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92.毒杯と7つのコップ

 試練の部屋で怪我の治癒と小休止をした後、先に進むことにした。


「またこの通路か…」


 認識阻害されている罠の多さにカイトが辟易している。きっと戦闘と同じくらい気を張りつめているのだろう。

 私たちは先ほどと同じように通路を進み、第2の試練の部屋に辿り着いた。


「今度は何だろう?」


 今まで入った中で一番小さく簡素な部屋だ。部屋の真ん中には机があり、コップと秤が置いてあった。コップは全部で8個あって、同じコップだが中身は全て違う色の液体が入っている。黒い液体の入ったコップは机の奥側に1つ置いてあり、後の7つのコップは手前に一直線に並んでいた。左から順に赤、水色、茶色、黄緑、黄色、白、透明だ。手前の7つの液体は同量だが、黒い液体はそれらの半分くらいしか入っていない。


「また指示の紙が置いてあるよ」

「なんて書いてある?」


 それにはこう書いてあった。


『誰かが黒い毒杯を 仰げば道が開かれる。

けれどもそれだと可哀想。

だから毒を中和する 薬を1つ置いておく。

同量混ぜれば怖くはない。


救いの薬は7つのうちから選んでね。

それだけ飲んでも 何にもないから

きちんと混ぜて使うこと。

後の2つは惚れっぽく、

2つは身体が痺れちゃう。

残りは同じ毒薬が 入っているから気を付けて。


薬はそれぞれ重さが違う。

毒薬1番重たくて、目当ての薬が最も軽い。

秤があるから使って良いが、

1回使うと壊れちゃう。


白と茶色は同じもの。

毒薬仲良く並んでる。

透明なのは痺れちゃう。


さぁ、探してごらんなさい。

犠牲を出したくないならね』


「論理パズルだ」

「要はこの7つの液体の中から毒を中和する液体を見つければ良いんだな?」

「そうなるね」


 秤は1回しか使えないので一旦置いておくとして、まずは液体を消去法でどんどん省いていくことにしよう。


「白と茶色が同じ薬なら、中和薬は1つしかないんだからこれは絶対中和薬じゃない」


 私は白と茶色の液体の入ったコップを少し奥にずらした。

 カイトも同じように透明のコップをずらす。


「透明なのは痺れ薬だ」

「これが痺れ薬なら白と茶色は媚薬ってことになるね」

「確かにそうだな」

「残っているのは赤、水色、黄緑、黄色だけど…」


 毒薬は隣同士並んでいるので、赤と水色のペアか黄緑と黄色のペアのどちらかということになる。片方が毒薬のペアならもう一方のペアは中和薬と痺れ薬だが、ここで手がかりが止まってしまった。


「…これ絞り切れなくない?」

「秤が使える」

「いや、それでも絞り切れないんじゃないかな」


 秤を使えるのは1回だけだ。仮に赤と水色のペアを天秤にかけた際、どちらかに傾けば軽い方が中和薬だと断定できるが、吊り合った場合は毒薬のペアということだけが分かり、黄緑か黄色のうちどちらが中和薬でどちらが痺れ薬なのか判断がつかない。これは黄緑と黄色のペアを天秤にかけた場合も同じことが言える。

 ちなみにペアに拘らずに天秤にかけることも検討したがそれだと余計絞れなくなってしまうし、コップを2、2で天秤にかけるのも得策ではなかった。


「やっぱり赤と水色を秤にかけるか、黄緑と黄色を秤にかけるしかない。それがどちらかに傾けば軽い方が中和薬ってことになるけど、吊り合ってしまったら絞り切れないわ」

「絞り切れなかったら少し飲めば良い。そのためにこっち側のコップの液体は多めに入っているんじゃないか?」

「そんな」


 飲むなんて発想はなかったが、7つの液体が多めに入っていることを考えると、はじめから飲むことを想定されている可能性はゼロではないのかもしれない。しかし飲まないと絞り切れないなんて、論理パズルとしては破綻しているではないか。


「大丈夫、仮に飲むことになっても半分の確率で何にも起きない」

「でももう半分の確率で痺れるわ」

「毒杯を仰がないだけマシだろう?それに俺が飲んで痺れてもアリサの魔法で治せる」

「治せるのはそうだけど、痺れ薬を飲むのは問題よ」

「それしかないと思うけどなぁ」

「もうちょっと時間を頂戴」


 そうは言ったものの、どれほど紙を読み込んでも見落としはなさそうだ。


(炙り出しとか?)


 私は思い切って紙を炙ってみたが何も出てこなかった。


「もう良い?」

「駄目、もう少し待って」

「実際痺れ薬を飲むのは4分の1なんだし、飲んだって治るんだからそれほどリスクのあることじゃないよ」

「じゃあ私が飲むわ」


 私がそう言うとカイトが急に狼狽し始めた。


「ちょっと待て、それは話が全然違う」

「違くない、私は自分が痺れていても治癒魔法くらい使えるし」


 実際アギオスさんにそういう訓練を受けているのだ。


「駄目だ。俺が君にそんなことさせると思うか?」

「思っていない。だからこんなに必死に考えているの。それに何か見落としている気がするからもう少し待って」


 さっきから何か引っ掛かっていることがあるので待って欲しいと言っていた。


(私は何か忘れている…)


 その時、黒いフェアリーが黒い液体の入ったコップの端に止まっているのが目に留まった。

 私はパズルのピースが嵌まったのを感じた。


「分かった!」


 私はカイトの手を取って部屋の隅まで下がる。


「何が分かったんだ?」

「あのね、フェアリーって魔法を使わない限りばらけているから、普通の空間内なら色とりどりのフェアリーがフワフワ漂っている感じなの。でも水場なら水色のフェアリーが多かったり火の近くなら赤いフェアリーが多かったり、多少自分たちの属性のものに引っ張られる傾向にあるわ。あとは人が動いていると避ける」


 逆に魔法を使うときは寄って来る。


「なるほど、それで?」

「今、私たちから少し遠くにあった黒い液体のコップには黒いフェアリーが止まっている」


 カイトが納得したように頷いた。


「闇属性のフェアリーは毒薬に集まるのか。それでここで待っていれば7つのうちのどれが毒薬かも分かるはずだと」

「そういうこと」


 これは私たちのために作られた試練なのだ。だから無いと思っていた手がかりはきちんとあって、それを見つけられるかどうかは私次第だったというわけである。


「じゃあ盃の儀の時もアリサが広場に残っていれば防げたのか?」


 収穫祭の時のシルヴァさんの毒杯について言っているようだった。


「私が毒杯だと気付いたらね」

「失敗したな、誘いに乗らなければ良かった」


 カイトが臍を嚙んでいた。確かに止められた可能性は十分にあった。そう考えるとあの偽物の騎士兵が言った「あんたにはどんなことができるか分からない」というのは良い勘だったと言える。

 ほどなくして赤と水色のコップに黒いフェアリーが止まったので、私は黄緑と黄色を秤にかけた。天秤は黄緑の方が軽いことを示していた。


「黄緑の方が中和薬だわ」

「よし、後は混ぜて飲むだけだ」


 カイトは黄緑と黒い液体の入ったコップを取ると全て混ぜ合わせて一気に呷った。


「ちょっと!」


 何の声かけもなかったので私は吃驚してしまった。


「何?」

「同量って書いているのに全部混ぜるし、もしかしたら間違っている可能性だってあるのに何の躊躇もなくそんないきなり飲むなんて!」

「中和薬自体は無毒なんだから全部混ぜても大丈夫だろう。それにどう考えても推論としてはこれが正しかったから。…万一のために別れの挨拶でもすれば良かったか?」


 私は頬を膨らませた。


「別れの挨拶が欲しかったわけじゃないけど、私だってカイトのこと心配しているの!だから、何というかこう、いきなりだったから……」


 段々言っていて恥ずかしくなってしまい、尻すぼみになっていく。


「アリサ、ごめん、俺が悪かった。機嫌を直して」

「別に機嫌は悪くないわ」

「じゃあ顔を背けてないで、こっちを見て」

「……」


 ちらりとカイトを盗み見る。目が合うと彼はふっと優しく笑った。


「心配してくれてありがとう」

「…うん」


(その笑顔でそれを言うのは卑怯だわ!)


 私は小さく頷くことしかできなかった。

論理パズルは自作しました。反証があればすみません。

評価、ブクマ登録、いいねありがとうございます!

とても嬉しいです(*´ω`*)

少しでも気になった方は諸々ポチッとぜひよろしくお願いします(*^^*)

感想やレビューも頂けると幸いです!

次回は明日の12時台に投稿予定です。

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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。

※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。


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