第七話:鏡写しの月下
祭りの会場は思っていたより人が疎らで、
提灯の灯りがふわりと風に揺れていた。
如月の表情もほっと緩んだ。小さく息を吐き、俺の手をそっと握り直す。
「人……思ってたより、少なくて良かった」
「じゃのぅ。俺も、こっちのが気楽で良かね」
軽く笑って返すと、如月は小さく笑う。
提灯の灯りが並ぶ小道を進みながら出店を見て回った。
焼きとうもろこしの香ばしい匂いに、如月が小さく鼻を動かしたとき。
「あ、すまん」
不意に肩がぶつかり、俺は反射的に謝った。
立ち止まって振り返ると口元を布で覆った男が目に入る。
――その目と視線が合った瞬間、俺の呼吸が止まった。
(……似とる)
まるで自分の姿を鏡越しに見ているような奇妙な感覚だった。
だが彼の髪は雪色で、俺とは真逆の色をしていた。
「いや、僕の方こそすんません。ちょっとよそ見してもうて、かんにんな」
落ち着いた、関西訛りのある声。
男は布越しに微笑みながら、俺の目を見据えた。
「お祭りってどこも似たような作りやろ?
おかげさんで迷い子になってまうわ」
「土地勘がねば、なおさら訳わかんなぐなるしな」
言葉を交わしながらも、俺は男の顔を凝視していた。
……他人の空似、なんて話で片付けられるもんじゃない。
「せやねん! おにいさん、話の解る人やね!」
「別に、普通じゃろ」
初対面のはずなのに、不思議と嫌な気はしなかった。
すると、男は俺にだけ聞こえる小さな声で。
「ようやっと再会できたんやな。おめっとさん。
……ほな、お祭り楽しんで! さいなら」
「…………は?」
その言葉に俺が驚いて固まっている内に、
手を振りながら男は人混みへ消えて行ってしまう。
遠ざかる男の背を見つめていると、何故か前世の妹が脳裏に浮かんだ。
目を細めて笑ったあの男の顔と、
記憶の中で妹が最後に笑った顔が……重なった気がした。
その時、太鼓の音が鳴り響く。
演舞が始まる合図だ。子供たちの声が広場に広がる。
「黑さん、大丈夫? 今の人、知り合いだったの?
なんだか、貴方ととても似てるように見えたけど」
如月の言葉に、俺は何も返す事が出来なかった。
目に焼きついた雪色の髪。
そして、どこか懐かしさすら覚えさせる視線の奥。
何か古い扉が軋む音がした。
その感覚に名はない。……けれど、確かにあの目を知っている気がする。




