↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛縁奇縁 ― 忘却の魂、再び巡る ―  作者: 里 恵


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/31

第七話:鏡写しの月下


 祭りの会場は思っていたより人が疎《まば》らで、

 提灯の灯りがふわりと風に揺れていた。


 如月の表情もほっと緩んだ。小さく息を吐き、俺の手をそっと握り直す。


「人……思ってたより、少なくて良かった」

「じゃのぅ。俺も、こっちのが気楽で良かね」


 軽く笑って返すと、如月は小さく笑う。


 提灯の灯りが並ぶ小道を進みながら出店を見て回った。

 焼きとうもろこしの香ばしい匂いに、如月が小さく鼻を動かしたとき。


 「あ、すまん」


 不意に肩がぶつかり、俺は反射的に謝った。

 立ち止まって振り返ると口元を布で覆った男が目に入る。


 ――その目と視線が合った瞬間、俺の呼吸が止まった。


(……似とる)


 まるで自分の姿を鏡越しに見ているような奇妙な感覚だった。

 だが彼の髪は雪色《せっしょく》で、俺とは真逆の色をしていた。


「いや、僕の方こそすんません。ちょっとよそ見してもうて、かんにんな」


 落ち着いた、関西訛りのある声。

 男は布越しに微笑みながら、俺の目を見据えた。


「お祭りってどこも似たような作りやろ?

 おかげさんで迷い子になってまうわ」

「土地勘がねば、なおさら訳わかんなぐなるしな」


 言葉を交わしながらも、俺は男の顔を凝視していた。

 ……他人の空似、なんて話で片付けられるもんじゃない。


「せやねん! おにいさん、話の解る人やね!」

「別に、普通じゃろ」


 初対面のはずなのに、不思議と嫌な気はしなかった。

 すると、男は俺にだけ聞こえる小さな声で。 

「ようやっと再会できたんやな。おめっとさん。


 ……ほな、お祭り楽しんで! さいなら」

「…………は?」


 その言葉に俺が驚いて固まっている内に、

 手を振りながら男は人混みへ消えて行ってしまう。

 遠ざかる男の背を見つめていると、何故か前世の妹が脳裏に浮かんだ。


 目を細めて笑ったあの男の顔と、

 記憶の中で妹が最後に笑った顔が……重なった気がした。


 その時、太鼓の音が鳴り響く。

 演舞が始まる合図だ。子供たちの声が広場に広がる。


「黑さん、大丈夫? 今の人、知り合いだったの?

 なんだか、貴方ととても似てるように見えたけど」


 如月の言葉に、俺は何も返す事が出来なかった。

 目に焼きついた雪色の髪。

 そして、どこか懐かしさすら覚えさせる視線の奥。

 何か古い扉が軋む音がした。




 その感覚に名はない。……けれど、確かにあの目を知っている気がする。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。