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太陽の光が真上から落ちる正午。
私はまた、藤村とランチをしていた。
「みっくん、この前ありがとうね。初めて飲むシャンパン美味しかったし、何より楽しかった!」
飽きるほど飲んでいる癖によく言えたものだ。
「お、俺も楽しかったよ。喜んでもらえて、よかった。」
藤村は少しずつ私に慣れてきたのか、最初よりはコミュニケーションが取れるようになってきた。
まあ、酔った時は饒舌なんだけど。
「それに、あんまりこんなこと言いたくないけど、売上も助かった。」
「うん。わかってるよ。」
藤村は、物分かりがいい。
今月は倍以上使って欲しいところだ。
でも体を差し出すには、まだ早い。
「ランチも、遠慮せず言ってね。奢るから。」
一日一食生活に慣れている私には、ランチは必要ないんだけど。
まあ、仕方ない。
時間なら、差し出そう。
「引退したら何しようかな〜。」
「焦らなくても大丈夫だよ。俺,力になるから。」
うんうん。
その力は引退前に最大限に使ってよ?
「ありがとう!」
貼り付けた笑顔で、顔が痛くなってきた。
私は“引退”というフレーズを、藤村に対して意図的に発している。
キャバ嬢じゃない私を、より近い存在の私を、想像させたかったからだ。
嘘をつくこと、人を利用すること。
嫌な女だとは思うけど、今更綺麗になんて生きれない。
もう一つや二つ重ねたところで、凛という人間は変わらない。
「本当に困ってるようだったら、お金、貸そうか?」
いや、貸すとかいらねえ。
裏引きなら考えるけど。
「ううん、大丈夫!頑張って稼ぐよ!」
理解しているようで、欲しい答えとは少しだけズレている。
そこまで都合の良くない藤村を、それでも私は利用したい。
だって、もう時間もアテも限られてるから。
解散後、近くの喫煙所でタバコに火をつけた。
藤村とランチのあとのタバコは格別に美味しい。
けれど吸い終わったあとの足の重さは、尋常じゃない。
太陽の光に反応して、欠伸が出る。
私はもう、完全なる夜型人間のようだ。
光を避けるように下を向いて歩いていたら、ふと四葉のクローバーを見つけてしまった。
通り過ぎたあと、やっぱり引き返してそれを摘んだ。
20代後半にもなって、柄にもなく願掛けをする。
というか、四葉のクローバーを探すような年頃の時は、私はピアノしか弾いてなかった。
今、人生で初めて四葉のクローバーを持っているかもしれない。
なんだか童心に帰ったようで、その日の帰り道は少しだけ足元がフワフワした。
そしてその後も地道に続けたランチ作戦は功を成し、藤村は私の太客に成長した。
もちろん、同伴オーラス。
ボトルも数段階いいものを入れるようになり、シャンパンも必ず開けて帰る。
少しだけ増えたお触りがたまに私の口角をピク付かせるが、大したものだ。
そしてもう1人の希望の星。
芝さんはというと、なんとまた店に来た。
例の、凪沙指名のスグルを連れて。
逸る気持ちを抑えて、間違えないように慎重に接客をした。
けれど芝さんは“愛がない”こそ口に出さなかったが、楽しくもなさそうだった。
私は頭を捻った。
なんとしても、何かアクションを起こしたい。
また来てくれるような…
プレゼント?そんなもの用意してない。
考えて考えて考えた末に、私は一枚のハンカチを退店しかけの芝さんに手渡した。
「これ、あげる!そーっと開けてね!」
エレベーターが閉まる時、芝さんはキョトンとした顔でハンカチを持っていた。
それもそうだろう。
新品でもないハンカチ。
でも、ただのハンカチじゃない。
四葉のクローバーを入れて、折り畳んだハンカチだ。
少し時間が経ってしまったから、萎れてはいるけれど。
まあ、子供騙しもいいとこだろう。
呆れられてもいい。引いてもいい。
ただ、芝さんが少しでも笑ってくれたらいいなと思った。
…頼むよ。
四葉に願った幸運が、芝さんを介して私に戻ってきますように。




