89.謎かけ
「きゃああああああああ!!!!!!」
カイトがすぐに私の身体を抱きとめてくれたが、空中に放り出された私たちは遥か下にある地面に向かって一緒に落下していった。正直魔法があるので死にはしないのだが、この落ちる感覚は本当に嫌だ。
「「リスミスティス!!―緩衝となれ―」」
かなり遠くから魔法を放つ。そうでもしないと地面に激突しそうだった。徐々に落下ペースが落ちて行くと内臓が浮くような感覚も消え、ふわりと地面に降り立つことができた。どちらからともなく地面にどさりと座り込み、気が付いたら深いため息を吐いていた。
「本当に、アリサといたら命がいくつあっても足りないよ」
「私のせい!?」
カイトがそんなことを言ってきた。
「この試練内容は入ったどちらかの記憶を元に作られると聞いたことがある」
「ああ、なるほど」
最初の部屋がカイトの記憶だとしたら、探し物とトロッコはきっと私の記憶に違いない。
「ごめんなさい」
「悪い、謝らせたかったわけじゃないんだ。ただ、予想外のことが起こりすぎて…」
緊張の糸が解けたのか、カイトは肩を揺らして笑い始めた。
「本当に、もう、吃驚した」
私は罰の悪い顔を返すことしかできなかった。
カイトの笑いが収まったところで、私は治癒魔法を使った。2人とも大したことはないが、飛来物のかすり傷や打ち身などが身体のあちこちに出来ていた。
「ありがとう。さて、次が最後の部屋だ」
私たちが辿り着いた底には大きな扉があった。まるでボス部屋のようだ。
「もう少し休憩していくか?」
「大丈夫、行こう」
カイトは立ち上がると、座っていた私に手を差し伸べる。もう何度取ったか分からないその手を取って私は立ち上がった。
部屋を開けると、目の前には大きな敵が待ち構えていた。
「スフィンクスだ」
エジプトに鎮座している像が有名なそれは、獅子の身体に人の頭を持つ怪物だ。とても賢く、クイズやなぞなぞを得意とする。
部屋に入るとスフィンクスから話しかけてきた。
「私はスフィンクス。知恵比べをしましょう。私の出す謎かけに全て答えられたらあなた方の勝ち、私はここから消えてなくなります。答えられなかったらあなた方の負け、私のお腹の中に収まってください」
スフィンクスが舌なめずりをする。
(なぞなぞとか苦手なんだよなぁ)
私が尻込みをしている間にカイトが「分かった」とスフィンクスに返事をしていた。
「では第1問。天にあって雲になく、地にあって地形にない。月にはあるが夜にはなくて、太陽にはあるが昼にはない。あるものに共通するのは何?」
(よりにもよってあるなしクイズ!)
一番苦手なクイズだ。天、地、月、太陽には何か共通点があるはずなのだが、それが何か全く分からない。
カイトは顎に手を乗せしばらく考えていたが、やがて口を開いた。
「あるものは二柱が一緒に創造したものだ」
「正解」
スフィンクスは少し悔しそうだった。
(まさか神話から出題されるなんて)
確かに言われてみれば神話の中に出てくるキーワードである。雲、地形、夜と昼は男神メタクシーか女神イヒネイカのどちらかが創造したものとされていた。
(これはカイト頼りになりそう…)
私は既に他力本願を決め込めこもうとしている。
「では第2問。ひ<み<か<つ<か<ひ この法則が成り立つとき、足りないものは何?」
(いや、左右に「ひ」が来ている段階でその法則成り立たなくない?)
それとも最初の「ひ」と最後の「ひ」は別の何かを表しているのだろうか。よく見たら「か」も2回出てきている。わけが分からない。
(戦闘で切り抜けられないかな)
そんな脳筋的な思考が私を襲う。
「アリサ、きちんと考えている?」
「…こういうクイズ苦手なの」
正直に言うと思考を放棄していた。普通の常識問題とかならまだ勝ち目はあったのにと思う。
「最初と最後の「ひ」は同じものを表している。あの法則は円循環が成り立っているんだ」
「もしかしてもう分かったの?」
「多分」
「待って、何か悔しいからもう少し考えさせて」
とは言ったものの、最初と最後の「ひ」が同じだと分かったところで私の固い頭では解けそうになかった。そもそも円循環をするものとは何だ?音階のようなものか?それとも食物連鎖?四季の移り変わり?水の循環?輪廻転生?
「駄目。もう1つ手がかりをくれない?」
「魔法。もう分かると思うけど」
「魔法?」
魔法で円循環の法則?何かあっただろうか。例えば陰陽五行のような…。
「あ!」
「分かった?」
「あれは魔法属性の相性を表しているのね」
「そうだ」
陰陽道で言うところの木火土金水の相剋の関係のように、この世界の魔法属性も例えば火は水に弱く、水は雷に弱いと言ったように相性がある。 ひ<み<か<つ<か<ひ は属性の最初の文字で、火<水<雷<土<風<火 となるわけだ。そして属性魔法でこの法則の中に入らないものといえば。
「足りないものは光属性と闇属性?」
「正解」
スフィンクスが歯ぎしりをしていたが、やがて落ち着きを取り戻すとフフフと笑い出した。
「良いでしょう。あなたは随分とクイズが得意のようですから、私のとっておきを出します」
カイトが勝手に好敵手認定されていた。
(これ以上難易度上げられると私は本当についていけないんだけど)
先ほどの問題でさえカイトからヒントを2つもらってようやく答えたというのに、これ以上難易度を上げられたら最初から諦めるしかないではないか。
「では最終問題。朝は4本足、昼は2本足、夜は3本足で歩く生き物は何?」
(そんな1番有名な謎かけは最初に出してよ!)
私は叫びそうになるのをぐっと堪えた。答えを最初から知っていると言ったら問題を変えられてしまうかもしれない。こんなサービス問題をみすみす逃すわけにはいかなかった。
(でもこんなサービス問題が最終で本当に良いの?)
そう思ってスフィンクスの顔色を伺ったが、なんか凄い得意気だった。怪訝に思って隣にいるカイトを見たら真剣に悩んでいる。私は不思議な光景に目を瞬かせた。
(もしかして、この世界でこの謎かけは浸透していない?)
きっとそういうことだろう。そうでなければ茶番にもほどがある。
私はカイトにそっと耳打ちをした。
「カイト」
「何?」
「私この謎かけの答えを知っている。元の世界では物凄く有名だったから」
カイトは目を見開いた。
「そうなのか?」
「ええ、答えても良い?」
「頼む」
私はスフィンクスに向き直った。
「答えはヒトです」
「正解。な、何故あなたの方が…」
最後まで言い切る前にスフィンクスはすうっと消えていなくなってしまった。
(完全に格下認定されていたわね…)
事実だから別に傷つかないけど。
「何故ヒトなんだ?」
カイトが怪訝な顔をしている。
「朝、昼、夜は1日のことじゃなくて、誕生から死ぬまでの時間経過を表しているの」
「なるほど。赤子が四つん這い、大人になると二足歩行、夜は?」
「老人は杖をつくから3本足ってことらしいわ」
「へぇ。で、何でそんな不満気な顔しているんだ?」
「答えを知っているクイズに正解しても全然釈然としないわ」
何だろうこのモヤッと感は。
「負けず嫌いだなぁ。倒せたんだから良いだろう」
「まぁ」
私は気を取り直して部屋を見渡した。大きなスフィンクスが収まる部屋だったので結構な広さだ。
「大きい部屋」
「時間も時間だから今日はこの部屋だけさっと探して帰ろう」
「分かった」
こうして迷宮を攻略した私たちは導の探索を始めたのだった。
クイズはフワッと雰囲気で作っています。悪しからず。
次回は今日の20時台に投稿予定です。
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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。
※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。




