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カランコロンーーー
「おっはよー!凛ちゃん!」
元気な声と共に、アイちゃんが勢いよく裏のカーテンから飛び出してきた。
いつも通りの、いやいつも以上に明るい笑顔につられて無意識に口角が上がった。
「おはよう〜!」
「いやー昨日は本当にありがとう!まーじで助かった。」
アイちゃんはもう、私とは素で話すらしい。
なんだかこの場で低い声を出されると、わかってはいるが別人な気がしてしまう。
「いや、私はなんもしてないし…。」
「いやいや!実はひいと凛ちゃんが仲良いの知ってたんだよね。ほら、この街なんだかんだで狭いじゃん?毎日いれば嫌でも目に入るっていうか。たまに2人で歩いてるの見かけてたからさ。」
「あー、まあそうだよね。瞳さんには本当にお世話になったの。」
その言葉に、アイちゃんは微笑んだ。
「本当に?あいつに人の世話ができるとは思えないけど。」
そう言って、いたずらに笑う。
話をしながらも、テキパキと無駄のない手捌きはさすがだった。
私の知らない瞳さんは、とんだおてんばだったのだろうか。
会ってみたいような気もするが、その頃では仲良くなっていないのかもしれないと思った。
あの時だったからこそ、今だったからこそ、私と瞳さんはこの関係になれたのかもしれない。
「凛ちゃんにだけ教えようか。俺だけ知ってるのはフェアじゃないからね。」
お会計をしながら、アイちゃんは私にそっと耳打ちをした。
なんのことかわからなかった私は、招かれるままに耳を寄せた。
「俺の“愛”はね、ひいだよ。」
そう囁いて、笑って見せる。
「えっ…」
と、戸惑うわたしをよそに、
「ひいには内緒ね。俺、死ぬまで言うつもりないから。じゃ、今日も元気に行ってらっしゃーい!」
そう言って、流れるようにわたしを店から追い出した。
ヒラヒラと手を振るアイちゃんを呆然と見ていたら、ガチャリとドアが閉まって1人取り残された。
私の中で、点と点が線になる。
切なくも尊い三角関係が、彼らの中に存在するのだ。
お互いがお互いを想って、言葉にしない。
通じ合うことはないであろう気持ちが、関係のない私の胸を締め付けた。
この苦しさを、どうやって処理したらいいのかわからない。
それなのに、笑顔を見せたアイちゃんはとても強い。
これが、“愛”なのか。
自然と彼のことが頭に浮かんだ。
次、彼に会った時、私はどんな言葉かける?
花音として向き合うことは叶わなくても、凛として、彼の求める言葉をあげたい。
そう、思ってしまった。
あの時、私は逃げたんだ。
自分で関わりを作っておいて、逃げた。
嘘をつきながら、彼と関わるのが怖かった。
彼のため。と言いながら、私はやはり独りよがりだ。
でもそんなものは、逃げていい理由にはならない。
清算しなければ…そう思った。
ちゃんと、凛として向き合って、それできっと何かが終わることになる。
それが1番、彼を楽にする方法なのだろう。
“再会したことにも意味があると、俺は思う。”
ふと、あの日のアイちゃんの言葉が頭を過った。
意味なんて、あるのだろうか。
私でなくてもよかったはずだ。
でも、逃げたままで終わりにするのは間違っているかもしれない。
ちゃんと向き合う。
それしか、もうできない。
アイちゃん。これでいいのかな?
でもね、これが、私の“愛”なんだよ。




