【外伝】白哉:嘘つきの誓い
その日は、
父ちゃんが前日の現場仕事で怪我をしたんやって珍しく家におった。
棟梁に
「奥さんと子どもも居るんだから、無理はするな」て言われたらしいわ。
自室で休んどった父ちゃんが、
昼前なって水飲みに台所へ向かってくのが見えた。
そのとき、僕は鈴と母ちゃんと一緒に居間におってん。
母ちゃんは、洗濯物を畳んどってな。
僕は鈴と毬転がして遊んでたわ。
したら、鈴が転がした毬が縁側から庭に落ちてもうてさ。
僕が庭へ出たと同時に、家の呼び鈴が鳴ってん。
父ちゃんが玄関へ向かう音がしたわ。
そしたら毬を拾い上げて部屋ん中戻ろうとしたときやった。
玄関の方から、珍しく父ちゃんが声を荒げんのが聞こえてきてん。
息を飲んで固まっとると、
襖が開いて父ちゃんが飛び込んできおった。
「母ちゃん! 鈴と満、連れて逃げろ!」
「あんた、後ろ!」
「──っ、ぁがっ……!」
母ちゃんが叫ぶんと同時に、
父ちゃんの背中が斬られて血飛沫が舞ったんや。
畳の上に倒れ込んだ父ちゃんの背中に、
男が足を乗せて、止め刺すのに力任せで刃を突き立ててん。
僕が動けずにおると、母ちゃんが叫んだんや。
「お兄、鈴連れて行き!」
そう言うて僕の方へ鈴を押しやった。
僕は鈴の手を掴んで、無我夢中で走ったわ。
背後からは、
母ちゃんの悲鳴が聞こえてさ……心臓は早鐘みたいに鳴っとった。
振り返る余裕なんてなくて。
鈴は、大声で泣きじゃくってた。
僕たちが住んどった家は、他の民家から少し離れた山の麓にあってさ。
しかも、朝の早い時間帯やったせいで、
近所の人らは誰もこの騒動に気づいとらんかった。
せやけど、鈴の泣き声聞いて一番近く住んどったじいちゃんが、
異変に気づいて駆けつけてくれたんや。
「助かった」と思って、安堵した……────その瞬間。
「父ちゃんと母ちゃん、助けに行かな」て、そう思ってしまったんや。
当時の僕は十歳やった。
あの状況で、両親が助かるはずがないことくらい、
頭ではわかってたはずや。
けどな。それでも、認めたくなかったんよ。
僕は鈴をじいちゃんに頼んで、家へ戻ろうとしたんや。
したら、鈴に手を掴まれて、
「お兄、行かんで! 鈴をひとりにせんで!」て泣きながら言われたんよ。
……僕は、ほんまに大馬鹿もんやったわ。
「大丈夫や、鈴! 兄ちゃんが、父ちゃんと母ちゃん連れて来るさかい!
せやから、ええ子で待っとって!」
あんときのことは、今も夢に見る。
もし、目の前に当時の自分がおったらぶん殴ってでも止めるんやけどな。
──でも、僕は行ってしまったんや。
泣き叫ぶ妹の手を振り払って、両親の亡骸が転がっとるあの家へ。
そこには、まだ強盗たちが残っとってさ。
僕はその素顔を見てしまったんや。
即座に組み伏せられて首を切り裂かれて殺されたわ。
走馬灯やったんかな?
最期の瞬間は、
妙にゆっくりで……いろんな思い出が脳裏を過ったわ。
「行かないで」
と泣いていた鈴の顔。
「お前が兄ちゃんじゃって、この子はわかっとるんだべな。
……満成、妹ば守るんがお前の役目だ。頼むじゃ?
兄ちゃん」
鈴が生まれた日に、父ちゃんに言われた言葉。
そんで。
「今年の演舞は、絶対見に行くわ!」
そう約束をした、あの子のこと。
……────全部、守れんかった。
鈴にも、父ちゃんにも、あの子にも……僕は、嘘をついてしまったんや。
そんで、首斬られた痛み感じる間もなく、
僕は息絶えた。
せやから転生したと気いついたときは、ほんまに嬉しくて。
今度こそ、二人との約束を守ろうって誓ったんや。
両親を連れてくることはできんかったけど、もう二度と妹を独りにせん。
それが、今ん僕の生きる理由や。




