第十三話:繋いだ手の先
ザァーザァーと耳を打つ水音が、世界を呑み込んだ。
ゴォーと空気が裂ける音の直後。
全身を水に叩きつけられる。まるで岩に砕かれるような衝撃だった。
「っぐ……ぅ……」
肺に焼ける痛みが走り、上下も分からぬまま水中で藻掻く。
だがそれより、如月の手を離さないことに必死だった。
白い指が必死に俺の手を掴んでいる。
意識が朦朧としていても、それだけで生きようと思えた。
流れは容赦なく、俺たちを下流へ攫っていく。
水面に顔を出せばまた引きずり込まれ、岸に近づけば岩にぶつかる。
だが不思議と痛みも恐怖も感じなかった。
気づけば右腕の感覚がない。折れているようだった。
(……いや。折れとるどころか、恐らく神経も逝っちょるな。
だども、構わんか。如月を守れたんじゃから)
「……っ、は……! 如月、如月……っ!」
流されるまま、しばらくして水から這い上がると見知らぬ景色だった。
足元に横たわる如月が咳き込む。そしてゆっくりと目を開ける。
「……けほ、っ………私、生きて……?」
その言葉より先に、俺の目は如月の左目に釘付けになった。
血が滲み、視線の焦点が合っていない。……明らかに見えていなかった。
「……ああ。無事じゃ。俺も、お前もな」
嘘だった。俺の右腕はもう、ぶら下がったまま動かない。
如月の目も……――――それでも、お互いの手はまだ繋がっていた。
「……痛いね」
如月がふっと笑って呟いた。
「でも。私、あなたと手を繋いでいられて…………よかった」
「…………」
その聲を聞き、俺は何も言えず。ただ黙って頷いた。
それから、俺たちは川沿いを歩く老人に出会い、村へ招かれた。
俺たちが何者か、どうしてこんな姿なのかを尋ねることなく。
村の人々は衣を貸し、傷の手当てもしてくれた。
深い森に囲まれた、小さな村だ。知らぬ土地、知らぬ人々。
それでも確かな温もりの中で俺と如月は安息を得た。
あの夜、如月が俺の裾を掴んでくれた。
……――――だから今、俺は如月と共に生きている。




