○地獄八景亡者戯◉ラウンド1
「坊っちゃん、何だすかそんなに慌てて」厨房ではタウロが一人で仕込みの真っ最中であった。
「てっちり作るんだって!ほんと、いつ、いつ」板前白衣の裾を引っ張りながら聞いた。
「あれまぁ耳が早いだすな。喜八と清六が喰ってみたいとせがんでくるんで康成殿が福原からお戻りになられる途中に大輪田泊の魚河岸で買って来てもらおうと思っていたところダスよ」
実は毒性の強い魚ではあったがこの当時もかなり注意をしながら食されていて一部では流通もしていたのだ。
「僕が買ってくるよ。すぐ行ってくるから待ってて」と言うと勝手口から飛び出すとピコーナを呼んで飛び出していった。美味しいものを食べるのに糸目をつけず苦労も惜しまないと言ったところである。
そして仕入れから戻って来た喜八と清六にタウロは
「坊っちゃんに喋ったんだすか、まったく困ったもんだす」
「えっめっそうもない。坊っちゃんまで巻き込むつもりはねえでガス」
そこへタマモが水を飲みに厨房にやってくると話を聞いていたようで
「あら、ホヘトの女将ちゃんにさっき聞いたのよハルちゃんと一緒に、タウちゃん楽しみしてるよ今夜の鍋」
「今夜だすか・・・」
「どうしたのタウちゃん?何かあるの」
「いや旦那様とオオガミが山崎のビール工場へ打ち合わせに行くのをお送りしないとダメなんだすよ」
「鍋なんだから下準備だけやっておいてもらえれば、清やんと喜ぃちゃんでなんとかならないの」
「そうだすなぁ。坊っちゃん次第だすな。申の時までにお戻りならなんとかなるだすけど」
「清やん、今何の刻なの」
「えー未の時なんであと一刻ですね」
今の時間で言う二時間前であった。
「それなら大丈夫そうじゃないの、ピコーナなら楽勝じゃない。じゃあイロハに連絡してくるからお願いね」
というとイロハに戻っていった。




