表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/31

29

「ねえ、運命ってあると思う?」


瞳さんがLacisを去って1ヶ月。

この日常にも、もう慣れた。

寂しさは消えない。

けれど、それを感じない夜を私に与えたのはクニさんだった。


「くだらねえ。」


そう気だるそうに言うクニさんを見て、私は笑った。

クニさんはいい。

何も隠さなくていいから。

何も話さなくてもいいから。

わざとらしい甘える仕草も、いつからか癖になった。

クニさんは避けるわけでもなく、答えるわけでもない。


「私とクニさんが出会ったのも、運命かもよ?」


「とんだ悲運だな。」


そう左頬だけを上げて笑う顔も、もう見慣れた。

借金を完済するまで、私たちの関係は終わらない。

クニさんが私を逃すこともなければ、私が逃げることもないからだ。

けれどこの歪な関わりが、奇しくも私の心を安定させている。


「もしさ、やり直せるなら何歳に戻る?」


クニさんにふと、問いかけた。

現実ではあり得ない、馬鹿げた話。


「戻ったところで、変わんねえよ。どうせ俺はこうなる。」


予想に反した答えだった。

また“ありえねえ”や“くだらねえ”と流されると思っていたのに、クニさんは全てを諦めたような顔でそう放った。


「幼少期に戻ったとしても?」


「…そうだな。結局、同じだろうな。それか…」


クニさんは言葉の途中で口を閉じた。


「…それか?」


しばらく待っても続かない言葉に、痺れを切らした。

クニさんは鼻で笑っただけで、そのあとも何も答えなかった。


「でも、いいじゃん。クニさんはさ、なんかかっこいいよ。堂々と生きてて。」


1人でどこでも生きていけそうなクニさんは、私から見ればなんだか羨ましかった。

自立していて、強くて、怯えることもない。

クニさんは私の言葉が聞こえていなかったかのように、またタバコを吸った。


「お前は、この街に来る前に戻りたいのか?」


「うーん。でも、この街に来なければ出会えなかった人も多いからなあ…」


馬鹿げた話だと切り捨てずに、少しだけ真面目に考えてみた。

できることならば、もちろん借金がなかった綺麗な私に戻りたい。

けれど、そうすると瞳さんやアイちゃんと出会うこともなかった。

ここに来なければ、私はピアニストになっていた?

まあ、なっていただろう。

それは、果たして幸せなことだろうか。

その別世界の私は、愛を知ることができた?

偏見にまみれた価値観を持って、当たり前のように綺麗なことだけ好んで、それはそれは狭い世界だったのではないだろうか。


「俺と関わることはなかっただろうな。」


左頬だけを上げていたずらに笑うクニさんを見た。


「ねえ、クニさんって私のことどう思ってる?」


「あ?金だよ。」


迷うことなくそう応えたクニさんに、笑いが溢れた。

そりゃそうだろう。

私はなぜそんな質問をしたのだろうか。

でも、なんだかこの距離感がやはり心地いい。


「俺には守るもんも捨てるもんもねえ。だから、お前の目には強く映るのかもな。」


先ほどの言葉は、やはりクニさんの耳に届いていたようだった。

人は、守るものがあるから強いのだろう。

そう思っていた私は、クニさんの言葉が理解できなかった。


「ふ〜ん。」


そう曖昧に相槌を打った私の目を、クニさんの鋭い瞳が捉えた。

見透かされているような、そんな気分。

いつからか私は、このクニさんの瞳が怖くなくなった。


そう。私は今のあなたの言葉を理解していない。でも、流れを崩さないように相槌を打っているの。


そう、心でつぶやきながら微笑んだ。

しばらく私の目を見ていたクニさんは、呆れたように笑ってまた目を逸らした。

そんなクニさんを見て、私はまた笑いが溢れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ