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彼が私の家の前に立っていたのは、それからさらに2ヶ月経った日のことだった。
一度、目を背けそうになった。
そんな弱い私を息を吐いて追い出して、彼を見つめ直す。
彼は私に気づいて、小さく「あっ」と声を出した。
そして、一度地面を見たあとニコリと笑って迎え入れる。
「あのさ、今日は報告に来た!…これ、凛ちゃんに最初に渡したくて。」
渡されたのは、1枚のCD。
手にとるとき、触れた指先が少しずつ熱を持つ。
CDに映された青空の下の5人の姿を見て、また目の前の彼を見た。
やはり、どうしたって綺麗なんだ。
私の目には、彼だけが特別に綺麗に映る。
「俺、復帰するよ。実は前来た時にその報告するつもりだったんだけど…今は裏の仕事から始めてて、やっとCDが形になったから、もう少ししたらまた表に出る。」
彼は早口で私にそう告げた。
少しだけ気まずそうに頭をかいて、言い終わった後にチラリと私の顔を確認した。
また話出しそうに口元が動いたが、彼は口をつぐんで飲み込み、俯いた。
彼の瞳は、なかなか私を捉えない。
逃げることをやめた私の目は、彼の一挙一動を逃さぬように見つめていた。
私の中にある、彼の幸せを願う気持ち、心の傷を心配する気持ち、嘘をついた罪悪感、知られたくない恐怖。
これらは全て紛れもない本物だろう。
けれど、1枚1枚めくっていくと最後に現れる私の本音は、もしかしたら“独占欲”かもしれない。
今どうしようもなく、彼の瞳の中に入り込みたい。
綺麗な建前を剥ぎ取った私の心は、純粋で、どうしようもなく幼い。
こんなもの、愛と呼べないのではないだろうか。
醜いこんな心とは、向き合いたくない。
でも、手放せない。
ジリッと彼の靴が落ちている砂を擦る音が聞こえた。
「…うん。それ、だけ。じゃ。」
そう言って、私の横を過ぎようとした彼を呼び止めた。
このまま行かせたら、もう2度と触れられない気がしたからだ。
「うち、入っていってよ」
彼は立ち止まって、拍子抜けしたような顔を見せた。
「え、いいの?」
自然と上がった口角のまま、私は頷いて見せた。
もう、正しさとかわかんない。
仕方ないじゃん。
だって今、すごく嬉しいから。
また会いに来てくれたこと。
そして今、彼の瞳の中にいるのが私だということ。




