でる。
空は雲に覆われ、三日月すら見えなかった。
(まだ、来とらんか……)
社の柱に背を預け、俺は静かに息を吐く。
待ち合わせの刻にはまだ間がある。
そのとき、足元に何かが落ちているのに気づく。
……――――白い布の切れ端。
俺はそれを拾い上げ、目を凝らす。
刺繍が施され、薄く香の匂いが染み込んでいる。
間違いない――如月が肌身離さず持っていた小さなお守り袋の一部だ。
如月が来る途中で落としたのか、それとも――。
「……まさか」
嫌な予感が背筋を走る。俺は社を飛び出し周囲を探し始めた。
竹の葉を踏み、月のない夜道を慎重に進んだ。
闇の中で気配を探るように耳を澄ませた。
「如月……! どこさおる……!?」
声を殺しながら必死に名を呼んだ。普段の俺なら、絶対にしない。
山道を少し外れた所で小さな呻き声が聞こえた。
息を呑み近づくと倒れている如月を見つける。
草むらに体を横たえ、白衣を汚し足を押さえていた。
「……っ、あ」
「如月……!」
駆け寄り、その身を支える。額には薄く汗が浮かび、足首が腫れていた。
「……足を挫いて、…………動けなくなって……
ごめんなさい……」
「謝んな! お前さんは、悪ぐねぇ……」
思わず声を荒げる。だがそれは心配と安堵がないまぜになった叫びだった。
如月は、少しだけ微笑んで答えた。
「うん。見つけてくれて、ありがとう。
……待っていて正解だった。
あなたなら、きっと気付いてくれるって思ったの」
その言葉に、俺は言葉を失い固まる。
信じてくれたことへの喜び、感謝された嬉しさ……どれも、違う。
如月を抱き締めたい衝動に駆られる。
「っ……もう、大丈夫じゃから。喋んなじゃ。
人さ見っかったらあぶね。俺が、家ん裏まで運んじゃるけ」
俺は衝動を抑え、彼女を背負う。如月の体は細くて軽い。
だがその重みは確かで温もりが背中越しに胸へ沁みた。
「……ありがとう」
「気にすんな。それより、身体が熱いんでね?」
「あ、ちょっと風邪気味で……」
「そんでか、筆跡が弱々しかった訳じゃ。
……調子の悪い時は、無理せんでくれ。
俺の所為でお前さんになんかあったば、申し訳ねぇ」
「うん。でも、私があなたに会って話がしたかったから……
だけど、次からは気を付けるわ。心配してくれて、ありがとう」
如月の言葉に鼓動が高鳴る。
心の奥に、確かに何かが触れた。




