第五話:護るために心を殺す
しばらくして、ある噂を耳にした。
内容は「篁家の親戚が鈴を養子に欲しがってる」というもの。
……鈴を気にかけていた如月の仕業だろうことは、
容易に想像ができた。それが、善意だけなのかは分からなかったが。
噂はあっという間に広がり、父の耳にも届いた。
「そんな訳でな、跡継ぎは順調に育っているので、
次は娘が欲しいと言うのだ。……どう思うか?」
長老が仲介役として我が家を訪れ、父へ尋ねる。
玄関先で話していたため、俺は思わず聞き耳を立てた。
すると父が一瞬、険しい表情を見せる。
「……鈴のことか。あの子は、一族を捨てた愚弟の子だ。
おまけに、あの体たらく」
「しかし、この縁はお前たちの家にも利益を齎すはずだ。
権力ある家に恩を売れる機会でもあるんだぞ?」
「……正直に言えば、あの子は余計な荷物だ。
血も繋がらぬ子を我が家で抱える余裕はない。
何よりも、父上の期待を裏切った弟の遺した子……あんなのでも、
役に立つなら連れていってくれ」
その夜、同じ話を俺は父から聞かされた。
――この家に居ても、鈴は幸せになれないのは明白。
妹のことを思うなら、喜んで送り出すべきだ。
だが、鈴は自分に初めて優しくしてくれた……たった一人の【家族】で。
「……鈴の意見は、聞いたのですか?」
「聞いてどうする?」
「…………」
俺は目を伏せ、拳を強く握った。
「感情を押し殺し、時に厳しさで己や子を律することもある。
あの子を引き渡すのは、決して簡単なことではない。
だがこれが、家の理であり忍びの道なのだ」
……綺麗事だ。
鈴を引き取ってから、父は前にも増して怒るようになった。
夜中、自分たちが寝静まった頃だ。母に愚痴っていたのを聞いた。
鈴の父親。父の弟は、将来を嘱望された忍びだったという。
愛する女のため、一族を捨てた人。だが、見つけた時にはもう……。
「お前も家を継ぐ者として自覚しろ。
これから先、お前やお前の子もいつかは同じ重責を担う事になる。
感情に流されず、家の為に選択するんだ。
その時が来たらお前もしっかりと導いてやるのだぞ」
「……わかりました、父上」
深く息を吐いて答えると、父は満足そうに頷いている。
俺は、感情を押し殺した。




