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次の日の昼、私は予定通り藤村とランチを取った。
ぎこちなく何度もドリンクを飲む姿に、嫌悪感を感じてしまう。
つくづく、私は嫌な女だ。
「昨日は電話した時なにしてたの?」
張りつけた笑顔に、頬が攣りそう。
「あ、昨日はし、仕事から帰って、い、家でゆっくりし、してたかな。」
「そっか。リラックスしてる時に電話しちゃったね。ごめ〜ん。」
藤村が飲み物に少しむせながら、首を横に振った。
「い、いやいや!り、凛ちゃんからの電話なら、大歓迎!」
「そう?よかった!」
安心したように背もたれに寄りかかって、小さく息を吐いた。
これからこの男をどう転がそうか。
そう考える私の耳に、喫茶店のテレビの音が入り込む。
『LUMATOMが、9月から活動再開を表明〜〜〜』
聞き慣れた楽曲をBGMに、表明文が読み上げられる。
彼の言った通り。
LUMATOMは近々また動き始める。
私をここに、置き去りにして。
彼がなにも悪くないことは分かっている。
けれど、自分との対比に感情的になる心にうんざりした。
もういっそのこと、和泉花音だと言ってしまおうか?
そしたら彼は、私を今までよく頑張ったと褒めて、寄り添って、助けてくれる?
いや、そんな未来はないだろう。
がっかりする?
本当のことを言わなかったことに、失望する?
馬鹿馬鹿しい。
そんなことを考えたって、私が言えるはずもないのに。
「藤村さんって、優しいよね。」
触れたコップの結露が指先を湿らせ、私の脳を冷やしていく。
今向かい合わなければいけないのは、この男。
「え?えっと、優しい…かな?」
「うん。なんか、一緒にいて落ち着くの。」
分かりやすく赤面する姿に、安堵する。
「私ね、実は借金があるの。だから、キャバクラで働いてるんだ。」
少しだけ重さを纏った空気と沈黙の時間が流れた。
さあ、どう転ぶ?
あなたはのめり込める?この私に。
「父親が遺したものでね。でも、もう少しだから頑張って働いて早く引退するんだ。藤村さんは、引退しても会ってくれるよね?」
「も、もちろんだよ!そ、そっか。借金…」
「あ、ごめん!つい、本当のこと話しちゃった。忘れてね?」
重要なのは、困っていることを知ってもらうこと。
ここからどうするかは藤村次第だ。
とりあえず、今日の任務は遂行できた。
本当は同情を誘うような手法は好みじゃない。
見返りを求められるから。
そんなことをしなくても今までうまくやってこれたはずなのに、今回だけはどうにも回らない。
頼む、藤村。急足だが育ってくれ。
最大限の笑顔を作って、私は藤村に恋している。と、何度も自分の脳を錯覚させた。
終盤には“みっくん”と呼ぶようになった。
み、ミツオだったかミツナリだったか…
まあ、みっくんを定着させれば大丈夫だろう。
そしてこの半分狂ったような賭けは、見事に成功した。
その日の夜。
早速店に来た藤村は、初めてシャンパンを卸した。
1番安いシャンパンから、少し値の張るものまで全部で4本。
私が指差したものを次々に注文した。
たまに金額を見て少しだけ目を泳がせていたが、そんな時は、
「これ美味しいって聞くけど、飲んだことない!」
そう言って腕を絡ませた。
まだ返済額には足りなかったが、希望が見える数字に到達した。
少しだけ解放された頭痛に、藤村の手を握って感謝を伝えた。
「嬉しい!こんなにシャンパン飲ませてもらえるなんて!」
少し目が潤んでいたかもしれない。
張り詰めていた気が、緩み始めていたからだ。
「喜んでもらえてよかったよ。シャンパンなんて初めて入れた。」
「みっくんの初めてもらっちゃった〜!ありがとう!」
飲みすぎただろうか。
いつもより藤村がいい男に見える。
「早く、引退しなね。」
藤村の真っ直ぐな目が、私の心臓を突き刺した。
引退…したいけれど、その時はあんたともお別れ。
口が裂けても言えない言葉を飲み込む。
微笑んでコクコクと頷いて見せた私の顔に、藤村は満足そうにボトルを追加した。
私の頭の電卓がすぐさま計算を始める。
相変わらず閉店時間を過ぎても立ち上がらないが、先手を打っていたのですぐに黒服がアップをかけにきた。
「こんなに入れたんだから少しゆっくりさせてくれよ。」
そう小言を呟く藤村に、
「ごめんね。もう閉店時間来ちゃった…。また会おうね!」
そう言って、腕を引いて立ち上がらせた。
なんとも、この男は後味が悪い奴。
それでも助かったことには変わりない。
この勢いで今月を乗り切ってみせる。




