↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/47

40

次の日の昼、私は予定通り藤村とランチを取った。

ぎこちなく何度もドリンクを飲む姿に、嫌悪感を感じてしまう。

つくづく、私は嫌な女だ。


「昨日は電話した時なにしてたの?」


張りつけた笑顔に、頬が攣りそう。


「あ、昨日はし、仕事から帰って、い、家でゆっくりし、してたかな。」


「そっか。リラックスしてる時に電話しちゃったね。ごめ〜ん。」


藤村が飲み物に少しむせながら、首を横に振った。


「い、いやいや!り、凛ちゃんからの電話なら、大歓迎!」


「そう?よかった!」


安心したように背もたれに寄りかかって、小さく息を吐いた。

これからこの男をどう転がそうか。

そう考える私の耳に、喫茶店のテレビの音が入り込む。


『LUMATOMが、9月から活動再開を表明〜〜〜』


聞き慣れた楽曲をBGMに、表明文が読み上げられる。

彼の言った通り。

LUMATOMは近々また動き始める。

私をここに、置き去りにして。

彼がなにも悪くないことは分かっている。

けれど、自分との対比に感情的になる心にうんざりした。

もういっそのこと、和泉花音だと言ってしまおうか?

そしたら彼は、私を今までよく頑張ったと褒めて、寄り添って、助けてくれる?

いや、そんな未来はないだろう。

がっかりする?

本当のことを言わなかったことに、失望する?

馬鹿馬鹿しい。

そんなことを考えたって、私が言えるはずもないのに。


「藤村さんって、優しいよね。」


触れたコップの結露が指先を湿らせ、私の脳を冷やしていく。

今向かい合わなければいけないのは、この男。


「え?えっと、優しい…かな?」


「うん。なんか、一緒にいて落ち着くの。」


分かりやすく赤面する姿に、安堵する。


「私ね、実は借金があるの。だから、キャバクラで働いてるんだ。」


少しだけ重さを纏った空気と沈黙の時間が流れた。

さあ、どう転ぶ?

あなたはのめり込める?この私に。


「父親が遺したものでね。でも、もう少しだから頑張って働いて早く引退するんだ。藤村さんは、引退しても会ってくれるよね?」


「も、もちろんだよ!そ、そっか。借金…」


「あ、ごめん!つい、本当のこと話しちゃった。忘れてね?」


重要なのは、困っていることを知ってもらうこと。

ここからどうするかは藤村次第だ。

とりあえず、今日の任務は遂行できた。

本当は同情を誘うような手法は好みじゃない。

見返りを求められるから。

そんなことをしなくても今までうまくやってこれたはずなのに、今回だけはどうにも回らない。

頼む、藤村。急足だが育ってくれ。

最大限の笑顔を作って、私は藤村に恋している。と、何度も自分の脳を錯覚させた。

終盤には“みっくん”と呼ぶようになった。

み、ミツオだったかミツナリだったか…

まあ、みっくんを定着させれば大丈夫だろう。



そしてこの半分狂ったような賭けは、見事に成功した。


その日の夜。

早速店に来た藤村は、初めてシャンパンを卸した。

1番安いシャンパンから、少し値の張るものまで全部で4本。

私が指差したものを次々に注文した。

たまに金額を見て少しだけ目を泳がせていたが、そんな時は、


「これ美味しいって聞くけど、飲んだことない!」


そう言って腕を絡ませた。

まだ返済額には足りなかったが、希望が見える数字に到達した。

少しだけ解放された頭痛に、藤村の手を握って感謝を伝えた。


「嬉しい!こんなにシャンパン飲ませてもらえるなんて!」


少し目が潤んでいたかもしれない。

張り詰めていた気が、緩み始めていたからだ。


「喜んでもらえてよかったよ。シャンパンなんて初めて入れた。」


「みっくんの初めてもらっちゃった〜!ありがとう!」


飲みすぎただろうか。

いつもより藤村がいい男に見える。


「早く、引退しなね。」


藤村の真っ直ぐな目が、私の心臓を突き刺した。

引退…したいけれど、その時はあんたともお別れ。

口が裂けても言えない言葉を飲み込む。

微笑んでコクコクと頷いて見せた私の顔に、藤村は満足そうにボトルを追加した。

私の頭の電卓がすぐさま計算を始める。

相変わらず閉店時間を過ぎても立ち上がらないが、先手を打っていたのですぐに黒服がアップをかけにきた。


「こんなに入れたんだから少しゆっくりさせてくれよ。」


そう小言を呟く藤村に、


「ごめんね。もう閉店時間来ちゃった…。また会おうね!」


そう言って、腕を引いて立ち上がらせた。

なんとも、この男は後味が悪い奴。

それでも助かったことには変わりない。

この勢いで今月を乗り切ってみせる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。