90.秘密の入口
最後の部屋は広いだけの何もない空間だったが、唯一奥の方には石造りの壇があった。
「あの壇は何だろう?」
「攻略されていなかったらあそこに石盤が置かれていたんだと思う。前来た時も部屋は全然違ったけど、あんな感じの壇があった」
「なるほど」
試練内容と部屋の構造は神殿の不思議な力によって変わっている。既に秘宝の石盤は回収された後なのでクリア報酬はもらえないが、秘宝を乗せる壇は依然として生成されるということなのだろう。
この部屋唯一の物体だったので気になって近づいてみたが、ただ切り出した一枚岩を壇にしているという感じで、細工が施されているわけでも文章が書かれているわけでもない。ただ、この壇の更に奥の壁には先に進めそうな扉があった。
「扉があるよ?」
「それは昇降機だ。乗ると神殿の1階まで戻れる」
迷宮を攻略するとショートカットが開通するようだった。
カイトと手分けをしてこの最後の部屋を探した。探しているのは混沌を倒すための導だ。そのため導または導が隠されている部屋を見つける必要があった。
床や壁は全て触ったし、飛び出ているような部分があればスイッチかと思って全て押してみたがただの突起だった。結局目ぼしいものは何も見つからず、今日は探索を終えることにした。
「あとは天井くらいかな。でも飛行禁止だよね」
箒は神殿に入った途端に没収されていた。
「箒の没収は不正防止のようなものだっただろうから、恐らく試練が終わった後なら大丈夫だと思う。箒以外でも飛べるか?」
「物体に浮遊魔法をかければ飛べるはずだから、リュックの中の物で明日やってみる」
「分かった、頼む」
明日以降の探索は通路部分と第1試練・第2試練の部屋をカイトが担当し、第3試練の部屋とボス部屋を私が探索することになった。
昇降機に乗って神殿の1階まで戻る。昇降機の出入口はどこにあったのだろうかと思っていたが、入口とは反対側の壁にあり、ちょうど大きな像で入口から昇降機の出入口が見えていなかっただけのようだった。
私たちは置いてあったリュックサックから携行食と水を取り出して簡素な食事を摂ると、さっさと毛布に包まって眠りについた。
翌日、カイトと私は別行動でそれぞれ担当する場所を探索することにした。
「気を付けて、何かあったら大きい音出して」
「分かった。カイトの方こそ気を付けてね」
攻略した後は魔物もどきは湧いてこないらしいのだが、通路の罠はそのまま仕掛けられているとのことだった。危険な通路は全てカイトが見てくれることになっているので、全く頭が上がらない。
私は昇降機を使ってボス部屋まで降りて行った。今日は毛布を持参している。魔法の絨毯のようなイメージで毛布に乗ってボス部屋の天井部分と広いトロッコ部屋を調べようと思ったのだ。
「プティシー―飛行せよ―」
カイトの予想通り、試練後は飛行が可能になっていた。恐らく試練前に毛布で飛ぼうとしていたら毛布も没収されていたに違いない。
ボス部屋の天井も昨日同様に隠し部屋などないか色々押してみたが全く何もなかった。一度ボス部屋の探索は切り上げてトロッコ部屋に進むことにする。落下地点の地面を調べ、縦穴の広い空間、炭鉱内とどんどん魔法の絨毯で逆走していきながらくまなく探したものの、それらしいものは何もない。何がスイッチになったりするか分からないので、車線変更のバーも全て切り替えしてみたが無意味だった。
懐中時計を見ると決めていた探索時間を過ぎようとしていたので、今日は諦めて神殿1階に戻ることにした。
「何かあったか?」
「駄目、そっちは?」
「何も」
サリア様含め何組もの探索隊が既にくまなく探しているのだ。覚悟はしていたがそう簡単には見つかりそうになかった。
翌日はカイトと一緒に第1試練・第2試練の部屋の天井部分も調べた。ちなみにカイトと一緒なのは通路の移動に難があるからだ。
「やっぱり駄目、何にも無さそう」
その後も探したが、3日目も成果を上げられないまま終了した。
4日目、私たちはまた一緒にボス部屋を探索することにした。この部屋とトロッコ部屋が一番広く、何かありそうな確率が高そうだからだ。
(イヒネイカ様、他にも何かヒントが欲しいです…)
そんなことを思ってしまう。神殿内で寝たらまた何か夢枕に立ってくれるのではないかと甘い期待もしていたので少し残念である。
「アリサ、少し休憩しよう」
ボス部屋内で2人で小休止することにした。
「正直もう探せるところないよね」
「大分探したからな」
「神殿内の壁全てに魔法を打ち込んでいってみようか?破壊でしか突破できない壁があるのかもしれない」
「仮にも神殿だぞ?罰当たりじゃないか?」
「でもきっと誰もやっていないでしょ?何人も来ているのに見つからないってことは普通にやっていても見つからないんだよ」
「言っていることは分かるが…」
神殿で暴れることにカイトは抵抗感があるようだった。
「あ、俺たち神殿1階はまだ探していない。先にそっち探そう。それで駄目だったら考えよう」
「確かに1階探してなかったね」
(1階にあるあの大きな像破壊したら秘密の入口出てきたりして)
私の思考がどんどん荒んでいくのは見つからないストレスのせいである。
その時、私の目の前を黒いフェアリーが通り過ぎた。そんなことは日常茶飯事ではあったが、何故かそのフェアリーには目が釘付けになった。はじめの頃、お城から抜け出す時に秘密の脱出口を案内してくれたフェアリーも確かあんな動きをしていた。さりげなくも私を見ろというアピールを感じるのだ。
「アリサ?何を見ている?」
「何か気になるフェアリーがいて」
私は我慢できずに立ち上がってその黒いフェアリーの後をついていく。どこに行くのかと思えば、あの壇の下の方をユラユラと低空飛行し始めた。
(まさか…)
俄に緊張していた。でも何か確信があった。
「エピピレオン―浮遊せよ―」
重たい石の壇を持ち上げると、更に地下に続く階段が露わになった。
(この壇は石盤を置いておくだけじゃなくて、秘密の場所への入口だったから必ず生成されていたんだ)
部屋内の構造が変わっても生成されていたとカイトが言っていたが、そういうことだったのかと今更ながら理解した。
カイトが驚愕している。
「まさか本当に見つかるなんて」
「ええ、本当に」
見つけたいという気持ちはあったが、見つかるという自信はなかった。私自身吃驚していた。
「行きましょう」
「待って、その下がどのくらい続くか分からないから、一旦準備をしてからにしよう」
「分かった」
私たちは一度1階に戻って腹ごなしやら何やら万全の準備を整えてから行くことにした。カイトのこの判断は正しかった。何故ならこの下はもう1つの迷宮だったからだ。
次回は明日の12時台に投稿予定です。
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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。
※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。




