第十一話:単純で複雑な心
それから半年が過ぎた。如月とは今も密かに会い続けている。
……鈴の話と、たまの雑談、短い言葉のやり取りだ。
俺はそれを聞き、時折質問を返す。
必要な言葉だけを交わす時間。
だが不思議と嫌ではなく。幾度目かの満月を迎えた晩。
山の中腹で揺れる松明を見上げ、ふとあることを思い出した。
(……そうじゃ、あれが近い)
くノ一が大人になる通過儀礼だ。
【成人の儀】――己の身で夜伽を学ぶ、非情な習わし。
それを思い出した瞬間、胸の奥が冷たくざわめいた。
(……如月も、か?)
考えたくはなかったが。
現実は容赦なく目前に迫っている。如月は俺と同じ十八歳だ。
忍びの里では昔から十八歳で成人とみなされる。
避けられぬ宿命だ。以前からわかっていたことだった。
それなのに、俺は――。
「……何を焦っとんのじゃ、俺は」
その呟きに答える者はいない。彼女にとっても、それは当たり前のことだ。
選ぶ自由も、疑問を抱くことも許されぬ世界で俺も彼女も生きている。
それでも。
(会う度に、心が震えよる……聲を聞けば、ほっとしよる……)
気付けば彼女を目で追っている。
だが言葉にすれば壊れてしまう気がして。何も言えないままだ。
けれど、もし――。
(俺の知らん誰かが、如月の初めてを奪うんじゃとしたら……)
その想像に、たまらなく胸が痛んだ。
明かりに照らされた竹林で、俺は座禅を組み目を閉じた。
今頃、如月は眠っているのだろうか。
それともあの儀を前にして、何かを思っているのだろうか。
遠くで風が笹を揺らす音がした。その音が、どこか胸の奥をざわつかせる。
心を落ち着けたいのに集中ができない。
俺はまだ、何も知らぬままで良いのだろうか。
鈴の話を聞くだけの関係で、本当にいいのだろうか。
(……如月)
名を口にしかけた唇を、夜風がそっと攫っていく。
この想いの名を、俺は知らない。
……けれど、それは確かに俺の心を締めつける。




