表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/30

30

彼が私の家の前に立っていたのは、それからさらに2ヶ月経った日のことだった。

一度、目を背けそうになった。

そんな弱い私を息を吐いて追い出して、彼を見つめ直す。

彼は私に気づいて、小さく「あっ」と声を出した。

そして、一度地面を見たあとニコリと笑って迎え入れる。


「あのさ、今日は報告に来た!…これ、凛ちゃんに最初に渡したくて。」


渡されたのは、1枚のCD。

手にとるとき、触れた指先が少しずつ熱を持つ。

CDに映された青空の下の5人の姿を見て、また目の前の彼を見た。

やはり、どうしたって綺麗なんだ。

私の目には、彼だけが特別に綺麗に映る。


「俺、復帰するよ。実は前来た時にその報告するつもりだったんだけど…今は裏の仕事から始めてて、やっとCDが形になったから、もう少ししたらまた表に出る。」


彼は早口で私にそう告げた。

少しだけ気まずそうに頭をかいて、言い終わった後にチラリと私の顔を確認した。

また話出しそうに口元が動いたが、彼は口をつぐんで飲み込み、俯いた。

彼の瞳は、なかなか私を捉えない。


逃げることをやめた私の目は、彼の一挙一動を逃さぬように見つめていた。

私の中にある、彼の幸せを願う気持ち、心の傷を心配する気持ち、嘘をついた罪悪感、知られたくない恐怖。

これらは全て紛れもない本物だろう。

けれど、1枚1枚めくっていくと最後に現れる私の本音は、もしかしたら“独占欲”かもしれない。

今どうしようもなく、彼の瞳の中に入り込みたい。

綺麗な建前を剥ぎ取った私の心は、純粋で、どうしようもなく幼い。

こんなもの、愛と呼べないのではないだろうか。

醜いこんな心とは、向き合いたくない。

でも、手放せない。


ジリッと彼の靴が落ちている砂を擦る音が聞こえた。


「…うん。それ、だけ。じゃ。」


そう言って、私の横を過ぎようとした彼を呼び止めた。

このまま行かせたら、もう2度と触れられない気がしたからだ。


「うち、入っていってよ」


彼は立ち止まって、拍子抜けしたような顔を見せた。


「え、いいの?」


自然と上がった口角のまま、私は頷いて見せた。

もう、正しさとかわかんない。

仕方ないじゃん。

だって今、すごく嬉しいから。

また会いに来てくれたこと。

そして今、彼の瞳の中にいるのが私だということ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ