↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛縁奇縁 ― 忘却の魂、再び巡る ―  作者: 里 恵


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/31

第四話:淡く確かに寄り添えば


 その日の夕方。


 男たちが逃げ去り、森は静まり返っていた。

「ここは危険だ」と天羅は、如月と俺を自宅へ招いた。


 言われるまま山道を少し下り、

 辿り着いたのは開けた場所にぽつんと建つ平屋の一軒家。

 木造で広さはあるが生活感はなく、どこか無機質な空気が漂っている。

 何とも彼女らしいと思った。


「……お邪魔、します……」


 如月がおずおずと玄関を跨ぎ、俺も後に続いて家へ入る。

 室内はひんやりしていた。


 天羅が湯を沸かしながら座布団を出して、

 最低限のもてなしを準備してくれた。


「すまんの。なんじゃ……色々と、世話んなってばっかで」


 俺がぼそりと呟くと、天羅は何も言わず急須のお茶を差し出してきた。


「別に気にしてないさ。……困った時は、お互い様だろ?」


 そう言われては返す言葉がなく、黙って湯呑を受け取る。

 すると、天羅はふっと視線を窓の外に向けて言う。


「それに、そろそろ出て行くつもりだったからね。丁度、良かったんだよ」

「……ん? どう言う事じゃ?」

「ちょっとした探し物があってね。日本中を回るつもりなんだ。

 だから暫く家を空ける。留守を君に任せたい。


 今回助けたお礼と言う事で、良いだろう?」


 言って、天羅は穏やかに微笑んだ。


「…………は?」

「自由に使ってくれていいよ。家賃もいらない。

 この辺は、人もあまり住んでないから近所付き合いもないしね」

「いやいやいや、待て! ちょっ、急過ぎじゃろ!

 なん、考えとんのじゃ?!」


 何を言われたのか理解できず俺が呆けていると、天羅は勝手に話を進めた。   

 俺は慌てて断ろうとするが、

 天羅は眉一つ動かさず微笑んだまま何も言わない。


「大体にして、俺はな!

 人里で暮らす気なんぞ、これっぽっちもないけん!!


 他、当たってくれ!」


 言い終わると同時に俺は立ち上がって、

 玄関へ向かおうと部屋の戸に手を掛けた。


 すると、如月に袖を掴まれ止められる。


 その指先は、俺の袖を掴んだまま微かに震えていた。

 何か言おうとして唇を開くが、一度俯いてしまう。


「……今、一人で帰るのが……少し、怖くて……」


 俺が戸惑っていると、如月はゆっくりと息を吐き出してから、

 消え入りそうな声で零す。


 そして、如月は意を決したように顔を上げた。


「黑……さんが、その……嫌でなければ、

 私と……一緒に……ここで、暮らしませんか?」

「なっ……! 

 お、お前……嫁入り前の娘っ子が何ば言っちょんのじゃ!? 


 血の繋がらん男と女が、

 一つ屋根の下で暮らすっちゅうんは……何されても文句言われんぞ?


 さっき、怖い目さ会ったばかりじゃろ?

 俺に、……【鬼】の俺に襲われたらどうする気じゃ!」


 如月からの突然の申し出。俺は顔が熱くなるのを感じる。

 だが同時に先ほど森で男たちを殺そうとした自分の狂気を思い出す。

 もし、如月と二人きりの時にまた理性が飛んだら……そう思ったら、

 背筋に冷たい汗が伝う。


 そして、俺は如月を傷付けたくない一心で少しきつめの口調で言い返す。


 だが決意を秘めた翡翠色の瞳が、

 臆することなく真っ直ぐ俺を見つめていた。


「私、っ」


 如月が何か言おうとしたその時。

 天羅が湯呑を口に運びながら、ふぅと短く息を吐いた。


「……黑。君の言い分もわかるけど、心配はいらないよ?


 また、我を忘れてしまわないように家を出る前にきちんと

 力封じをしていってあげるからさ。


 ……何より今回の件で彼女は相当、怖い思いをしたはずだ。

 そんな彼女を一人にしておくのは得策じゃないと、俺は思うけど?」


 その声に、如月は無言で頷いて見せる。


「だけ、そんだば。落ち着くまで、実家さでも一度戻れば良か」

「あ、私。実は、孤児なの。

 母も父も幼い頃に亡くなっていて、頼れる親戚も居ない。

 ……養子縁組もできないまま、成人して施設を出たから。

 帰る実家も、そもそもないんです」


 俺は彼女の言葉を聞いて、失言してしまったと思った。

 思い返してみれば、

 彼女の口から家族の話題を聞いたことはなかったと思い出す。


 そこで、俺は一度深く息を吐いてから、意を決して彼女の手を握る。


「……如月」


 小さく呼ぶと、如月は目を伏せてしまう。

 すると天羅が、一拍置いてから柔らかく言った。


「君が傍にいてあげな。今の彼女には、君の存在が何よりの支えになる。

 家の事も頼んだよ。好きにして良いから」


 俺は押し黙ったまま視線を彷徨わせ、やがてふぅと肩を落とす。


「……ったく、妙な流れになっとる。俺みたいなんが、人里で暮らすなんぞ。

 正直、不安しかないが……わかった。


 如月も、落ち着くまでここさおれ。

 もうあったな目さ遭わんように、護っちゃるけ」


 その言葉に、如月の瞳がふわりと揺れ表情に少しだけ安堵の色が滲む。

 天羅はそれを見届けると、静かに立ち上がる。


「今夜は奥の部屋を使って、布団は敷いておくから。

 ……私は明日の朝、出発する。


 黑、後は任せたよ」




 そう言うと、天羅は振り返らずに部屋を出て行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。