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愛縁奇縁 ― 忘却の魂、再び巡る ―  作者: 里 恵


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第九話:月影に現れし因縁


 天羅が帰ってきたことで、

 如月と二人きりの生活が終わるのは少し寂しく感じる。


 だがこれからは三人で仲良くやっていこうと決めた。

 そう思って、

 気持ちを切り替えていたのだが、彼女は母屋では暮らさないと言う。


「僕は離れを使うよ。ご飯だけ、一緒させてもらうね」


 天羅は当然のようにそう言って、

 裏手のこじんまりとした離れへ荷を運び始めた。

 日当たりの良い小さな庭と、縁側付きの一間だけの古い家屋だ。

 以前は物置として使っていた場所らしい。


「いや、元はお前さんの家なんじゃぞ?

 俺が離れに移るけ、お前は如月と一緒に母屋使えじゃ」


 俺の言葉に、天羅はふわりと笑って首を横に振った。


「気持ちはありがたいけど……私は一人の時間が好きなんだ」


 そして、すっと顔を寄せると俺の耳元で囁くように言う。


「それに……愛しい彼女との時間を邪魔するほど、僕は無粋じゃないよ?」


 耳元で囁かれたその言葉に俺は一瞬たじろいだ。

 ちらりと母屋の縁側を見れば、如月が何も知らぬ顔で洗濯物を干している。

 天羅はくすりと笑い荷の最後のひと包みを手に離れへ入っていった。

 変わらず柔らかく、

 しかしどこか鋭さを帯びた彼女に俺は頭が上がりそうにない。


 その日から、静かな三人の生活が始まった。

 会話は少ないのに、不思議と気まずくはない。


 だが――静けさは、長くは続かなかった。

 数日後。朝方、村の青年が駆け込んでくる。


「黑さん、大変だ! 村の井戸が……水が、一滴も出なくなった!」


 駆け足で現場を見に行くと、井戸の底は完全に干上がっていた。

 周囲の畑も息を潜めているように、生気が薄れている。


 だが異変は、それだけに留まらなかった。


 森からは、鳥の声が消えた。

 野生動物の姿も、日ごとに見かけなくなっていく。


 あまりに、静かすぎる。


「天羅。これって、まさか……」

「…………ああ。どうやら、今回も俺の胸騒ぎが当たってしまったらしいな」


 村の空気が少しずつざわつき始めた頃、あの男が再び現れた。


 以前、夏祭りで出会った雪色の髪を持つ男。

 あのときは祭りの喧騒に紛れた短い接触だったが、今回は違った。

 俺と如月、

 そして天羅の三人が集まって話し合っていた丑三つ時。

 月の光が差し込む縁側に、男はふらりと現れた。


「……また会うたな。改めまして、白哉《ゆきなり》言います」


 そう言って、男……――――白哉は頭を下げる。

 白哉は俺の前に立ち、真っすぐに言った。


「ほんまは、あのとき祭りで言うつもりやってんけどさ。

 僕な? ……鈴の、実の兄貴やねん」


 【鈴】――その名を聞いた瞬間、空気が変わった。


「黑……お前も、覚えてんねやろ? 前世の話。

 鈴もな。あの子も、今この時代に《《おる》》ねん。


 けど、場所まではわからんのや……

 頼む! 妹を探す為に力を貸してくれ!」


 言うと同時に、白哉はその場に土下座した。

 突然のことに混乱していると、天羅が目を細めすっと立ち上がる。


「天羅?」

「……はぁ、これも。私の犯した罪への罰なのか……」

「お前、こげな時に何言っとるんじゃ?」

「【縁は異なもの味なもの】とは、良く言ったものだな。……黑」

「なした?」


 天羅の意味深な言葉に困惑しながらも、

 名を呼ばれ俺は彼女を見つめ次の言葉を待つ。


 白哉も急に語り出した天羅を訝しげに見ている。


「僕が探していたのは【鈴】と言う名を持つ白髪の少女だ」

「は、え?」

「かつて、私は彼女に出会い救われた。


 世界の色が綺麗な事を教えてくれた彼女に、

 いつか恩を返したいと思ってずっと探していたんだ。


 ……前世からね」


 月明かりの下で、過去の因縁が再び動き出した。

 天羅の直感は確かに【何か】を予見している。




 ……そして俺たちは、また一歩。運命の中心へ近づいてしまった。

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